東北大学は2026年10月21日、半導体の先端パッケージングとヘテロ集積化を推進する研究開発コンソーシアム「T-CHIPS」の発足を発表した。複数の半導体チップを積層したり、異なる機能を持つチップを組み合わせたりする技術について、材料・装置メーカーなどの企業と共同で研究開発を進める取り組みだ。大学が保有する研究設備を企業が活用できるよう相談窓口を設け、研究成果の産業界への展開と、企業が抱える技術課題の研究への反映を目指す。新たな組織の発足によって企業の研究開発がどう変わるのか、その具体像は各施設の役割と利用条件から見えてくる。

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研究設備の企業利用を支援するT-CHIPS

T-CHIPSの中心となるのは、科学技術振興機構(JST)の「次世代エッジAI半導体研究開発事業」で、「エッジAI半導体を実現する3Dヘテロ集積技術」プロジェクトに取り組む東北大学の研究者らだ。研究代表者は同大学大学院医工学研究科の田中徹教授が務める。このプロジェクトには、東北大学のほか、民間企業7社と3大学が参加して共同研究開発を進めている。ただし、これは既存の研究プロジェクトの参加規模であり、新たに発足したT-CHIPSの会員数を示すものではない。

東北大学が今回のコンソーシアムを立ち上げた背景には、大学の研究成果を企業へ展開するだけでなく、企業が将来必要とする技術を研究開発の方向性に反映させたいという狙いがある。既存の共同研究先にとどまらず、新たな企業との接点を増やし、研究成果の活用先や新しい研究課題を広げることを目指す。連携先としては、半導体の材料・装置メーカーに加え、設計や製造を手がける企業も想定している。

そのためにT-CHIPSが担うのは、主に2つの機能だ。1つは、企業の開発課題に適した研究拠点や研究者を紹介する「コンシェルジュ機能」で、もう1つは研究会や報告会を通じた技術交流と人材育成である。東北大学の詳細発表によると、これまで主に共同研究を通じて企業が利用してきた研究設備について、コンソーシアム経由でも利用できるようにする方針だ。具体的には、装置や部材の開発に必要なテストウェーハの作製、新材料を使った半導体製造プロセスの実証などを想定している。完成した半導体デバイスを評価する企業だけでなく、製造工程を支える材料や装置を開発する企業にも、大学の研究設備を活用する機会を広げる考えだ。

半導体の積層・異種チップ集積を試作で検証

先端パッケージングとは、製造した半導体チップを配線基板などに実装し、複数のチップを積層・集積することで、高度な半導体デバイスを構成する技術だ。シリコンウェーハ上にトランジスタや配線を形成する前工程に対し、製造したチップをどのように接続し、1つのデバイスとして機能させるかを扱う後工程に位置づけられる。半導体の高性能化が進むなか、単一のチップだけでなく、複数のチップを効率よく組み合わせる技術の重要性が高まっている。

一方、ヘテロ集積化は、異なる種類の半導体チップや材料を組み合わせる技術を指す。例えば、演算を担うプロセッサーとメモリに、光通信などを担うシリコンフォトニクスのチップを組み合わせる構成が考えられる。また、微細な機械構造を持つMEMS(微小電気機械システム)や、シリコンと化合物半導体といった異なる材料を集積する技術も対象となる。機能や製造プロセスの異なる部品を組み合わせるため、単にチップを接続するだけでなく、加工精度や接合方法、実装後の特性なども検討しなければならない。

こうした技術の開発には、実際の材料やデバイスを使った試作と検証が欠かせない。新材料を開発する企業であれば、その材料を既存の半導体製造プロセスで扱えるか、必要な加工や接合が可能かを確認する必要がある。製造装置を開発する企業にとっても、装置の性能や加工精度を検証するためのテストウェーハを用意できる環境が重要になる。T-CHIPSが掲げるテストウェーハの作製支援や新材料を用いたプロセス実証は、こうした企業の開発課題に対応するものだ。

従来の研究成果を企業に紹介するだけでなく、企業が解決したい問題を大学の研究設備で実際に検証し、必要に応じて共同研究へ発展させることが期待される。ただし、今回の発表は、こうした活動を進めるための組織と支援方針を示したものであり、新しい半導体チップの性能や量産性を実証したという発表ではない。今後、企業の具体的な開発課題がどのような試作や分析につながるかが、取り組みの成果を判断する材料となる。

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SIRC、GINTI、NanoTerasuで異なる設備と利用条件

T-CHIPSが企業の利用を支援する研究拠点には、東北大学のスマートシステム超集積化研究開発センター(SIRC)や、宮城県名取市の三次元スーパーチップ製造拠点(GINTI)がある。マイクロシステム融合研究開発センター(μSIC)も対象に含まれており、放射光施設NanoTerasuについては、東北大学の利用枠を活用した共同研究を支援する。各施設は対応するウェーハのサイズや研究設備、分析方法が異なるため、企業は開発内容に応じて適切な拠点を選ぶ必要がある。

T-CHIPSの公式サイトに掲載された施設案内を基に、主要3施設の役割と利用方法を整理すると次のようになる。

研究拠点 主な設備・対応範囲 公式案内に記載された利用方法
SIRC(東北大学・青葉山) 設計から微細加工、接合、実装まで対応。小片チップから4インチウェーハまで扱う 原則として東北大学の研究室を経由。コンソーシアム経由の利用は今後対応する方針
GINTI(宮城県名取市) 200 mm・300 mmウェーハに対応する研究開発用試作ライン。デバイス試作や新材料のプロセス実証が可能 福島研究室または田中徹研究室が窓口。コンソーシアム経由の利用は今後対応する方針
NanoTerasu(東北大学・青葉山新キャンパス) 放射光を利用した材料分析や製造プロセスの評価 東北大学の研究室との共同研究を通じ、大学のコアリション枠で試用する機会を設ける

この比較は、2026年10月時点の公式案内を基に、各施設の対応範囲と利用方法を整理したものだ。設備の性能や費用対効果の優劣を示しているわけではない。SIRCは小片チップから4インチウェーハまでの加工・接合・実装、GINTIは200 mm・300 mmウェーハを使った試作、NanoTerasuは放射光による分析・評価というように、それぞれ異なる役割を担う。

例えば、300 mmウェーハを使ったデバイスの試作を検討する企業であれば、公式案内で対応が確認できるのはGINTIだ。SIRCが対応する4インチウェーハとはサイズが異なるため、同じ設備で代替できるとは限らない。また、NanoTerasuの利用は東北大学との共同研究を通じた仕組みであり、T-CHIPSの会員になれば自由に施設や装置を使えるというものではない。各施設の利用目的だけでなく、どのような手続きや研究体制が必要になるかも確認する必要がある。

東北大学が今回示したのは、これらの研究拠点をコンソーシアム経由で利用しやすくしていく方針だ。ただし、公式サイトには従来の研究室を通じた利用窓口も案内されており、コンソーシアム経由での設備利用がすべて開始されているわけではない。企業が利用を検討する際には、対象となる材料やウェーハのサイズ、必要な加工・分析内容などを整理したうえで、適切な施設と利用手続きを相談することになる。

2026年度の会費は無料、設備利用料は別途確認が必要

T-CHIPSの法人会員の会費は、1口当たり年額20万円に設定されている。会費の適用期間は毎年4月1日から翌年3月31日までだが、発足初年度に当たる2026年度は無料となる。また、大学や独立行政法人などに所属する教員・研究員を対象とした学術会員も、会費は無料だ。

入会に当たっては、法人会員は申込書を事務局に提出し、運営委員会の審査を受ける必要がある。学術会員については、役員の推薦が必要となる。ただし、2026年度の会費無料という措置は、研究設備の利用料まで無料になることを意味するものではない。入会条件と個別施設の利用条件は別であり、設備利用料や予約方法、共同研究に必要な手続きなどは、それぞれ確認する必要がある。

会員間の交流については、研究会や講演会を年4回開催する計画が公式サイトに示されている。半導体クリエイティビティハブ(S-Hub)と連携した人材育成にも取り組むほか、仙台地域の東北マイクロテックやメムス・コアなどとの連携も進める方針だ。研究設備の利用支援に加え、研究者と企業が技術課題や開発ニーズを共有する機会を設けることで、新たな共同研究や技術開発につなげることを目指している。

2026年12月4日には、東京の室町三井ホール&カンファレンスでキックオフミーティングを開催する予定だ。参加には事前申込が必要で、会議への参加費は無料、懇親会は会費制となっている。参加を検討する企業にとっては、コンソーシアムの活動方針や研究設備の利用方法について情報を得る機会となる。特に、装置利用料や予約方法、共同研究の条件など、今回の発表だけでは分からない実務的な内容がどこまで明らかになるかが注目される。

T-CHIPSの成果を判断するうえで重要なのは、企業から寄せられた開発相談が、実際にどの研究設備を使った試作や分析につながるかという点だ。先端パッケージングやヘテロ集積化では、材料、装置、設計、製造など幅広い技術が関わるため、個々の企業が必要な設備や専門知識をすべて自社でそろえることは容易ではない。T-CHIPSを通じて開発課題に適した研究設備や研究者へアクセスしやすくなれば、企業が新材料や製造技術を検証する選択肢が広がる。今後は、施設ごとの利用条件がどこまで具体化し、実際の試作や共同研究に結びつくかが焦点となる。