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OpenAI、GoogleのChromeブラウザ買収に意欲表明 – 40億ユーザーに「AIファースト体験」を提供へ

Y Kobayashi

2025年4月24日

OpenAIのChatGPT製品責任者Nick Turley氏が米国の反トラスト訴訟の法廷で、GoogleがChromeブラウザの売却を強制された場合、同社が買収に乗り出す意向を明確に表明した。「我々は(Chromeの)買収に関心があります」とTurley氏は、GoogleがオンラインでのGoogleによる検索独占に対する救済措置を決定する裁判の中でその意欲を明言しており、AI開発競争とブラウザ市場の未来に大きな影響を与える可能性として、テクノロジー業界の注目を集めている。

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OpenAI幹部、法廷でChrome買収意欲を明言

OpenAIでChatGPTの製品責任者を務めるNick Turley氏が、ワシントンD.C.の連邦地方裁判所で行われたGoogleの独占禁止法裁判の救済策審理において、米国司法省(DOJ)側の証人として証言した。

Turley氏は、もしGoogleがChromeブラウザの売却を強制される事態になれば、OpenAIは買収に関心を持つかと問われ、「はい、我々は買収に関心があります。他の多くの関係者も同様でしょう」と明確に答えたという。

この証言は、Googleがオンライン検索市場における独占的地位を違法に維持したとする判決(2024年8月)を受けた救済策を決定する段階で行われた。Amit Mehta判事が最終的な判断を下すことになる。

Google独禁法裁判とChrome売却の可能性

この裁判は、GoogleがAppleやSamsungなどのデバイスメーカーと結んだ、自社検索エンジンをデフォルト設定とするための排他的契約などが、競争を阻害したかどうかが焦点となった。Mehta判事は昨年、Googleが検索市場で違法な独占を維持していると認定した。

これを受け、米国司法省はGoogleに対し、オンライン検索における競争を回復させるための抜本的な措置を要求。その最も厳しい要求の一つが、世界で最も人気のあるWebブラウザであるChromeの売却である。司法省は、特にAI技術の台頭により、ChromeがGoogleの検索支配力をさらに強化する手段となり得ると主張している。

一方、Google側はこの要求に強く反発している。同社のグローバルアフェアーズ担当プレジデントであるKent Walker氏は、「司法省の提案は裁判所の判決の範囲をはるかに超えており、過激な介入主義的アジェンダだ」とブログ投稿で批判した。Googleは、判決そのものに対しても控訴する方針を示している。

Chromeブラウザは、全世界で30億人以上、あるいは40億人のユーザーを抱え、ブラウザ市場で約66〜67%という圧倒的なシェアを持つとされる。Bloombergのアナリストは、その価値を150億ドル以上と見積もっている。

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OpenAIの狙い:「AIファースト」ブラウザとデータ獲得

では、なぜOpenAIはChromeの買収に関心を示すのだろうか。Turley氏の証言やこれまでの動きから、その狙いは明らかだ。

第一に、Chromeを「AIファースト」な体験を提供するプラットフォームへと変革することである。これは、ChatGPTのような同社のAI技術をブラウザに深く統合し、ユーザーのブラウジング体験そのものをAI中心に再構築することを意味するだろう。現在、ChatGPTはChrome拡張機能として利用可能だが、買収により根本的なレベルでの統合が可能になる。

第二に、Chromeが持つ巨大なユーザーベースへのアクセスだ。数十億人のユーザーに直接リーチできるプラットフォームを得ることは、OpenAIのサービス普及にとって計り知れない価値を持つ。

第三に、膨大なユーザーデータの活用可能性だ。Chromeを通じて得られるユーザーの行動データは、AIモデル、特にユーザーの代わりにブラウザを操作できるような「エージェント型AI」の訓練に非常に有用である可能性がある。ただし、これにはプライバシー上の懸念も伴う。Googleが現在広告目的で閲覧データを利用していることに触れつつ、OpenAIが買収した場合、AIモデル訓練のためにどこまでデータを収集・利用するのか、という疑問も呈されている。

OpenAIは以前、ChatGPTの回答精度向上のため、Googleの検索API(Application Programming Interface:ソフトウェア間で情報をやり取りするための規約)へのアクセスを求めたが、Googleに拒否された経緯がある。Turley氏は法廷で、当時利用していた検索プロバイダー(Microsoft Bingと見られる)の品質に問題があったため、GoogleのAPIを利用できれば「より良い製品をユーザーに提供できる」と考えていたと証言した。Googleがこれを拒否した理由は、「競合が多すぎる」あるいは「Googleの検索におけるリードを損なう」と判断したためと報じられている。この経験が、自社で強力なユーザー接点とデータ収集基盤を持つことの重要性をOpenAIに認識させ、Chrome買収への関心につながった可能性も考えられる。

さらに、OpenAIはすでにChrome開発の初期メンバーであったBen Goodger氏やDarin Fisher氏といった元Googleの著名なエンジニアを雇用しており、自社ブラウザ開発の噂も既に報じられている

業界への衝撃と不透明な未来

もし司法省の要求が通り、GoogleがChromeの売却を命じられ、OpenAIがそれを買収するような事態になれば、テクノロジー業界の勢力図は大きく塗り替わるだろう。

ブラウザはインターネットへの入口であり、検索エンジンや各種オンラインサービスへの誘導、そしてユーザーデータの収集において極めて重要な役割を担う。AI開発で先行するOpenAIが最大のシェアを持つブラウザを手に入れれば、Googleの牙城であった検索・ブラウザ市場における競争環境は激変し、AI開発競争にも大きな影響を与えることは必至だ。

ただし、現時点では多くの不確実要素が存在する。Mehta判事はChrome売却という司法省の要求に対して懐疑的な見方も示していると報じられており、最終的にどのような救済策が命じられるかは不明である。また、Turley氏が「他の多くの関係者」も関心を示すだろうと述べたように、もし売却となれば、他の巨大テック企業なども買収に名乗りを上げる可能性がある。Chromeを独立した企業としてスピンオフさせる案も議論されているが、GoogleはChrome単独での存続は困難だと主張している。

Googleは独禁法違反の判決自体を不服として控訴する構えであり、法的な争いは長期化する可能性もある。OpenAIによるChrome買収は、現時点ではあくまで可能性の一つに過ぎないが、AI時代の到来とともに、インターネットの基盤であるブラウザの戦略的重要性が改めて浮き彫りになった出来事と言えるだろう。今後の裁判の行方に世界中が注目していることは間違いない。


Sources

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