原子力スタートアップOkloがデータセンター最大手のSwitchとの間に、小型モジュール原子炉(SMR)業界における過去最大規模の取引となる基本合意を結んだ。この非拘束的な合意は、2044年までに総計12ギガワットの電力供給を目指す巨大で野心的なものだ。
OkloとSwitchによる契約の概要と意義
本契約は、Switchのデータセンターインフラを支える大規模な電力供給構想として注目を集めている。Okloが開発するAurora Powerhouseは、金属燃料を利用する高速中性子炉で、初期段階では15メガワットの出力からスタートし、その後50メガワットまでの増強を計画している。この段階的な出力増強アプローチにより、運用経験を積みながら安全性と効率性を確保することが可能となる。
契約の特徴的な点は、その長期的な視野にある。2044年までという20年超の期間設定は、Oklo社にとって財務モデルの確立と、インフラ整備のための十分な時間的余裕を提供する。SwitchのRob Roy CEOは、この提携について「世界最先端のデータセンターインフラストラクチャを現在および将来の顧客に提供するため、画期的な規模で先進的な原子力発電を導入する取り組み」と位置付けている。
具体的な電力供給は、一連の長期電力購入契約(PPA)を通じて実施される計画だ。これにより、Google、NVIDIA、Tesla、PayPal、JP Morgan Chaseといった大手テクノロジー企業が利用するSwitchのデータセンターに、安定的な電力供給が可能となる。特筆すべきは、この契約が単なる電力供給にとどまらず、プロジェクトの進捗に応じて個別の拘束力のある契約を締結するというフレームワークを確立している点である。
OkloのJacob DeWitte CEOは、この契約の重要性について「開発から展開、そしてスケーリングまで、Switchと共に進化できる機会となる」と述べており、早期の発電所建設を加速させるだけでなく、今後数十年にわたる顧客需要を実証する機会としても捉えている。さらに、この契約はアイダホ国立研究所で計画されている初号機の建設にも弾みをつけることが期待されている。同研究所ではすでに、Aurora燃料製造施設の概念安全設計報告書が米国エネルギー省(DOE)の承認を受けており、高濃縮度低濃縮ウランを利用した燃料製造の準備が進められている。
市場における位置づけと課題
Okloの市場における足場固めは、2024年に入って急速に進展している。Equinixとの500メガワット契約を皮切りに、Prometheus Hyperscaleとの100メガワット契約、さらに2件の非公開事業者との750メガワット契約と、わずか1年で合計14ギガワット超の顧客パイプラインを構築することに成功した。この急速な契約締結の背景には、急増するデータセンターの電力需要と、持続可能なエネルギー源への移行という産業界全体の要請が存在している。
しかし、この成長軌道の前には複数の重要な課題が立ちはだかっている。最も重要なのは規制対応だ。2022年に原子力規制委員会(NRC)によって却下された前回の申請の経験を踏まえ、同社は2025年に新規申請を予定している。この新たな申請では、2024年から施行される新法制が審査プロセスを迅速化することへの期待がある。しかし、NRCの審査は通常長期化する傾向にあり、前回の申請では提出から却下まで約2年を要した。この期間には申請書類の準備期間は含まれていない。
市場競争の観点からも、時間との戦いは深刻さを増している。競合のKairosはすでにNRCの承認を取得し、Googleとのデータセンター向け電力供給契約を締結している。さらに、再生可能エネルギーセクターからの競争圧力も無視できない。太陽光、風力発電、そして大規模蓄電池のコストは継続的に低下傾向にある。実際、Googleは先週、200億ドル規模の再生可能エネルギープロジェクトを発表し、その第一フェーズは2026年には運用開始予定という、Okloの計画を上回るスピード感を示している。
加えて、Okloは2023年後半に米空軍との1億ドル規模のマイクロリアクター契約を失うという挫折も経験している。この一連の状況は、小型モジュール原子炉(SMR)市場における競争の激しさと、技術的・規制的なハードルの高さを如実に示している。2027年の初号機運転開始という野心的な目標の達成には、規制対応の成功に加えて、競合他社や代替エネルギー源との差別化が不可欠となるだろう。
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