吉利汽車集団(Geely Auto Group)は2026年9月23日、AIによる充電制御と電池の「パルス修復」を組み合わせた「Geely Smart Charging」を発表した。同社は、急速充電を繰り返した場合でも、電池のサイクル寿命を20%延ばせるとしている。
充電時間の短縮を競うだけでなく、急速充電を繰り返した電池の劣化をどう抑えるかにも踏み込んだ技術だ。
ただし、電池の劣化を抑えることと、すでに失われた容量を取り戻すことは同じではない。Geelyがいう「修復」が具体的に何を意味するのかは、同社の説明と関連研究を分けて見る必要がある。
AIが温度を先読みし、充電方法も変える
Geely Smart Chargingの中核となるのが、AI企業StepFunと共同開発したエネルギー管理モデル「Xingrui PowerMind」だ。
車両や電池の状態に応じて、充電電流や冷却の強さ、充電時間などを調整する。車両だけでなく、充電設備や蓄電設備まで含めて管理する仕組みだ。
吉利の発表によると、AIは最大30秒先の電池温度を予測する。
温度が上がってから充電出力を抑えるのではなく、過熱する前に充電電力や冷却を調整する狙いがある。充電中の平均温度を55℃未満、最高温度を65℃未満に抑える設計で、充電設備から車載電池まで液冷を利用する。
さらに同社は、微弱なパルス状の電流を利用し、急速充電を繰り返すことで負極側に蓄積したリチウムを再び反応に利用できる状態へ戻す技術を開発したと説明している。
一定の電流を流し続けるのではなく、細かな電流の変化を与えることで電池内部の状態を改善する考え方だ。
ただし、パルスの波形や周波数、処理に必要な時間などは今回の発表では明らかにされていない。
充電速度も大幅に引き上げた。
第5世代充電器のピーク出力は2,250kW。同社がLynk & Co 10とZeekr 001向けの電池を使って行った試験では、残量10%から70%まで4分30秒、97%まで8分40秒で充電できたとしている。電池側のピーク充電レートは12Cだ。
Cは、電池容量に対してどれだけ大きな電流で充放電するかを示す倍率だ。
ただし、ピーク12Cという数字だけから実際の充電時間が決まるわけではない。2,250kWという充電器の最大出力が、充電開始から終了まで車両へ流れ続けるわけでもない。
実際の待ち時間を比べるには、充電開始時と終了時の残量をそろえた実測値を見る必要がある。
「電池を修復する」研究にも複数の方法がある
電流の流し方を工夫して電池の状態を改善しようとする研究は、Geelyの発表以前から行われている。
その一つが、電極との電気的なつながりを失い、充放電に使えなくなったリチウムを再び反応に参加させる研究だ。
米SLAC国立加速器研究所とStanford大学の研究チームは、2021年に『Nature』へ発表した研究で、電気的に孤立したリチウムが充放電に伴って移動することを示した。
SLACによる研究説明では、NMC正極と金属リチウム負極の間に孤立したリチウムを置いた実験用セルを使い、その動きを観察している。
こうしたリチウムは電池内部に残っていても、電極と電気的につながっていなければ充放電に利用できない。
研究チームは、充電直後に短時間の大電流放電を加えることで孤立したリチウムを負極へ移動させ、再び電極と接続させる方法を示した。
失われた電気的なつながりを取り戻すという意味では、「再活性化」が何を指すのかを理解する一つの例になる。
一方、劣化した電池を元に戻すのではなく、充電中に起きる劣化そのものを抑える研究もある。
Jia Guo氏らが2024年に『Advanced Energy Materials』へ発表した査読論文では、市販の18650型NMC532/黒鉛セルを使い、一定の電流を流し続ける充電方法とパルス充電を比較した。
寿命試験は35℃で行い、平均充電電流を1Cにそろえた。パルス充電では、電流を流す時間と止める時間を同じ長さにし、電流を流している間は2Cとした。
100Hzと2,000Hzの条件を比較した結果、負極の黒鉛内部でリチウムイオンがより均等に分布し、負極表面に形成される固体電解質界面層(SEI)の成長も抑えられたと報告している。電極材料の構造変化も小さくなった。
こちらが示しているのは、充放電を繰り返した際の劣化を抑える効果だ。使い古した電池の失われた容量を元に戻した実験ではない。
また、平均1Cで行われたこの実験結果を、Geelyが掲げるピーク12Cの急速充電へそのまま当てはめることもできない。
こうした研究は、電流の流し方を変えることで電池の状態に影響を与えられるという科学的な背景を示している。
ただし、Geelyがこれらと同じ方法を採用していることを示すものではない。同社の「負極に蓄積したリチウムを再活性化する」という説明だけでは、具体的にどの状態のリチウムへ、どのような電流を加えるのかまでは分からない。
「寿命20%延長」は何を意味するのか
Geelyが公表した20%という数字は、AIによる充電制御と「修復」技術を組み合わせた場合のサイクル寿命の延長率だ。
パルス処理だけで寿命が20%延びるという意味ではない。また、一回の充電で使える電池容量や航続距離が20%増えるという意味でもない。
一方、Geelyの9月23日付の英語発表では、寿命20%延長という結果について、比較対象や試験温度、寿命と判断した容量の基準、試験した電池の数などが明らかにされていない。
| 評価に必要な項目 | 9月23日付の発表で分かること | 数字を読む際の注意点 |
|---|---|---|
| 延長率と対象技術 | AI充電管理と「修復」技術を組み合わせて20%延長 | それぞれの技術がどの程度寄与したかは分からない |
| 比較対象 | 記載なし | 従来の急速充電との比較なのか、別の条件との比較なのか不明 |
| 寿命判定の基準 | 記載なし | 容量が何%まで低下した時点を寿命としたのか不明 |
| 寿命試験の温度 | 記載なし | 実際の利用環境との違いを評価できない |
| 試験した電池数 | 記載なし | 個体差や結果のばらつきを判断できない |
出典:Geely Auto Groupの9月23日付英語発表。ここで「記載なし」とした項目は、この発表文で確認できないという意味であり、試験自体を行っていないことを示すものではない。
特に、充電中の温度管理と寿命試験の条件は分けて考える必要がある。
平均温度を55℃未満に抑えるという設計目標が示されていても、それだけでは寿命が20%延びた試験を何℃で実施したのかは分からない。
比較対象となる充電方法と同じ温度条件で試験したのかどうかも、AIによる温度制御が寿命にどの程度寄与したのかを判断するうえで重要になる。
電池が劣化する原因も一つではない。
前述の2024年の研究でも、SEIの成長や電極材料の損失、構造の亀裂など複数の劣化現象が扱われている。
仮に反応に使えなくなったリチウムの一部を再び利用できるようにしても、電池内部で起きたすべての劣化が元に戻るわけではない。
そのため、「修復」という言葉は、具体的にどの劣化現象を改善するのかとセットで見る必要がある。
家庭での充電時間も電池の状態改善に利用
Geelyは家庭向け充電についても、比較的低い充電レートを利用し、急速充電を繰り返したことで生じた電池の劣化を徐々に改善する充電方法を開発したとしている。
外出先では短時間で急速充電し、自宅では時間をかけて電池の状態を整える。二つの充電環境を組み合わせて、長期的に電池を管理する考え方だ。
家庭で駐車している時間を電池の状態改善に利用できれば、外出先での充電時間を短くしながら、長期的な容量低下も抑えられる可能性がある。
ただし、今回確認した英語発表では、「修復」機能に対応する車種や既存車への提供方法、家庭側に専用の充電設備が必要なのかといった詳細は示されていない。
急速充電試験に使った車種や電池が明らかになっていても、その車種のすべての利用者が「修復」機能を利用できるという意味ではない。
この技術の実用性を判断するには、急速充電と家庭充電を実際の利用に近い形で繰り返したときに、長期間にわたってどの程度の容量を維持できるのかを見る必要がある。
対応車種や必要な充電設備が明らかになり、同じ条件で長期試験を行った結果が示されれば、利用者にとって「充電がどれだけ速いか」だけでなく、「急速充電を繰り返しても電池がどれだけ長持ちするか」まで比較できるようになる。



