初代Xbox向けのエミュレーター「XPSemu」と、Xbox 360向けの「PS5X360」が公開され、改造済みのPlayStation 5(PS5)でXboxの旧作ゲームを動かせるようになった。開発者からは『Halo 2』や『Forza Motorsport』などの実機動作が報告されており、PS5X360でもゲームの読み込みや描画に関する問題の修正が進んでいる。ただし、どちらもPC向けの既存エミュレーターをPS5に移植した開発途中のソフトウェアであり、一般のPS5にXboxとの互換機能が追加されたわけではない。また、解像度を高く設定できても、ゲームが滑らかに動くとは限らない。実用性を左右するのは、XboxのCPUを再現する際の処理負荷と、ゲームが必要とするシステム機能をどこまで正確に再現できるかという点だ。
PS5で初代XboxとXbox 360を再現、共通のVulkan基盤が移植を可能に
XPSemuは初代Xboxのエミュレーター「xemu」を、PS5X360はXbox 360のエミュレーター「Xenia Canary」をベースに開発されている。
対象とするゲーム機の世代が異なるため、再現するハードウェアや内部の仕組みも別々だ。つまり、一つの新しいエミュレーターがXboxの全世代に対応したわけではない。
| プロジェクト | 対象ゲーム機 | ベースとなるエミュレーター | PS5側の描画基盤 |
|---|---|---|---|
| XPSemu | 初代Xbox | xemu | Vulkan/RADV |
| PS5X360 | Xbox 360 | Xenia Canary | Vulkan/RADV |
XPSemuでは、初代XboxのCPU命令をQEMUのTCG JITによって実行時に変換し、NV2Aと呼ばれるGPUをxemuのVulkan描画機能で再現する。
一方、PS5X360の基礎となるXeniaでは、Xbox 360が採用していたPowerPCの命令を中間表現へ変換し、最適化したうえで実行先のCPUが処理できるコードを生成する。これはXeniaのCPUに関する技術文書でも説明されているJIT(実行時コンパイル)の仕組みだ。
両プロジェクトに共通する重要な技術が、PS5のGPUでVulkanを利用するための「RADV」である。
Mihawk-99氏が公開したPS5_Vulkanは、Mesaに含まれるAMD製GPU向けのオープンソースVulkanドライバー「RADV」をPS5へ移植したものだ。PS5固有のメモリ管理やGPUコマンドの送信、画面出力などを担当する。
これにより、既存のエミュレーターが使用するVulkanの描画処理を、PS5のGPUへ接続できるようになった。
今回の移植を可能にしたのは、エミュレーターそのものの改良だけではない。異なるソフトウェアから共通して利用できる描画基盤が整備されたことも、大きな要因となっている。
もちろん、PS5上で動作させるには描画機能だけでなく、コントローラー入力や音声出力への対応も必要だ。
XPSemuでは、PS5のDualSenseをXboxのコントローラーとして扱えるようにし、音声出力もPS5の機能へ接続している。
ここで注意したいのは、「PS5のネイティブアプリとして動作する」という表現の意味だ。
PS5上で直接実行されるのはエミュレーターであり、その内部でXboxのハードウェアや実行環境を再現している。Xbox向けゲームがPS5用のソフトウェアに変換されたわけではない。
『Halo 2』は30 FPSで動作、『Forza Motorsport』はレース中に18〜25 FPSへ低下
XPSemuのAlpha 2では、初代Xbox向けの複数のゲームが実際に動作している。
開発者が公開した互換性情報によると、『Halo 2』は標準設定で30 FPSを維持する一方、『Forza Motorsport』ではレース中に18〜25 FPSまでフレームレートが低下する。
同じPS5を使用していても、ゲームの種類や場面によって動作状況は大きく異なる。
| ゲーム | XPSemu Alpha 2で報告された動作状況 |
|---|---|
| 『Halo 2』 | 標準設定では30 FPS。60 FPSパッチ適用時は冒頭で51〜60 FPS、ゲームプレイ中は36〜50 FPS |
| 『Forza Motorsport』 | メニューや導入部分では上限の30 FPS。レース中は18〜25 FPS |
| 『Fable: The Lost Chapters』 | 多くの場面で22〜30 FPS。負荷の高い場面では10〜20 FPS |
数値は2026年10月13日時点で公開されている、開発者自身のPS5 Fatでのテスト結果に基づくものだ。第三者が統一した条件で実施したベンチマークではなく、ゲーム全体の動作性能や、最後まで問題なくプレイできることを保証するものでもない。
また、『Halo 2』の60 FPSパッチ適用後の数値と、『Forza Motorsport』の標準設定での数値を、そのまま比較することもできない。
開発者によると、XPSemuではXboxのCPUを再現するスレッドが85〜97%の時間稼働している一方、PS5のGPUには大きな余力が残っているという。
これはPS5全体のCPU使用率が85〜97%に達しているという意味ではない。XboxのCPU命令を変換・実行する処理がボトルネックとなり、GPUの性能を十分に活用できていない状態を示している。
そのため、描画解像度を上げてもフレームレートが大きく低下しない場合がある。
XPSemuは、内部解像度を480p相当の1倍から最大4倍まで引き上げられる。GPUに処理能力の余裕があれば、解像度を高くしてもフレームレートへの影響を抑えられる。
しかし、GPUに余力があることと、CPU側のボトルネックが解消されることは別だ。
古いゲームをより鮮明な画面で楽しめる可能性はあるものの、解像度を上げたり下げたりするだけで、『Forza Motorsport』のレース中のフレームレートが安定して30 FPSに達するわけではない。
『Halo 2』でも、60 FPSパッチを適用すると冒頭部分では51〜60 FPSを記録する一方、実際のゲームプレイ中には36〜50 FPSへ低下している。
起動直後や比較的負荷の軽い場面で滑らかに動作していても、戦闘やレースなど処理負荷が高まる場面で同じ性能を維持できるとは限らない。
ゲームが起動すること、プレイ可能な状態まで進めること、そして最後まで快適に遊べることは、それぞれ異なる評価基準なのだ。
Xbox 360の再現では、CPUやGPUだけでなくシステム機能への対応も重要
Xbox 360向けのPS5X360でも、ゲームの互換性を高めるための修正が続いている。
特に重要なのが、CPUやGPUの処理そのものではなく、スレッドの同期やファイル操作、ネットワーク機能など、ゲームが利用するシステム機能の再現だ。
例えば、PS5X360 v0.5.7-fix.1のリリースノートでは、『Left 4 Dead 2』で発生していた読み込み停止の問題が修正されたと報告されている。
原因は、ゲーム側のスレッドが自ら停止しようとするタイミングと、外部から停止・再開を指示されるタイミングが重なり、処理を再開するための通知が失われることだった。
開発者はスレッドの同期処理を修正し、自身のPS5で読み込み問題が解消されたことを確認している。
さらに、v0.6.0のリリースノートでは、複数のゲームに関する問題への対応が報告されている。
『I Am Alive』では、ファイルの読み込み完了を知らせる通知が待機中のスレッドに届かない問題が修正された。
『State of Decay』では、ゲームが要求したローカルネットワークのポートをPS5側で利用できなかったため、別のポートを使用するように変更した。
また、『Bully』では、多数のファイルを同時に開いた際に利用可能なファイルハンドルが不足する問題に対処している。
こうした修正は、エミュレーターの互換性を高めるうえで欠かせない。
ゲームを正しく動作させるには、元のゲーム機のCPU命令やGPUの描画処理を再現するだけでは不十分だ。スレッドの停止と再開、ファイルの読み書き、各種システムサービスへのアクセスなども、ゲームが期待する動作にできるだけ近づける必要がある。
一方、v0.6.0で導入されたフレーム生成機能は、こうした互換性の改善とは目的が異なる。
PS5X360は、FSR3の光学フロー技術を利用する「ps5-framegen」に対応し、ゲームが実際に生成したフレームの間に補間画像を挿入できるようになった。
フレームレートが一定ではない場合にも対応する設計で、画面上の動きを滑らかに見せる効果が期待される。
ただし、フレーム生成はゲーム本体の処理速度を高める技術ではない。
表示する画像を増やすことはできても、ゲーム内部の演算や入力処理そのものが高速化されるわけではない。また、フレームレートが不安定な状態では補間画像の割合が増えるため、動きの速い場面で映像がにじむ可能性もある。
このため、フレーム生成機能は初期設定では無効になっている。
PS5実機で確認された機能と、まだ検証されていない機能
PS5X360の開発状況を評価するうえでは、どの機能が実機で確認済みなのかを区別する必要がある。
v0.6.0のリリースノートによると、開発者が2026年10月11日に実機テストを行ったのは、ファームウェア13.60のPS5で動作する「0.5.9-updates.5」というビルドだった。
公開されたv0.6.0の実行ファイルそのものは、リリース前にPS5実機で起動されていない。
ただし、開発者は、v0.6.0はランチャーのバージョン表示を変更した以外、コンパイル済みのプログラム部品はテスト済みビルドと同一だと説明している。
そのため、主要な機能については実機で確認した結果があるものの、公開パッケージをそのまま検証した結果ではない点に注意が必要だ。
実機テストでは、『Grand Theft Auto IV』が33〜59 FPSで動作し、ゲームプレイ中の約97〜99%のフレームでフレーム生成が有効になったと報告されている。
『Bully』でも22〜25 FPSで動作する場面において、ほぼすべてのフレームでフレーム生成が機能したという。
一方、v0.6.0には実機での検証が完了していない機能も残されている。
例えば、ゲームのタイトル更新データを管理する機能は追加されたものの、実際の更新データを使ったテストは行われていない。確認に使用されたのは、試験用に作成したパッケージに限られる。
フレーム生成の3倍・4倍モードや120 Hz出力についても、PS5実機では未検証だ。
また、『Fable II』と『Bayonetta』では、コントローラーのボタン入力に反応しない問題が残されている。
ゲームを起動できても、入力が正しく処理されなければプレイを進めることはできない。
こうした事情から、機能がソフトウェアに実装されたことと、実際のゲームや周辺機器で正常に動作することは、分けて判断する必要がある。
PS5X360の互換性に関する文書でも、PC環境で問題の再現や修正を確認した結果と、PS5実機でのテスト結果を区別して記録している。
ゲームのメニュー画面に到達しただけでは、ゲーム全体が正常に動作するとはいえない。更新頻度の高い開発版だからこそ、どのバージョンで何が確認されたのかを正確に把握することが重要になる。
ゲームの保存と互換性向上には、動作条件の記録が欠かせない
XPSemuとPS5X360は、どちらも一般的なPS5でそのまま利用できるソフトウェアではない。
利用するには、非公式アプリを実行できるようにしたPS5が必要となる。
XPSemuでは、利用者が自身の初代Xboxから用意したMCPX起動ROMとBIOSに加え、XISO形式のゲームイメージを使用する。
一方、PS5X360も、すでに非公式アプリを実行できる環境が整っていることを前提としている。開発者はファームウェア13.60のPS5を使用し、etaHEN、ShadowMountPlus、kstuffなどを組み合わせて動作を確認している。
PS5X360ではXbox 360のBIOSを別途用意する必要はない。
どちらのプロジェクトもゲームデータは同梱しておらず、利用者が必要なデータを自身で用意する必要がある。
こうした制約を考えると、今回の成果は一般のPS5利用者がすぐに利用できる公式の後方互換機能とは異なる。
それでも、PC向けに開発されてきたxemuやXeniaの成果をPS5へ移植できたことには、技術的な意義がある。
既存のエミュレーターが対応するハードウェアの種類が増えれば、古いゲームを動作させるための選択肢も広がる。また、共通のVulkan描画基盤を再利用できれば、新しい環境へ移植するたびにGPUとの接続部分を一から開発する負担を減らせる。
こうした取り組みをゲームの長期保存につなげるには、単に「動作したゲーム」の名前を増やすだけでは不十分だ。
どのバージョンのエミュレーターを使い、どのファームウェアや設定で、ゲームのどの場面まで正常に動作したのかを記録する必要がある。
両プロジェクトでは動作ログを保存でき、PS5X360は不具合の報告時にゲームのバージョン、適用したパッチ、PS5のファームウェア、問題が発生した場面などの情報を求めている。
こうした情報がそろっていれば、別の利用者や開発者が同じ問題を再現し、修正後に改善されたかどうかを確認しやすくなる。
PC向けのxemu公式FAQでも、互換性リストでプレイ可能とされるゲームが、エミュレーターのバージョンやゲームデータ、キャッシュの状態などによって正常に動作しない場合があると説明されている。
さらに、オンラインサービスに依存するゲームについては、別の課題も残る。
PS5X360の互換性に関する文書では、Xbox LiveやEAのオンライン認証が実装されていないことが明記されている。
例えば、ゲームのパッケージ画像をインターネットから取得できたとしても、それはゲームのオンライン認証や通信機能が正常に動作することを意味しない。
ゲームの映像を表示できるようになっても、オンラインサービスを必要とするタイトルまで完全に再現できるとは限らないのだ。
今後の進展を判断するには、同じゲームのバージョンと設定を使い、負荷の大きい場面や長時間のプレイでも安定して動作するかを確かめる必要がある。
コントローラー入力やタイトル更新、ゲーム内の保存機能などについても、実機での検証を積み重ねることが欠かせない。
今回のXPSemuとPS5X360の登場は、PS5上でXboxの旧作を動かす新たな可能性を示した。ただし、ゲームが起動する段階から、安定して最後まで遊べる段階へ進むには、まだ多くの検証と改良が必要だ。
動作条件や不具合の修正履歴が蓄積され、誰もが同じ結果を再現できるようになれば、こうした非公式エミュレーターは、過去のゲームを将来に残すための技術としても価値を高めていくだろう。



