AI半導体の急速な高性能化を支える鍵は、計算チップの演算能力ではなくデータ転送速度にある。演算器の処理速度が飛躍的に向上しても、そこにデータを供給するメモリの転送速度が追いつかなければ、システム全体の演算効率は著しく低下する。「メモリウォール」と呼ばれるこの深刻なボトルネックを打破するため、各社は広帯域メモリ(High Bandwidth Memory:HBM)の開発に巨額の資金を投じている。これまで最先端の微細化プロセス競争は、台湾や米国の巨大ファウンドリに代表されるロジック半導体が牽引してきた。しかし、オランダASMLの最新決算は、AI向け次世代メモリの増産に投資を振り向ける韓国メーカーの凄まじい実態を具体的な数値で示している。ロジックからメモリへ、半導体産業の主役が交代する歴史的な転換点が訪れた。

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2026年第1四半期決算が示す受注構造の反転

最先端の半導体製造装置はこれまで、台湾や米国のロジック工場に向けて優先的に出荷されてきた。しかし、オランダの半導体製造装置メーカーASMLの2026年第1四半期決算において、この長年の常識が完全に崩れ去った。純売上高87億7000万ユーロのうち、メモリ向け装置の売上が32億ユーロに達し、全体の51%を占めた。対するロジック向けは31億ユーロで49%にとどまり、ASMLの歴史において長らく続いたロジック優位の構造が逆転した。純利益は27億6000万ユーロを記録し、事前の市場予想を大きく上回っている。

装置別の内訳を見ると、極端紫外線(EUV)リソグラフィー装置が売上全体の66%を占めた。ASMLは2026年通期で60台以上の低NA EUV装置を出荷する計画だ。これは2025年の出荷実績である48台から25%の大幅な増加となる。さらに2027年には、メモリメーカーからの強烈な需要を背景に、約80台のEUVシステムを出荷する予測を立てている。同社が抱える受注残高は約390億ユーロという天文学的な規模に達した。最先端の製造装置が、かつてない規模とスピードでメモリ生産ラインへと吸い込まれていく。

地域別の売上構成も、この四半期で劇的な変化を見せた。韓国向けの出荷シェアが前四半期の22%から45%へと倍増し、単一国として最大の出荷先として浮上した。一方で、これまで大きな割合を占めていた中国向けの出荷は、前四半期の36%から19%へと急激に減少した。米国による輸出規制の強化が数字に明確に表れると同時に、韓国に拠点を置くSK hynixやSamsung Electronicsによる積極的な設備投資が全体の売上を牽引した。台湾向けは23%、米国向けは12%にとどまった。

ASMLが公表した2026年Q1決算説明会でCEO Christophe Fouquet氏は、この需給逼迫の状況について述べた。「顧客は2026年のメモリ生産能力がすでに完売していると報告しており、供給制約は2026年以降も続くだろう」。AIインフラへの継続的な莫大な投資が、半導体の供給能力を完全に上回っている。既存の生産ラインの稼働率は限界に達しており、各社は次世代品の歩留まり改善と増産に向けてEUV装置の確保に奔走している。最先端ファブの現場では、1台数億ドルに上る露光装置の搬入スケジュールが、そのまま企業の将来の市場シェアを決定づける要因となった。

AI半導体の進化を阻む「メモリウォール」の壁

AIモデルの巨大化に伴うデータ処理のボトルネックが、半導体業界に新たな課題を突きつけている。現在データセンターで主流となっているHBMは、DRAM(Dynamic Random-Access Memory)のダイを垂直方向に複数積層し、シリコン貫通電極(Through-Silicon Via:TSV)と呼ばれる微細な配線で接続することで圧倒的なデータ転送速度を実現する。すでに市場に出回るHBM3やHBM3Eに続き、次世代規格のHBM4では16層というさらなる高密度化と多層化が要求される。各ダイのセル密度を高め、超微細な回路パターンを正確に刻み込むためには、波長193nmの光を用いる従来のArF(フッ化アルゴン)液浸露光技術では限界を迎えた。

HBM4の製造プロセスでは、ロジック半導体と同等の極めて高度な微細加工技術がベースダイの設計に求められる。波長13.5nmの極端紫外線を利用するEUVプロセスを導入しなければ、回路パターンの解像度不足による歩留まりの低下を避けられない。半導体業界のアナリストの分析によれば、第6世代HBMの製造にはEUVプロセスが複数回にわたって適用される。さらに先の世代を見据えれば、製造工程で必要なEUVレイヤー数は確実に増加していく。微細化プロセスの遅れはチップ面積の増大や消費電力の悪化に直結するため、メモリメーカーにとってEUVの早期導入は製品の市場競争力を左右する死活問題となった。

特殊なAI向けメモリに加え、汎用サーバー向けの次世代規格であるDDR5メモリの普及も底堅いEUV需要を後押ししている。巨大データセンターの消費電力削減と大容量化の厳しい要請に応えるため、DDR5の最先端プロセスノードへの移行が急ピッチで進む。EUV技術を用いることで、複雑なマルチパターニング(複数回の露光・現像を繰り返す微細化技術)による露光工程数を大幅に削減し、製造期間の短縮とコストの最適化を図れる。結果として、最先端のメモリ製造現場において、EUV装置が不可欠なインフラとして定着した。これまでロジック半導体の専売特許と見なされていた極端紫外線による微細加工が、メモリチップの性能を飛躍させる原動力に変わった。

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SK hynixとSamsungが展開する対照的な調達戦略

SK hynixは2026年3月、EUV関連の設備に対して約12兆ウォン(約1兆3000億円)の巨額投資を計画していることを明らかにした。同社はHBM市場でNVIDIAの主要サプライヤーとして先行優位を築いており、このリードを保つために生産能力の拡大を急ぐ。清州(チョンジュ)のM15X工場や、龍仁(ヨンイン)半導体クラスターに建設中の第1工場の拡張を急ピッチで進めている。今後2年間で20台の低NA EUV装置を導入し、これらをすべてHBMおよび最先端ストレージソリューションの製造ラインに投入する予定だ。

一方のSamsung Electronicsも、世界最大規模を誇る平沢(ピョンテク)キャンパスのP4およびP5ファブを中心に大規模な拡張を継続している。同社はHBM市場でのシェア奪還を目指し、直近で約40億から50億ドル規模のEUV装置の注文をASMLに対して行った。ASMLが内部で試算した2027年向けの出荷予測データによると、Samsungに7台、SK hynixに20台の低NA EUV装置が割り当てられる見通しだ。両社を合わせると約40台のEUVシステムを確保する計算になり、これはASMLの年間出荷予定台数の約3分の2に相当する。韓国の2大メーカーが世界の最先端露光装置を買い占める構図が鮮明になった。

Micron Technologyは既存のマルチパターニング技術を極限までチューニングし、高価なEUVへの依存を遅らせる戦略を採ってきた。米国に拠点を置く同社もHBM市場への本格参入とシェア拡大を狙っているが、設備投資の規模では韓国勢の猛烈なラッシュとは対照的だ。資本効率を高めるこのコスト重視のアプローチは、短期的な財務指標の改善に寄与する。しかし、HBM4以降の製造プロセスでは7nmクラスの微細化が必須となる。マルチパターニング技術への依存を続ければ、露光工程数の増加による歩留まり低下と製造コストの跳ね上がりを招く。

ASMLは1台あたり約3億8000万ドルという超高額なHigh-NA EUVを、Intelの14Aノード向けなどに10台出荷する計画を持つ。次世代の製造装置の導入計画でも、各社のスタンスの違いが明確になった。メモリ分野では、SK hynixがこのHigh-NA EUVを2台導入し、将来の最先端メモリ製造プロセスに適用すると予想されている。最先端の製造装置をいち早く自社のラインに組み込むことで、競合他社に対する技術的な優位性を確固たるものにする狙いがある。技術の世代交代の波に乗り遅れることは、急成長するAI市場からの脱落を意味する。

既存設備の保守サービスが支える強固な収益基盤

2026年第1四半期の決算データにおいて、ASMLの設置済み基盤管理(IBM:Installed Base Management)部門の売上高は約25億ユーロに達した。前年同期の21億3400万ユーロから着実な成長を見せ、安定した現金収入源となった。この部門の業務には、既存装置の定期メンテナンス、高度な技術サポート、消耗部品の交換、そして露光精度を向上させるためのソフトウェアアップグレードが含まれる。高額なハードウェアの単発的な売り切りから、継続的なサービス提供へと重心が移りつつある。

メモリメーカーは新しいEUV装置の納入を数四半期にわたって待つ間、既存の生産ラインの稼働率を限界まで引き上げる必要がある。そのため、すでに工場に導入されている装置のダウンタイムを最小化し、稼働時間を最大化する高利益率な保守部品や最適化サービスの需要が急増した。ASMLの粗利益率が53.0%という極めて高い水準を維持できた背景には、このIBM部門の好調な業績が直接的に寄与している。新規の装置出荷が自社の生産能力の壁に直面する中で、既存顧客のアップグレード需要が強固な収益基盤を形成した。

ASMLは2026年第1四半期中に、2026年から2028年の自社株買いプログラムに基づいて約11億ユーロ相当の株式を市場から買い戻した。手元に蓄積された豊富な資金を活用し、積極的な株主還元策を実行に移している。また、2025年分の通期配当として、前年比17%増となる普通株1株あたり7.50ユーロを提案し、投資家の期待に応えた。四半期で12億ユーロに上る巨額の研究開発費を計上しながらも、強気な財務戦略を維持できるのは、メモリ市場からの確実な受注残が裏付けとして存在するためだ。

米国政府が主導する半導体製造装置の輸出管理強化を受け、ASMLの中国市場向け出荷シェアは前四半期の36%から19%へと急減した。最先端のEUV装置に続き、一部のArF液浸露光装置までもが輸出規制の対象となったことで、中国メーカーからの駆け込み需要が沈静化した。国際的な地政学リスクへの対応は、具体的なサプライチェーンの再編という形で表れている。失われた中国向けの売上は、高利益率な製品を求める欧米や韓国の最先端ファブ向けの受注によって迅速に穴埋めされた。

AIインフラの構築という世界規模の潮流が、一企業の地域別売上構成を大きく塗り替えている。最先端の半導体製造装置を巡る争奪戦は、単なる企業間の競争を超えて、国家レベルのインフラ投資競争へと発展した。ASMLの決算数値は、メモリメーカーが主導する新たな産業構造の幕開けを鮮明に記録している。次世代の演算能力を支える基盤は、シリコンの微細な回路に刻まれたメモリの進化に完全に依存している。


Sources