米国で計画されている化石燃料火力発電所は、予定どおり稼働すれば、2030年に運転を開始する新設電源の約7割を占める可能性がある。ただし、本稿では、2030年に稼働予定の化石電源には、運転開始が計画より遅れるリスクが大きいとみる。米国の環境NGO、Environmental Defense Fund(EDF)とAtlas Public Policyは2026年10月13日、2026〜30年に完成予定の化石電源が68GWに達し、半年前の47GWから45%増加したと報告した。一方、GridLabの2025年9月時点の集計では、新設のガス複合火力発電所の多くは早くても2030〜31年まで運転を開始できず、建設費も1kWあたり2,000ドル以上に上昇している案件がある。

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「新設電源の7割」は何を基準にした比率なのか

EDFとAtlas Public Policyの報告によると、2026年第2四半期時点で米国の開発中の発電設備(計画段階または建設中の設備)は約285GWに上る。計画中の化石電源は2016年以来の高水準に達し、開発中の発電設備全体の約30%を占める。2026〜30年に完成する見込みの化石電源は約68GWで、そのほぼすべてが天然ガス火力だ。

報告は、電源計画が化石燃料火力に傾いている背景として、政策の影響を挙げている。一部の地域では、電源の種類ごとに供給力として評価する割合を固定的に定めるルールが導入され、電力会社がこれを根拠にガス火力の計画を増やしているという。また、米エネルギー省は緊急命令によって、合計3.2GWの石炭火力発電所に運転継続を指示している。

ここで注意したいのは、「約7割」という数字の意味だ。これは開発中の発電設備全体に占める割合ではなく、計画どおりに2030年に運転を開始する新設設備の定格出力に占める化石電源の割合を指す。開発中の設備全体に占める化石電源の割合は約30%である。報告によると、新たに運転を開始した設備容量に占める化石電源の割合は2010年に約70%で、2010〜19年は毎年30%以上だったが、2024年には5%まで低下した。つまり、2030年の約7割という数字は、計画が実現すれば2010年の水準に戻ることを意味する。ただし、2010年の数字が実績であるのに対し、2030年の数字はあくまで計画に基づく予測だ。

今回の集計には、米エネルギー情報局(EIA)の月次データ「EIA-860M」に開発事業者が届け出た運転開始予定が使われている。ただし、2030年に運転開始を予定する案件が、必要なガスタービンをすでに確保しているかどうかは、このデータから判断できないと報告自身も認めている。また、送電網に接続しない自家発電設備は集計対象外であり、タービンの供給制約や大規模需要家の電力需要が予測どおりに増えるかどうかも、計画の実現を左右する。EIAによれば、2026年に新設が予定されている発電設備は過去最高の86GWに達するが、天然ガス火力は6.3GWにとどまる。これは2026〜30年を対象とする化石電源68GWとは集計期間が異なるため、直接比較はできないものの、化石電源の新設計画が2020年代後半に集中している可能性をうかがわせる。

三菱重工の新規受注は2028〜30年納入、建設費は1kWあたり2,000ドル以上に

大型ガスタービンを確保しても、すぐに発電所を稼働できるわけではない。メーカーは正式な受注に先立ち、将来の製造枠を確保するための予約契約を結ぶ場合がある。その後、正式受注と製造、納入、据え付け、発電所の建設を経て、ようやく運転開始に至る。したがって、ガスタービンの納入年と発電所の運転開始年は異なり、運転開始は納入よりも後になる。

GridLabの2025年9月時点の集計では、新設のガス複合火力発電所の多くは、早くても2030〜31年まで運転を開始できない。EDFとAtlas Public Policyが新設電源の約7割を化石電源が占めると予測した2030年は、こうした発電所が稼働を始められる最も早い時期に当たる。

三菱重工は2026年4〜6月期に受注した大型ガスタービン10台(米国向け4台、日本向け6台)について、おおむね2028〜30年に納入すると説明している。さらに、商談中のガス複合火力発電(GTCC)向け案件については、納入時期を2030〜31年としている。納入後には据え付けや建設が必要になるため、2030年以降にタービンが納入される案件が、同年中に運転を開始するのは難しい。ただし、これらは三菱重工が2026年8月のQ&Aで説明した受注済み案件と商談中案件の納期であり、米国で計画されているすべての発電所に当てはまるわけではない。また、GE Vernovaが公表する生産能力も世界全体を対象としており、米国向けの割当量は明らかになっていない。主要メーカーの生産計画と発電所の運転開始見通しを整理すると、次のようになる。

時期 開示・計画の内容 出典
2026年第3四半期 GE Vernovaのガスタービン年産能力が20GWに達する見通し GE Vernova決算(2026年7月22日)
2028年 GE Vernovaが年産能力を24GWに拡大する計画 同上
2028〜30年 三菱重工が2026年4〜6月期に受注した大型ガスタービン10台の納入予定 三菱重工(2026年8月)
2030年 計画どおりなら新設電源の約7割が化石電源。GE Vernovaは年産能力30GWへの拡大に向けた措置を実施中 Atlas Public Policy/EDF(2026年10月13日)、GE Vernova
2030〜31年 新設ガス複合火力の多くが運転を開始できる最も早い時期。三菱重工が商談中とする案件の納入予定 GridLab(2025年9月)、三菱重工

こうして時系列で見ると、三菱重工が商談中の案件に設定している2030〜31年という納入時期は、2030年の運転開始には間に合いにくい。仮に2030年に運転を開始する化石電源が計画に近い規模で実現するとすれば、それを支えるのは、すでにガスタービンの製造枠を確保している案件が中心になると考えられる。

供給制約に加え、発電所の建設費も上昇している。GridLabの2025年9月時点の集計では、2026〜27年に運転開始を予定するガス複合火力発電所の建設費が1kWあたり1,116〜1,427ドルだったのに対し、最近のガス複合火力案件では2,000ドル以上に達している。これを比較すると、建設費の上昇率は少なくとも約40〜79%となる。具体的には、2,000÷1,427−1で40.2%、2,000÷1,116−1で79.2%となり、2,000ドルは「以上」とされているため、上昇率も下限値として解釈する必要がある。

ただし、これは運転開始が近い案件と最近の案件を比較したものであり、同じ発電所の建設費が値上がりしたことを意味するわけではない。また、金額は運転開始年の名目ドルで示されているため、上昇率には運転開始年の違いによる影響も含まれる。仮に1GWの発電所を1kWあたり2,000ドルで建設すると、総額は20億ドルになる。2026年10月16日のECB参照レート(1ドル=158.02円)で換算すれば、約3,160億円だ。建設費が上がれば、事業者が計画を見直したり、運転開始を先送りしたりする圧力は強まるものの、現時点で計画の中止が増えていることを示す数字はない。

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データセンター需要の予測は約25GW過大な可能性

供給面だけでなく、発電所を必要とする電力需要の見通しにも不確実性がある。Grid Strategiesの2025年版報告書は、主に電力会社が米連邦エネルギー規制委員会(FERC)へ提出したデータを集計し、一部の地域については送電計画の数値で補正したうえで、今後5年間の最大電力需要が166GW増加すると予測した。このうち約90GWをデータセンター需要が占める。しかし、市場アナリストの予測と比較すると、電力会社によるデータセンター需要の見積もりは約25GW、割合にして約40%過大である可能性がある。

EDFとAtlas Public Policyの報告も、発電所の新設計画がガス火力に傾いた理由の一つとして、データセンターなどによる電力需要の増加予測を挙げている。もし実際の需要が予測を下回れば、それを前提にした化石電源の建設計画も、縮小や先送りを迫られる可能性がある。ただし、Grid Strategiesが示した需要予測の過大分25GWと、Atlas Public Policyが集計した化石電源68GWは対象や集計方法が異なるため、単純に差し引いて必要な発電設備容量を求めることはできない。

計画の実現性に疑問を投げかけるデータはほかにもある。Global Energy Monitorの2026年8月の分析によると、米国で開発中のガス火力発電設備は半年で50%増加し、378GWに達した。一方、世界全体の開発中ガス火力案件の約3分の2と、データセンター向け案件の半数以上では、タービンやエンジンの製造元が明らかにされていない。同団体のJenny Martos氏は、実現性の乏しい構想と実際に建設される可能性がある計画を見分けることは、今やほぼ不可能だと指摘している(原文:"It is nearly impossible nowadays to guess what is a pie in the sky proposal, and what has a real chance of getting built.")。なお、Global Energy Monitorの378GWは開発中のガス火力全体を対象とした数字であり、2026〜30年に完成予定の設備を集計したAtlas Public Policyの68GWとは範囲が異なる。

タービンの増産やガスエンジンへの転換で供給制約は解消するのか

2030年の化石電源の運転開始が遅れるという見立てに対しては、ガスタービンの生産能力が急速に拡大しているという反論がある。GE Vernovaのガス発電設備の受注残と製造枠の予約契約を合わせた規模は、直近の四半期に100GWから116GWへ増加しており、同社は2026年末までに125GW以上に達すると見込んでいる。三菱重工の伊藤社長も2026年5月、ガス複合火力発電(GTCC)向け設備の出荷台数を2028年度に現行能力比で30%以上増やし、その後さらに50%以上の増強を図ることで、2024年度の約2倍まで拡大する構想を示した。

開発事業者の間では、大型ガスタービンの供給を待つ代わりに、レシプロエンジン(ガスエンジン)を採用する動きも広がっている。Global Energy Monitorによると、データセンター向けに開発中のレシプロエンジンを使った発電設備は、半年で3倍以上の45GWに増加した。さらに、送電網に接続しない自家発電設備はEIAの集計に含まれないため、実際に新設される化石電源の規模が、2030年の約7割という予測に反映されている規模を上回る可能性もある。

もっとも、生産能力の拡大が進んでも、受注や製造枠の予約はそれを上回るペースで積み上がっている。GE Vernovaの受注残と予約契約の合計116GWを、2026年第3四半期に到達する見通しの年産能力20GWで割ると5.8年分、2028年に計画している年産24GWで割っても約4.8年分に相当する。つまり、受注済みの設備と予約された製造枠だけで、単純計算では約5年分の生産能力が必要になる。ただし、これは正式受注と予約契約を区別せず、世界全体の数字を使って計算した概算であり、実際の納入待ち期間を示すものではない。また、米国向けにどれだけの生産能力が割り当てられるかも公表されていない。

こうした数字から、GE Vernovaに新たに発注される設備は、2030年より後の納入となる可能性が高いと考えられる。一方、三菱重工が商談中とする案件の納入時期は2030〜31年であり、2030年も含まれるため、GE Vernovaと同じようには判断できない。また、レシプロエンジンへの転換は化石電源の供給量を増やす可能性があるものの、EIAの計画データに含まれる大型ガス複合火力とは異なる設備構成による対応である。

もう一つの反論は、太陽光発電や蓄電池は建設期間が短いため、2030年に運転を開始する案件がまだ計画データに十分反映されておらず、結果として化石電源の割合が高く見えているというものだ。しかし、EDFとAtlas Public Policyはこの見方を退け、電源の種類によって開発期間に大きな差はなく、クリーン電源にも2030〜31年の運転開始を見込む案件が多いと説明している。ただし、その根拠となる開発期間は、業界団体や国立研究所による推定値である。

計画の中止率を見ても、現時点では化石電源の方が低い。2025年初めに計画されていた化石電源51.6GWのうち、中止されたのは1.5GW(2.9%)だったのに対し、クリーン電源は281.7GWのうち13.1GW(4.7%)が中止されている。少なくとも現時点の実績では、化石電源の計画が特に中止されやすいとはいえない。ただし、ここで問題にしているのは、計画中のガス火力発電所が最終的に建設されるかどうかではなく、予定された年に運転を開始できるかどうかだ。建設計画が維持されていても、タービンの納入や工事の遅れによって運転開始が後ろ倒しになる可能性は残る。

この見立てを検証するうえで、最も注目すべきなのは、2027年中に公表されるメーカーの決算情報だ。特に三菱重工が、現在2030〜31年としている商談中のガス複合火力向け案件の納入時期を、それより前に繰り上げれば、供給制約が想定以上に緩和していることを示す材料になる。その場合、2030年に運転を開始する化石電源が、現在の計画に近い規模で実現する可能性は高まる。また、GE Vernovaについても、受注残と予約契約の合計を年産能力で割った年数が、現在の約5年分からどれほど短縮されるかが重要な指標となる。

日本への影響にも注目する必要がある。三菱重工が2026年4〜6月期に受注した大型ガスタービン10台のうち6台は日本向けであり、米国と日本の発電所計画が同じメーカーの製造能力を利用している。ただし、米国の需要増加によって日本向け設備の納入が遅れているかどうかは、現在の同社の開示からは判断できない。三菱重工は2028年度にGTCC向け設備の出荷能力を30%以上増やす計画を掲げ、GE Vernovaも2030年に年産30GWへ拡大するための措置を進めている。こうした増産策が実際の納入時期をどこまで前倒しできるのか、そして2030年の発電所稼働計画を支えられるのかが、2027年の決算で確認すべき焦点となる。