Appleが2025年第4四半期(10月〜12月期)の決算において、中国市場で驚異的なV字回復を遂げたことが明らかになった。長らく続いた売上低迷に終止符を打ち、前年同期比38%増となる260億ドルの売上を記録した背景には、ある「色」の存在がある。公式名称「コズミックオレンジ」と名付けられたその新色が、中国の消費者の間では高級ブランド「エルメス(Hermès)」を象徴する色として熱狂的に受け入れられ、iPhoneを再びステータスシンボルへと押し上げたのだ。
18ヶ月の沈黙を破った「エルメス・オレンジ」の魔力
Appleは直近の18ヶ月間、中国市場でかつてない苦境に立たされていた。Huaweiが独自プロセッサを搭載したハイエンド機で市場シェアを奪い、XiaomiやVivoがAI機能を前面に押し出した最新鋭機を投入する中、Appleの売上は減少の一途を辿っていた。さらに、中国政府が公務員に対してiPhoneの使用制限を課すといった地政学的な逆風も追い打ちをかけた。
しかし、2025年秋に投入されたiPhone 17 Proシリーズの「コズミックオレンジ」が、この流れを一変させた。この鮮やかなオレンジ色の筐体は、発売直後からDouyin(中国版TikTok)やXiaohongshu(小紅書)、WeiboといったSNSで爆発的な話題となった。消費者はこの色を、フランスの高級メゾンであるエルメスのブランドカラーに酷似しているとして、親しみを込めて「エルメス・オレンジ」と呼び始めたのである。
IDCのシニアリサーチディレクター、Nabila Popal氏は、「単純に聞こえるかもしれないが、一目で新型と分かるオレンジ色の導入という外観上の明白な変化が、買い替えを検討していた層を強力に引きつけた」と分析している。中国のインフルエンサーであるXiao Meiは、「エルメス・オレンジを嫌いな人がいるだろうか。見れば見るほど愛着が湧く」と語り、この色が単なるカラーバリエーションを超えた特別な価値を持っていることを示唆した。
「成功」を象徴する言語的符合と文化的シンボリズム
このオレンジ色の成功は、単なるブランドへの便乗に留まらない。中国の消費文化において極めて重要な「言語的・文化的シンボリズム」が見事に合致した結果でもある。
中国語(普通話)において、オレンジを指す「橙(chéng)」という言葉は、成功を意味する「成(chéng)」と同じ発音を持つ。このため、オレンジ色のiPhoneを所有することは、「物事がうまくいく」「成功を手にする」という縁起を担ぐ行為として解釈された。SNS上では、購入者たちが「すべての願いがオレンジ(成功)に変わりますように」といった言葉を添えて投稿する現象が相次いだ。
Appleは長年、中国において技術的なスペックよりも「ブランド力」と「社会的シグナリング(地位の誇示)」で勝負してきた。HuaweiやXiaomiのデバイスがカメラ性能やAI機能でAppleを凌駕し、特に「Apple Intelligence」が中国本土で利用できない状況にありながらも、消費者は依然としてiPhoneを選択した。富を誇示することで知られるインフルエンサー、An Liang氏は「オレンジを選べば、誰もがこれが最新のiPhone 17だと気づく。それが重要なんだ」と断言している。
補助金制度を射抜いた5,999元の価格戦略
爆発的なヒットの背景には、Appleによる極めて緻密な価格設定と、中国政府の経済刺激策への適応がある。
2025年、中国政府は国内消費を活性化させるため、約430億ドルの大規模な家電補助金プログラムを実施した。この制度では、6,000人民元(約860ドル)以下のスマートフォンを購入した際、最大15%(最大500元)の割引が適用される仕組みとなっていた。
Appleはこの基準を熟知しており、iPhone 17のベースモデルの価格を、基準をわずか1元下回る「5,999人民元」に設定した。この1元の差によって、価格に敏感な層が政府の補助金を活用してプレミアムデバイスを購入できる環境を整えたのである。
また、前回の販売ピークであったiPhone 13シリーズの発売からちょうど4年が経過しており、ユーザーの買い替えサイクル(スーパーサイクル)が到来していたことも、追い風となった。
技術的スペックを超越するブランド・ステータスの再構築
今回の復活劇は、競合他社にとっても、そしてApple自身にとっても重要な教訓を含んでいる。
Huaweiなどの中国メーカーは、数十億ドルを投じて高度なAIや折りたたみ技術、独自のOS(Harmony OS)を開発してきた。しかし、Harmony OSの操作性に不満を持つユーザーが一部で現れ始めた一方で、Appleは「色の変更」と「わずかなデザイン刷新」という、一見シンプルだが強力な視覚的アイデンティティによって市場を奪還した。
CounterPoint社のシニアアナリスト、Gerrit Schneemann氏は、「Appleにとっては成功の物語だが、他社にとっては非常に厄介な現実だ。OppoやVivo、XiaomiがどうすればAppleのようなブランドの支配力を打ち破れるのか、その答えは見えていない」と指摘する。
Appleの中国における第4四半期の収益構成比は、全売上の約5分の1に達しており、この市場での成功がいかに同社の全体業績を牽引しているかがわかる。ティム・クックCEOが決算説明会で語った「中国での素晴らしい四半期」という言葉の裏には、ブランドが持つ「記号的価値」を最大限に活用した、執念とも言えるマーケティング戦略の勝利があったと言えるだろう。
「iPhone 18」への課題
iPhone 17 Proの「コズミックオレンジ」がもたらした勢いは、Appleの株価を1週間で7%押し上げるなど、投資家からの信頼も回復させた。しかし、この勢いを維持できるかについては、楽観視できない要因も残っている。
2026年第1四半期には、メモリチップの不足によりコンポーネント価格が40〜50%上昇すると予測されており、スマートフォンの利益率を圧迫する可能性がある。Appleのようなプレミアムブランドは比較的価格耐性が高いとされるが、コスト増は避けられない課題だ。
また、次期モデルであるiPhone 18シリーズにおいて、Appleが同じオレンジ色を継続するかは不透明だ。噂によれば、基本的なデザインは維持されるものの、新たなカラー展開が模索されているという。Appleが「エルメス・オレンジ」という偶然が生んだ奇跡を、持続可能な戦略へと昇華させられるか。あるいは、AI機能などの技術革新によって、再び「中身」で中国市場を圧倒できるのか。シリコンバレーの巨人は今、色の魔法が解ける前に次なる一手を選択する必要がある。
Sources
- Financial Times: ‘Hermès orange’ iPhone sparks Apple comeback in China
- European Business Magazine: ‘Hermès Orange’ iPhone Sparks Apple’s $26B China Comeback


