OpenAIは、AIチャットボットChatGPTの「メモリ機能」を大幅にアップデートし、ユーザーの過去のすべての会話を自動的に参照できるようなったことを発表した。この新機能は、まず有料プランのChatGPT PlusおよびProユーザー向けに提供が開始されているが、将来的には更にパーソナルで有用なAIアシスタントへの進化を示す重要な一歩となる、地味ながらも大きなアップデートとなりそうだ。
ChatGPTの記憶力が大幅進化:全会話履歴を参照可能に
ChatGPTのメモリ機能自体は新しいものではない。これまでも、ユーザーが明示的に「これを覚えて」と指示した情報(例えば、「私は米料理が好き」など)を記憶し、以降のレシピの提案などで積極的に米料理を提案してくれるなど、将来の会話に反映させる「保存されたメモリ」機能が存在した。
しかし、今回のアップデートで導入された新しいメモリ機能は、その範囲を劇的に広げるものだ。OpenAIによると、ChatGPTは過去の全てのチャット履歴を自動的に参照し、ユーザーの好み、スタイル、関心事などを学習する。これにより、ユーザーが以前に話した内容を繰り返し説明する必要がなくなり、より自然で文脈に即した、パーソナライズされた応答が期待できる。
Starting today, memory in ChatGPT can now reference all of your past chats to provide more personalized responses, drawing on your preferences and interests to make it even more helpful for writing, getting advice, learning, and beyond. pic.twitter.com/s9BrWl94iY
— OpenAI (@OpenAI) April 10, 2025
例えば、特定のフォーマット(箇条書きが嫌いなど)を好まないことを過去の会話で示唆していれば、ChatGPTはそれを記憶し、今後の応答でそのフォーマットを避けるようになる。これは、ユーザーが明示的に指示せずとも、会話の流れからAIが学習していく点で、従来の保存されたメモリ機能から大きく進化した物だ。
OpenAIのCEOであるSam Altman氏は、この新機能についてXで次のように述べている。
「ChatGPTのメモリ機能を大幅に改善しました。過去の全ての会話を参照できるようになります!これは驚くほど素晴らしい機能であり、私たちが期待している物、つまり生涯を通じてあなたを知り、非常に有用でパーソナライズされた存在になるAIシステムへの道を指し示す物です」
この機能は、テキストだけでなく、音声対話や画像生成機能にも適用され、ChatGPT全体での体験向上を目指している。Googleが先日Geminiで同様の機能を導入したのに続く動きであり、AIアシスタントのパーソナライズ競争が加速していることを示している。
ユーザーによる制御とプライバシーへの配慮
AIがユーザーの全会話履歴を参照することに対して、プライバシーに関する懸念を持つユーザーもいるだろう。OpenAIはこの点を考慮し、ユーザーがメモリ機能を詳細に制御できる仕組みを提供している。
メモリ機能の管理
- メモリ機能のオン/オフ: ChatGPTの設定メニューから、メモリ機能全体を有効または無効にできる。既存のメモリ機能を有効にしていたユーザーの場合、この新しい拡張メモリ機能はデフォルトで有効になる。
- 参照する情報の種類: 設定画面では、以下の2種類のメモリ参照を個別に制御できる可能性がある。
- 保存されたメモリの参照: ユーザーが明示的に記憶させた情報(名前、好み、アレルギーなど)。これは従来からの保存されたメモリ機能に相当し、ユーザーは設定画面で内容を確認・編集・削除できる。
- チャット履歴の参照::過去の会話全体から情報を学習する新しい機能。こちらをオフにすれば、全会話履歴の参照は行われなくなる。
- AIが学習した内容の管理: ChatGPTが会話履歴全体から暗黙的に学習した内容を、ユーザーがリストとして直接表示したり、選択的に削除したりすることはできない。AIが有用だと判断した情報に基づいて、記憶内容は時間とともに更新される。ただし、ユーザーはチャット内で「私が以前話した〇〇について、あなたは覚えていますか?」と尋ねたり、「〇〇に関する情報は忘れてください」あるいは「今後は〇〇について△△と考えてください」のように指示したりすることで、AIの記憶内容に間接的に影響を与えることができる。
- 一時チャット (Temporary Chat): 特定の会話をメモリに記憶させたくない、あるいはメモリの影響を受けずにチャットしたい場合は、「一時的なチャット」機能を利用できる。このモードでの会話は、メモリに保存されず、既存のメモリを参照することもない。
モデル学習への利用
ユーザーは、自身の会話データやメモリ情報がOpenAIのモデル改善のために利用されるかどうかも制御できる。「全ての人のためにモデルを改善する」設定をオフにしていれば、ユーザーのメモリ情報が今後のモデル学習に使用されることはない。
OpenAIは、ユーザーが自身のデータをコントロールできることを強調しており、プライバシーへの配慮を示している。
提供状況と今後の展開
この強化されたメモリ機能は、現在、ChatGPTの有料プランであるPlus(月額20ドル)およびProユーザー向けに順次展開されている。ただし、以下の地域は現時点では提供対象外となっている。
- 欧州経済領域(EEA)
- 英国(UK)
- スイス
- ノルウェー
- アイスランド
- リヒテンシュタイン
これらの地域での提供には、現地の規制遵守のための追加の外部レビューが必要であり、OpenAIは将来的にこれらの地域でも利用可能にすることを目指しているとのことだ。
Team、Enterprise、およびEduといった法人・教育機関向けプランのユーザーには、今後数週間以内にこの機能が提供される予定である。
無料版のChatGPTユーザーについては、現時点ではこの新しいメモリ機能の提供予定は発表されていない。OpenAIの広報担当者はTechCrunchに対し、「現在は有料層への展開に集中している」と述べている。無料ユーザーは、引き続き従来の「保存されたメモリ」機能のみ利用可能となる。
ユーザーは、ChatGPTを起動した際に「改善された新しいメモリの紹介」というポップアップメッセージが表示されれば、この新機能が利用可能になったことを確認できる。

AIアシスタントの未来と業界への影響
今回のメモリ機能強化は、単なる機能追加にとどまらず、OpenAIが目指すAIの将来像を示すものである。Sam Altman氏がしばしば言及するように、映画「Her」に登場するような、ユーザーを深く理解し、日常生活に寄り添うコンパニオンとしてのAIが視野に入っている。
ChatGPTプロダクトを率いるNick Turley氏は、「これはより自然に感じられるはずです。まるで本物のアシスタントと話しているかのように。[…] メモリは汎用知能の基本的な構成要素として振り返られることになると思います」と述べており、この機能が将来のAI開発における重要な基盤になるとの認識を示している。
この動きは、Google アシスタント、AppleのSiri、AmazonのAlexaといった既存のデジタルアシスタント市場にも影響を与えるだろう。これらのプラットフォームも、従来のルールベースの応答から、より柔軟で対話的な生成AIを活用したアシスタントへと移行しようとしている。
しかし、このような高度なAIアシスタントの開発は容易ではない。AppleやAmazonは、AI強化型アシスタントのリリースにおいて、テスト段階での信頼性や応答の不正確さといった問題から、大幅な遅延に直面している。
ChatGPTのメモリ機能強化は、AIがよりパーソナルで有用なツールへと進化する可能性を示す一方で、プライバシーへの配慮や技術的な課題も浮き彫りにしている。ユーザーは、提供される制御機能を活用し、自身のニーズに合わせてAIとの関わり方を調整していくことが重要になるだろう。今後のAIアシスタントの進化と、それに伴う利便性と課題の両面に注目していく必要がある。
Sources
- OpenAI (X)
- TechCrunch: OpenAI updates ChatGPT to reference your past chats