AIデータセンター開発会社Crusoeが、Boom Supersonicの天然ガスタービン「Superpower」29基を導入する計画を取りやめた。TechCrunchが2026年9月25日、Boom CEOのBlake Scholl氏によるXへの投稿とCrusoe広報への取材を基に報じた。計画されていた発電能力は合計1.21GWに達し、TechCrunchによれば契約規模は12億5,000万ドルだった。
ただし、CrusoeがAbileneのデータセンター建設を中止したわけでも、天然ガスによる自家発電をやめたわけでもない。同社はGE Vernovaから約1GW分の発電設備を発注し、Bergen Enginesとも契約を結んでいる。今回起きたのは電力確保計画そのものの撤回ではなく、採用する設備や供給企業の見直しだ。
むしろ影響が大きいのはBoomだ。BoomはSuperpowerの量産開始と実際の運転データの蓄積、さらにそこで得る収益による超音速旅客機「Overture」の開発支援を、この大型案件を足掛かりに進めようとしていた。
12億5,000万ドル規模の計画はどこまで白紙になったのか
Boomは2025年12月、CrusoeをSuperpowerの最初の顧客として発表した。1基当たりのISO定格出力は42MWで、29基を合わせると1.21GWになる。Boomは、設備が輸送用コンテナ程度の設置面積に収まり、水を使わず、外気温が華氏110度を超えても定格出力を維持できると説明していた。最初の納入は2027年に始まる予定だった。
今回終了したのは、Crusoeへの初回納入を前提とした提携だ。Scholl氏はXで、SuperpowerがCrusoeのAbileneなどで今後整備される電源設備の主要構成から外れたため、提携を続ける意味がなくなったと説明した。CrusoeもTechCrunchに対し、現在Boomとは取引関係になく、拠点ごとにガスタービン、風力、太陽光、蓄電池、電力網から適切な組み合わせを選ぶと答えている。
ただし、契約金額の解釈には注意が必要だ。TechCrunchは、Crusoeが29基に12億5,000万ドルを支払う計画だったと報じている。一方、Boomの公式発表ではSuperpower事業全体の受注残を「12億5,000万ドル超」としており、それがすべてCrusoeとの契約を指すとは明記されていない。
契約解除の条件や違約金、すでに支払われた金額なども公表されていない。このため、12億5,000万ドル全額がそのままBoomの確定売上から失われたと断定することはできない。
Crusoeはガスタービンをやめたわけではない
Crusoeは、データセンターごとの役割や条件に応じて電源構成を変えている。OracleとOpenAI向けに建設した既存のAbilene拠点では、最終的に8棟、1.2GW規模への拡張を計画している。CrusoeはTechCrunchに対し、この拠点では天然ガスタービンを非常用・予備電源として使い、通常時の主電源には電力網を利用すると説明した。
一方、隣接地でMicrosoft向けに開発する900MW規模の拠点は設計が異なる。2棟のデータセンターに専用のオンサイト発電所を組み合わせ、最初の建物を2027年半ばに稼働させる計画だ。Crusoe CEOのChase Lochmiller氏は2026年3月の発表で、900MWの新たなオンサイト発電設備を統合すると述べている。
CrusoeはBoomによる1.21GW分の導入計画を取りやめる一方で、GE Vernovaから航空機エンジンをベースとしたガスタービン29基、合計約1GW分を確保している。さらにBergen Enginesとは、発電機セット438MW分を契約し、追加で310MW分について基本合意を結んでいる。
つまり、天然ガスによる自家発電そのものから撤退するのではなく、採用する設備の種類や供給企業、契約内容を見直している。
| 供給企業・設備 | 公表容量と構成 | 公表時点の状況 | 時期・用途 |
|---|---|---|---|
| Boom Superpower | 29基、1基42MW、合計1.21GW | Crusoeへの初回導入計画は終了 | 当初は2027年から納入開始予定 |
| GE Vernova LM2500XPRESS | 29基、1基約35MW、合計約1GW | 10基を2024年12月、19基を2025年6月に受注 | Crusoeのデータセンター向け。約5分で始動し、選択触媒還元装置を搭載 |
| Bergen Enginesの発電機セット | 契約済みは12.5MWe×27基と5MWe×20基で約438MW。さらに310MW分を基本合意 | 438MW分は契約済み、310MW分は基本合意 | 米国の複数拠点へ2027年まで段階的に納入し、24時間稼働の常用電源として利用する計画 |
この表は、公表されている設備方式、容量、契約状況、導入時期を整理したもので、価格や発電効率を直接比較するものではない。Boomの1.21GW分はすでに終了した計画であり、Bergen Enginesの310MW分も現時点では正式契約ではない。また、設備の構成や設置先も異なるため、三者の容量を同じ確度のものとして単純に合計することはできない。
それでもCrusoeの方針は明確だ。実績のある航空機転用型ガスタービン、常用運転向けのガスエンジン、電力網、蓄電池などを、各拠点の稼働時期や用途に合わせて組み合わせる。まだ初号機が完成していないSuperpowerが当面の電源候補から外れても、自前で電力を確保する戦略そのものは変わっていない。
Boomが失ったのは大型受注だけではない
BoomにとってCrusoeの29基は、単なる大型の発電設備受注以上の意味を持っていた。Superpowerは、Overture向けに開発している航空機エンジン「Symphony」と、高圧圧縮機や高圧タービンなどの中核部分を共有する。発電用のSuperpowerでは、航空機用のファンの代わりに追加の圧縮機段と出力タービンを備え、天然ガス用の燃料ノズルを使用する設計だとBoomは説明している。
Boomには大きく三つの狙いがあった。
まず、1.21GWという大口注文を足掛かりにSuperpowerの量産体制を立ち上げることだ。同社は2025年12月時点で、年間2GWの生産能力を実現するための設備を発注していると説明していた。
次に、データセンターでタービンを長時間運転し、Symphonyと共通するエンジン中核部の信頼性に関するデータを蓄積する。そして三つ目が、Superpower事業から得る利益をOvertureの認証や機体開発に充てることだった。
資金調達も、この事業構想と結びついていた。BoomはSuperpowerの発表と同時に3億ドルを調達し、その資金によってSymphonyの開発費をすべて賄えると説明していた。さらに将来的には、発電事業から継続的に得られる収益で航空機開発を支える構想を示していた。
最初の大型顧客を失ったことで、Boomは売上機会だけでなく、量産体制の立ち上げ、長時間運転によるデータ収集、発電事業からの収益確保を同時に進める当初の計画を見直す必要が出てくる。
ただし、地上でガスタービンを長時間運転した実績が、そのまま航空機エンジンの認証試験の代わりになるわけではない。Boomが示しているのは、共通部品の信頼性を高めながら製造能力も整えるという事業上の構想だ。規制当局が地上運転で得たデータを航空機エンジンの認証でどこまで利用できると認めるのかは、今回確認できた資料からは分からない。
また、2026年に予定されていたエンジンコアの試験完了や、Superpowerの量産設備が実際に稼働しているかどうかも、現時点では公表資料から確認できない。
次の焦点は2027年に予定する「約250MW」
Scholl氏はCrusoeとの提携終了を認める一方で、Boomは2027年に別の拠点へ約250MW分のSuperpowerを納入し、2028年には1GW規模を目指すと述べている。42MW機で単純計算すると、250MWは約6基分に相当する。
ただし、この「250MW」は概数として示されたものであり、顧客名や正式契約済みの基数、設置場所、納入条件などは明らかにされていない。現時点では、確定した受注とBoomが掲げる納入目標を区別して見る必要がある。
BoomがCrusoeとの契約終了後もSuperpower事業を予定通り立ち上げられるかどうかは、今後発表される具体的な顧客契約、Symphonyのエンジンコア試験、Superpower初号機の運転開始、そして実際の年間生産量によって判断できる。
2027年に約250MW分が実際に稼働すれば、Boomは顧客を変えながらもSuperpowerの量産と実地運転を進められる。一方、それが予定通り進まなければ、発電事業の収益によってOvertureの開発を支えるという構想についても、資金計画や開発スケジュールの見直しが必要になる可能性がある。



