宇宙の形状について日頃考えることはあまりない。しかし、筆者と同僚は、宇宙が非対称、すなわち方向によって同じではない「偏った」構造を持つ可能性があることを示唆する新たな研究を公表した。

これを気にすべきだろうか。今日の「標準宇宙論モデル」(宇宙全体のダイナミクスと構造を記述するモデル)は、宇宙が等方的(あらゆる方向で同じに見える)であり、さらに大スケールで平均すれば一様である、という仮定の上に成り立っている。

しかし、いくつかのいわゆる「テンション(tensions)」、すなわちデータ間の不一致が、宇宙が一様であるという考えに挑戦している。

筆者らは、このテンションの中でも最も重要なものの1つである「宇宙双極子異常(cosmic dipole anomaly)」を扱った論文を公表した。筆者らは、宇宙双極子異常が、宇宙の最も広く受け入れられている記述である標準宇宙論モデル(Lambda-CDMモデルとも呼ばれる)に対して深刻な挑戦を突き付けていると結論付けた。

では、宇宙双極子異常とは何であり、なぜ宇宙を精密に記述しようとする試みにとって大きな問題となるのか。

まずは、ビッグバンの名残の放射である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)から始める。CMBは、全天にわたって10万分の1の精度で一様だ。

このため宇宙論研究者は、Einsteinの一般相対性理論における「最大対称」な時空の記述を用いて宇宙をモデル化できると考えている。宇宙がどこでも、どの方向でも同じに見えるというこの対称的な宇宙観は、「FLRW記述」として知られている。

これはEinstein方程式の解を大幅に単純化し、Lambda-CDMモデルの基盤となっている。

しかし、重要な異常はいくつか存在し、その中には「Hubbleテンション」と呼ばれる、広く議論されているものも含まれる。これは、1929年に宇宙が膨張していることを発見したとされるEdwin Hubbleにちなむ名称である。

このテンションは2000年代に、主としてHubble宇宙望遠鏡のデータ、そしてGaia衛星の近年のデータなど、異なるデータセットから浮かび上がってきた。これは宇宙論における不一致であり、初期宇宙から推定される宇宙膨張率の測定値が、近傍(より近年の)宇宙から得られる測定値と一致しない、という問題である。

宇宙双極子異常はHubbleテンションほど注目されてこなかったが、宇宙理解にとってはより根本的である。では、それは何なのか。

CMBが大スケールで対称であることが確立された後も、ビッグバン由来のこの残光にはゆらぎがあることが見いだされてきた。その中でも特に重要なものの1つが「CMB双極子異方性(dipole anisotropy)」である。これはCMBにおける最大の温度差であり、空の片側がより高温で、その反対側がより低温になっている。差はおよそ1000分の1である。

宇宙マイクロ波背景放射はビッグバンの残光である。ESA/Planck Collaboration

CMBにおけるこのゆらぎ自体は、宇宙のLambda-CDMモデルに対する挑戦にはならない。しかし、他の天文学データにも対応するゆらぎが見つかるはずである。

1984年、George EllisとJohn Baldwinは、電波銀河やクエーサーなど、遠方天体の空での分布にも同様のゆらぎ、すなわち「双極子異方性」が存在するかどうかを問いかけた。ここで天体は十分に遠方でなければならない。近傍天体があると、見かけ上の「クラスタリング双極子(clustering dipole)」を作り出してしまう可能性があるためである。

「対称な宇宙」というFLRWの仮定が正しければ、遠方天体の分布におけるこのゆらぎは、観測されるCMBのゆらぎによって直接決まるはずである。これは天文学者にちなんでEllis-Baldwinテストとして知られている。

CMBと物質におけるゆらぎが整合していれば、標準的なLambda-CDMモデルを支持することになる。一方で不一致があれば、Lambda-CDMモデルだけでなく、FLRW記述そのものに直接異議を唱えることになる。このテストは非常に精密であるため、実行に必要なデータカタログが利用可能になったのはごく最近である。

物質とCMBの双極子は一致しない。方向は整合している(上段)が、振幅は整合していない(下段)。Secrest et al., Reviews of Modern Physics 97(2025)041001

結論は、宇宙がEllis-Baldwinテストに合格しない、というものである。物質のゆらぎはCMBのゆらぎと一致しない。望遠鏡と衛星では誤差の要因が大きく異なり、さらに観測波長帯によっても異なる。こうした状況にもかかわらず、地上の電波望遠鏡と、中間赤外で観測する衛星の双方から同じ結果が得られることは、心強い点である。

このように宇宙双極子異常は、標準宇宙論モデルに対する主要な挑戦として確立された。それにもかかわらず、天文学コミュニティーはこれを概ね無視してきた。

その理由は、おそらくこの問題を簡単に「つぎはぎ」する方法が存在しないからである。必要なのはLambda-CDMモデルの放棄にとどまらず、FLRW記述そのものを捨て、出発点に戻ることである。

一方で、EuclidやSPHERExのような新しい衛星、Vera Rubin ObservatoryやSquare Kilometre Arrayといった望遠鏡群から、雪崩のようなデータが得られると見込まれている。機械学習と呼ばれる人工知能(AI)の一分野における近年の進展を活用することで、新たな宇宙論モデルをどのように構築すべきかについて、近い将来に大胆な洞察が得られる可能性がある。

その影響は、基礎物理学に対しても、そして宇宙理解に対しても、真に計り知れないほど大きいだろう。


本記事は、オックスフォード大学名誉教授 Subir Sarkar氏によって執筆され、The Conversationに掲載された記事「The universe may be lopsided – new research」について、Creative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、翻訳・転載しています。