LGが、スマートテレビによる会話の常時録音を否定した。9月12日に公開した声明では、音声操作中に周囲の声が認識結果へ入る場合はあるとしつつ、家庭内の会話を継続的に録音・送信する仕組みではないと説明している。一方、視聴内容を識別し、同意に応じて分析や広告に利用する機能は存在する。テレビのプライバシーを考えるうえでは、この二つを区別したうえで、設定を切るとデータの収集から利用、保存までのどこが止まるのかを確かめる必要がある。
HDMIに替えても残る視聴識別
テレビの内蔵アプリを使わず、外付けの再生機器やパソコンをHDMIでつなぐ。それでも、テレビ側が視聴内容を識別する場合がある。自動コンテンツ認識(ACR)は、番組や広告の特徴を取り出し、既知のコンテンツと照合する技術だからだ。テレビに映す手前の機器を替えても、表示するテレビ自体の機能は残る。
識別に使う情報はメーカーによって異なる。LGの説明では、内部の音声処理から照合用の特徴データであるフィンガープリントを作る。これはマイクで部屋の会話を拾う音声認識とは別の処理だ。対してRokuの米国向け案内は、画面の画素の一部から特徴データを作り、番組やゲーム、広告のカタログと照合すると説明する。カタログにない個人動画などは一致しないとしている。
つまり、ACRを「見ている画面を丸ごと録画して送る機能」と一括りにするのは不正確である。ただし、映像そのものを送らなくても、照合に成功すれば何を見ていたかは分かる。生の映像を保持するかどうかと、視聴行動が分かるかどうかは別の問題だ。
企業の説明とは別に、通信を調べた研究もある。ACMの国際会議IMC 2024に掲載されたスマートテレビのACRに関する論文は、SamsungとLGのテレビを英国と米国で調べ、HDMI接続時にもACR関連の通信を観測した。アカウントからログアウトしても、通信の挙動に実質的な変化はなかったという。
一方、研究者がテレビで選べる広告・追跡関連の設定をまとめて拒否すると、特定済みのACRドメインとの通信は観測されなくなった。新たなACR関連ドメインも見つからなかった。設定による拒否に効果があった点も、この研究の結果である。
ただし、これは暗号化された通信を復号せずに調べた、当時の対象機器での観測だ。個々の送信内容や、2026年の全モデルでの動作を保証するものではない。広告設定を一つ切るだけで足りるとも、テレビの通信がすべて止まるとも結論できない。
広告を切る、収集を止める、履歴を消す
RokuはACRを無効にできると案内する一方、有効だった間に集めたり利用したりしたデータは、その後も保持すると明記している。「これから集めない」という操作で、過去の履歴まで消えるわけではない。
視聴データの収集停止、広告利用の制限、過去データの削除は、それぞれ別に確認する必要がある。 各社の公表内容を、設定が作用する対象で分けると違いが見える。
| 公式説明の対象 | 選べる操作・同意 | 説明されている効果 | 別に確認したいこと |
|---|---|---|---|
| LGのACR提供地域・対応機種 | 視聴情報への同意と、関心に基づく広告への追加同意 | ACRを当該広告へ使うには両方の同意が必要 | 広告の同意だけでなく、視聴情報の同意・ACR自体の設定 |
| Rokuの米国向けACR案内 | ACRを設定から無効化 | 機能を停止できるが、有効時に取得・利用したデータは保持 | 過去データの削除方法と対象 |
| ソニーの日本向け該当FAQ | 「同意する(ソニーグループ外第三者の利用を除く)」 | 通常の同意とテレビの使用上は変わらず、グループ外の第三者利用を除ける | ソニーによる収集・利用への同意は別に判断 |
出典:LG声明、Rokuサポート、ソニーサポート。2026年9月時点で確認した説明を、収集・利用・保持の区別に沿ってまとめた。地域や対象機種が異なるため、安全性を順位づける比較ではない。
LGの追加の広告同意を断る操作と、Rokuで過去に集めた情報を消す操作は、解決する問題が違う。ソニーの第三者利用を除く選択も、データ収集全体を止める選択ではない。プライバシー設定という同じ名前の画面でも、何を許可し、何を断るのかを読み分ける必要がある。
また、LGとRokuはACRを初期状態では無効と説明している。この説明を確認する際にも、購入後のセットアップで自分が何に同意したかは別に確かめたい。初期状態についての説明だけでは、いま手元のテレビで有効になっている機能は分からないからだ。
テレビを売った後にも収益が続く
テレビの視聴情報には、広告を誰に届け、その効果をどう測るかという事業上の用途がある。WalmartがVIZIOの買収完了を発表したのは2024年12月3日で、買収額は約23億ドルだった。Walmartは当時、広告事業が中心のVIZIOのPlatform+部門が、同社の粗利益のすべてを占めると説明していた。
ここでいう粗利益は、売上高や最終的な純利益とは異なる。また、Platform+の利益をすべて視聴データの販売益と読み替えることもできない。それでも、テレビを販売した後に続く広告事業が、買収の狙いとして明示されていたことは確かだ。Walmartは、自社の広告事業Walmart Connectとの組み合わせを説明している。
日本にも、視聴データを広告の分析に使う事業がある。ソニーマーケティングの2024年12月2日の発表は、ブラビアで同意を得て取得した視聴情報に広告配信用の識別子などを結び付け、統計化して利用すると説明していた。当時の対象は350万台超。テレビCMの広告配信サービス「BROAD+」では、そのデータを出稿効果の分析にも活用するという。
これは、海外で問題になったACRと同じ方式が日本の全機種で動くという証拠ではない。まして、会話の無断録音を示すものでもない。分かるのは、日本のテレビ利用者にも、視聴情報の収集と広告への利用について同意を判断する場面があるということだ。
画面に広告が出るかどうかだけを見ても、視聴情報の使われ方は判断できない。ソニーの説明のように、広告を出す側が放送枠を選び、出稿効果を調べるためにもデータは使える。自分のテレビに広告を表示する機能と、自分の視聴が広告分析へ使われることは、必ずしも同じではない。
日本の利用者が確認する場所
ソニーの前掲FAQでは、プライバシーポリシーに「同意しない」を選んでもテレビ放送は視聴できる一方、AirPlayなどの機能は使えないと説明している。グループ外の第三者利用だけを除く選択なら、通常の同意と使用上は変わらない。全面的に同意するか、テレビを使うのを諦めるかという二択にはなっていない。
この案内が自分の機種に当てはまるかを確認したうえで、必要な機能と、許可するデータ利用を選ぶのが現実的だ。外付け機器で動画を見る場合も、テレビ本体に残る視聴情報の設定を見ておきたい。前述の研究が示すように、ログアウトやHDMIへの切り替えだけではACRを止める操作にならない場合がある。
LGの声明も、ACRが提供されない市場では関連データを収集・処理しないとしている。海外向けの設定名や機能を、日本で販売される全製品に当てはめることはできない。視聴内容の識別を止めたいのか、音声操作を使いたくないのかによって、確認する同意項目も変わる。
同意の示し方は、すでに是正の対象にもなっている。テキサス州司法長官は2026年5月11日、LGとの和解を発表した。州当局の説明では、視聴データの収集・利用をテレビ上のポップアップで説明し、分かりやすい拒否手段を設けることなどが合意に含まれる。これは米国の州の事例であり、日本への適用や、録音疑惑全般についての司法判断を意味しない。
メーカーが機能を「任意」と説明するなら、利用者が収集を止める選択と、広告利用だけを断る選択を見分けられる画面が求められる。さらに過去の情報を消したい人には、削除できる対象と手順まで示されて初めて、購入後のデータ利用を選ぶ手段がそろう。



