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中国SiCarrier、半導体製造の完全工程に対応する装置群を公開 — ASMLら海外勢への挑戦鮮明に

Y Kobayashi

2025年3月28日

Huawei関連の中国半導体装置メーカーSiCarrierが、SEMICON Chinaにおいて半導体製造の全工程をカバーする装置群を発表した。深圳政府の支援を受けるこの新興企業は、光学検査から電気性能試験まで網羅する製品ラインナップにより、オランダのASMLや米国のApplied Materialsなど現在の市場リーダーへの挑戦を鮮明にしている。

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成膜からテストまで:中国初の包括的半導体製造エコシステム

中国の半導体産業における国産化の動きが加速する中、Huaweiとの関連が指摘される新興企業、SiCarrier Technologiesは、上海で開催されたSemicon Chinaにおいて、半導体製造の前工程(フロントエンド)における主要なプロセスをカバーする広範な装置群を発表した。これは、これまで特定の装置分野に特化してきた他の中国メーカーとは一線を画す動きであり、中国が目指すサプライチェーン内製化への強い意志を示すものと言える。

発表されたカタログには、以下のカテゴリーにわたる多数の装置が掲載されている。

  1. 検査・計測 (Inspection & Metrology):
    • 光学検査: 「Color Mountain」シリーズは、高輝度照明と高度な画像処理アルゴリズムを用い、ウェハーの両面を検査し、微細な塵埃レベルの欠陥まで検出する。
    • 重ね合わせ精度測定: 「Sky Mountain」シリーズは、回折格子を利用した測定(光のパターン分析)や直接的な画像比較により、積層される回路パターンの精密な位置合わせ精度を保証する。
    • 材料分析: 「New Mountain」スイートは、原子間力顕微鏡(AFM)によるナノスケールでの表面形状マッピングや、X線技術(XPS、XRD、XRF)を用いた化学組成、結晶構造、元素構成の解析など、原子レベルでの材料評価を可能にする。
  2. 成膜・堆積 (Deposition):
    • 「Changbaishan」および「Alishan」シリーズは、原子層堆積(ALD)、化学気相成長(CVD)、物理気相成長(PVD)といった技術に対応。精密なガス流量制御、高速熱処理(RTP)、原子レベルの精度により、絶縁膜や金属膜などをウェハー上に均一に、複雑な3次元構造に対しても形成する。ALDツール「Alishan」は台湾の有名な山にちなんで名付けられた。
  3. エッチング (Etching):
    • 「Wuyishan」シリーズは、プラズマ(荷電ガス)と調整可能なエネルギー場を利用し、ナノスケールの回路パターンをウェハー上に精密に彫り込む役割を担う。
  4. 熱処理 (Thermal Processing):
    • 「Sangqingshan」シリーズは、高速熱処理(RTP)システムであり、瞬間的な温度上昇により、デリケートなウェハーを変形させることなく材料特性を精密に調整する。
  5. 電気特性試験 (Electrical Testing):
    • 「RATE」やXRFシステムを含むテストプラットフォームは、高電圧や大電流といった過酷な動作条件をシミュレートし、最終製品となる前に不良チップを選別する。現時点ではパワー半導体向けが中心と見られる。

このラインナップは、ウェハーへの薄膜形成から回路パターンの彫刻、品質検査、最終的な性能試験まで、半導体製造における大部分のステップをカバーしており、中国がこれまで輸入に頼ってきた旧世代の海外製装置からの脱却を図る上で、戦略的に極めて重要な意味を持つ。

背景:米国の規制強化と中国の国産化戦略

SiCarrierの急速な台頭の背景には、米国の対中半導体輸出規制強化がある。米国政府は先端半導体製造装置の中国への販売を厳しく制限し、同盟国であるオランダや日本も同様の措置を講じている。これにより、中国にとって半導体製造装置の確保は、技術開発における最大のボトルネックとなっていた。

この状況が、逆に中国国内での装置開発を強力に後押しする結果となった。Naura TechnologyやAdvanced Micro-Fabrication Equipment Inc. China (AMEC)といった既存の中国装置メーカーは、国産化需要を追い風に急成長を遂げている。Nikkei Asiaによれば、Nauraの収益は2018年から2023年にかけて約7倍に、AMECの収益も同期間に282%増加した。

SiCarrierは2021年8月設立と比較的新しい企業であるが、深セン市政府系の投資ファンド「Shenzhen Major Investment Group」が主要株主であり、強力な資金的支援を受けている。このファンドは、Huawei関連とされる他の半導体企業、PengXinWei Integrated Circuit Manufacturing Co (PXW) や SwaySure Technologyにも出資しており、Huaweiを中心とした半導体エコシステム構築の一翼を担っていることがうかがえる。

さらにSiCarrierは、ASMLやApplied Materials、Lam Researchといった海外のトップ企業から経験豊富なエンジニアを積極的に引き抜いているとされる。特に米国の規制強化に伴い、中国国内の米国系装置メーカーが人員削減を進めたことが、人材獲得を後押しした側面もあるようだ。同社は現在、上海、北京、西安、武漢、成都、杭州、そして海外にも研究開発拠点を構え、材料、部品、システム全体にわたる開発体制を構築している。

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Huaweiとの連携と今後の展望:課題と可能性

SiCarrierの動向を語る上で、Huaweiとの緊密な連携は欠かせない要素である。Nikkei Asiaによると、Huaweiは半導体製造および装置開発に特化した大規模な社内チームを組織し、SiCarrierと密接に協力して、製造プロセスへの装置導入における課題特定や応用技術の向上に取り組んでいるという。

一部では、SiCarrierとHuaweiが、ASMLやApplied Materialsなどの既存装置に依存しない、完全に中国製装置のみで構成される「独自の生産フロー」の構築を目指している可能性も指摘されている。もしこれが事実であれば、そのような生産ラインが稼働するまでには数年を要する可能性があるものの、実現すれば中国の半導体自立に向けた大きなマイルストーンとなる。

ただし、現時点ではいくつかの不確定要素も存在する。

  • リソグラフィ装置の不在: 今回発表されたカタログには、半導体製造の最重要工程であるリソグラフィ(露光)装置が含まれていない。これは意図的に情報を伏せている可能性があり、Nikkei AsiaはSiCarrierが28nmプロセス以下に対応可能なリソグラフィ装置を開発済みと報じているが、その商用化能力は未知数である。一方で、SiCarrier社長Du Lijun氏が「非光学技術」、つまり既存のプロセス装置を工夫することでリソグラフィ工程の一部課題を解決し、5nmチップ製造を目指す可能性に言及しているが、歩留まり率の課題やコスト増が指摘されている。
  • 実用性と互換性: カタログに掲載された装置群が、実際に全て発注・納入可能な状態にあるのか、また、既存の生産ラインで使用されている欧米日メーカーの装置と互換性があるのかは不明である。
  • 先端プロセスへの対応能力: カタログでは「先端プロセスノード」や「将来の先端ノード」への言及があるものの、具体的にどのレベルのプロセス技術に対応できるかは明示されていない。

こうした課題はあるものの、SiCarrierが示した包括的な製品ポートフォリオと開発のスピードは、世界の半導体業界にとって無視できない存在となりつつある。米シンクタンクCSISのGregory Allen氏は、輸出規制が中国企業の国産化意欲を高めたことは事実だが、それだけで技術的自立が加速するとは限らないと指摘する一方で、SiCarrierとHuaweiの動きは、中国が国家レベルで半導体サプライチェーンの完全国産化を目指す強い決意の表れであることは間違いない。以前報じたように、Huaweiがレーザー誘起放電プラズマ(LDP)方式によるEUV(極端紫外線)リソグラフィ技術のプロトタイプ開発に取り組んでいるという情報も合わせると、今回のSiCarrierの発表は、中国が長期的な視点で先端半導体製造技術の内製化を着実に進めていることを示唆している。


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