東北大学と英ケンブリッジ大学の研究チームが、光による発電と蓄電を一体化した「光蓄電池」で、疑似太陽光の照射下において約1 Vの光電圧を得ることに成功した。材料を層状に重ねて電荷の通り道を分けることで、光によって生じた電子と正孔の再結合を抑え、従来の混合型電極では失われていたエネルギーを電圧として取り出す設計だ。東北大学の下川航平助教らによる査読済み論文は10月13日に『Nano Letters』で公開され、同大学が翌14日に研究成果を発表した。ただし、蓄電性能を確かめた実験では外部から電圧を加える「光アシスト充電」を用いており、太陽光だけで動作する自律電源の実現には、発生した光電圧を持続的な充電へ結び付けることが課題となる。
光照射で増える電池容量、その原因は何か
電池に光を当てて取り出せる電気量が増えたとしても、その増加分が光から直接蓄えられたとは限らない。光によって電池の温度が上がるだけでも内部の化学反応が速まり、それまで取り出しにくかった電気量を回収できる場合がある。そのため、光蓄電池の性能を評価するには、単なる加熱効果と、光によって電荷が分離され、充電反応が進む効果を区別する必要がある。
この問題を検証したのが、今回の研究にも参加しているArvind Pujari氏らによる2023年の研究だ。五酸化バナジウムとリチウムマンガン酸化物を光電極として使用し、温度を制御しながら測定したところ、標準的な太陽光を模した照射による容量増加の大部分が、熱効果で説明できることが分かった。この研究結果は特定の材料系について得られたものだが、光照射後の容量増加だけでは、光によって実際に充電されたかどうかを判断できないことを示している。
Pujari氏らはさらに、2024年の研究で、色素を利用した光電極と電位の異なる負極を組み合わせ、電子の受け渡しに必要なエネルギー条件を調べた。光蓄電池が機能するには、光を吸収するだけでなく、励起された電子が電池の充電反応を進められるエネルギー準位にあることが重要になる。電位の組み合わせが適切でなければ、満充電後に副反応が加速する場合もある。つまり、光を吸収してから電気を蓄えるまでには、電荷の生成と分離、適切な電位での電極への受け渡しという複数の過程があり、いずれかで損失が生じれば蓄電性能は低下する。今回の研究は、このうち電荷の再結合による損失を、材料の配置を工夫することで抑えようとしたものだ。
電子と正孔の通り道を分ける積層構造
研究チームは、水溶液を電解液とする亜鉛イオン電池をモデルに、光吸収と蓄電を担う材料の配置が異なる3種類の電極を比較した。東北大学が公開した詳細な発表資料によると、それぞれの構造で得られた代表的な光電圧は次の通りだ。
| 電極の構造 | 材料の役割と配置 | 報告された光電圧の目安 |
|---|---|---|
| 混合型 | 色素を載せた酸化チタン、亜鉛・マンガン酸化物、炭素を混合 | 約0.01 V |
| 二機能型 | 酸化第一銅の薄膜が光吸収と蓄電の両方を担う | 約0.1 V |
| 積層型 | 色素増感太陽電池の構造に電荷輸送層と蓄電層を組み込む | 約1 V |
3種類はいずれも同じ電解液と疑似太陽光装置で評価されているが、測定する端子や電極の状態まで完全に統一されているわけではない。また、二機能型では使用材料も異なるため、表の数値だけで構造の優劣を単純に比較することはできない。一方、混合型と積層型には同じ蓄電用活物質と色素が使われており、両者の比較は材料の配置が性能に与える影響を見極めるうえで重要となる。研究チームは原著論文の図1と本文で、こうした測定条件や材料構成の違いを踏まえて各電極の特徴を説明している。
混合型では、光によって励起された電子と、電子が抜けた状態である正孔が、蓄電反応に利用される前に再び結び付きやすい。この再結合が起きると、電荷が持っていたエネルギーは熱として失われる。材料の粒子を混ぜ合わせて電極を作る方法は製造しやすい反面、電子と正孔をそれぞれ異なる方向へ効率よく運ぶ経路を確保しにくいという問題がある。
これに対し、積層型では固体型の色素増感太陽電池に蓄電機能を組み込み、電子と正孔が別々の経路を通るように設計している。色素が光を吸収して生じた電子は、酸化チタンの電子輸送層を経由して透明導電膜へ取り出される。一方、正孔は導電性高分子のPEDOTを介して亜鉛・マンガン酸化物の蓄電層へ移動し、酸化反応を進める。電子と正孔の移動経路を分離することで、両者が再結合する機会を減らす仕組みだ。
ただし、材料を層状に重ねるだけで再結合を抑えられるわけではない。色素、電荷輸送層、蓄電材料のエネルギー準位が適切に対応していなければ、電荷の移動が途中で妨げられてしまう。今回の積層構造では、光によって生じた電荷を分離する界面だけでなく、その先の蓄電反応まで円滑に電荷を運ぶ経路も考慮している。材料の選択と配置を組み合わせ、光電変換から蓄電までの流れを一体として設計したことが、約1 Vという光電圧につながった。
約1 Vの光電圧と光アシスト充電の測定条件
積層型で得られた約1 Vは、外部に電流を流していない状態で測定した「開回路電圧」である。研究チームは、活性面積が約1.0 cm²の装置を使い、標準的な太陽光を模した1-sunの照射条件で性能を評価した。電解液を導入する前には約1.0 Vの開回路電圧が得られたが、電解液を入れると太陽電池モードでの電圧は約0.7 Vに低下した。さらに、暗所で事前に充放電を行った後の光電圧は約0.6 Vとなり、電極の状態によって得られる電圧が変わることも確認された。
今回の装置では、光電極、亜鉛負極、中間の裏面電極という3つの端子を、測定目的に応じて使い分けている。太陽電池としての性能を調べる際には光電極と裏面電極を接続し、光アシスト充電では光電極と亜鉛負極、暗所での放電では裏面電極と亜鉛負極を接続する。この構成によって、発電部分で生じる電圧と、蓄電反応を進める際の電圧を区別して測定できる。
| 積層型で測定した項目 | 報告値 | 測定条件 |
|---|---|---|
| 太陽電池モードの開回路電圧 | 約1.0 V | 1-sun照射、電解液導入前 |
| 電解液導入後の光電圧 | 約0.7 V | 太陽電池モード |
| 暗所で事前に充放電した後の光電圧 | 約0.6 V | 充放電後の光照射時 |
| 光アシスト充電で蓄えた電気量 | 約60 mAh/g | 外部から1.2 Vを印加し、5時間照射 |
ここで重要なのは、約1 Vの光電圧と約60 mAh/gの蓄電容量が、異なる条件で得られた値だという点だ。前者は太陽電池モードで測定した開回路電圧であり、後者は外部から1.2 Vを印加しながら5時間光を照射する「光アシスト充電」で得られた容量である。外部印加電圧は亜鉛の析出・溶解に対応するZn²⁺/Znの電位を基準としており、容量は蓄電用活物質の質量当たりで示されている。したがって、約60 mAh/gという数値は、装置全体で60 mAhの電気を蓄えたことを意味するものではない。
研究チームは、光アシスト充電で蓄えた電気を暗所で取り出せることも確認した。別の測定では、約1時間の光アシスト充電によって約40 mAh/gを蓄えた後、暗所で約34 mAh/gを回収している。放電は20 mA/gの定電流で行い、電位がZn²⁺/Zn基準で1.2 Vに達するまで続けられた。このとき、充電した電気量に対する放電量の割合を表すクーロン効率は約85%となり、放電開始時の電位が約1.6 Vと外部印加電圧を上回ったことも、著者らは光起電力が蓄電に寄与した証拠と位置付けている。
一方、入射した光のエネルギーをどれだけ化学エネルギーとして蓄えられたかは、クーロン効率とは別の指標で評価する必要がある。著者らは、外部印加電圧を上回って蓄えられた出力エネルギーを基に、太陽光から化学エネルギーへの変換効率を約0.015%と算定した。つまり、約85%は充放電でやり取りした電気量の比率であり、約0.015%は光エネルギーを蓄電に変換する効率を表している。両者は測定対象も意味も異なり、クーロン効率の高さをそのまま光蓄電池全体のエネルギー効率と捉えることはできない。
自律電源の実現に向けて残る課題
今回の積層型光蓄電池では、光アシスト充電の電流が照射直後の約1.0 mAから、数分で半分程度まで低下する現象が確認された。研究チームは、充電が進むにつれて蓄電層の電位が上昇し、正孔を注入するためのエネルギー差が小さくなることが原因と説明している。実際に、放電すると光電流が回復することも確認された。これは、光を吸収して電荷を生み出す部分と、充電状態によって電位が変化する蓄電部分を一体化したことで生じる課題だ。約1 Vの光電圧が得られても、充電電流が短時間で低下してしまえば、長時間光を照射しても十分なエネルギーを蓄えられない。原著論文でも、約0.015%という低い変換効率の主な原因として、光充電中の電流低下が挙げられており、充電が進んでも電荷を効率よく受け渡せる材料と構造の開発が求められる。
耐久性についても、今回の実験で確認された範囲を正確に捉える必要がある。研究チームは数週間にわたり、必要最小限の電流・電圧測定と電池の開回路電圧の追跡を行い、積層した発電部分と蓄電部分の接触状態が保たれるかを調べた。ただし、これは主に界面の静的な安定性を確かめる試験であり、充放電を繰り返した際の寿命を実証したものではない。亜鉛電極では、金属亜鉛が樹枝状に成長して短絡を引き起こす可能性もあり、実際の運転条件でどの程度安定して動作するかは、今後の検証課題となる。
東北大学は、今回の技術を配線や中間部品の削減につなげ、小型センサーやウェアラブル機器などに応用することを見込んでいる。しかし、その実用化には、外部から電圧を加えずに光だけでどれほどのエネルギーを蓄えられるかを示すとともに、充放電を繰り返した際の性能と耐久性を確認する必要がある。今回の成果は、電荷の通り道を分離する積層構造によって、光蓄電池の電圧損失を抑えられることを示した点に意義がある。今後、充電が進んでも電流を維持できる材料と構造が開発されれば、光を受けながら必要な電力を蓄える一体型電源の実用化に近づくことになる。
