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中国研究チーム、半導体製造用固体DUVレーザー光源開発に成功

Y Kobayashi

2025年3月23日

中国科学院の研究チームが、半導体チップ製造の微細加工に不可欠な波長193ナノメートル(nm)の深紫外(DUV)レーザーをコンパクトな固体光源で生成することに成功した。従来のガスベースのエキシマレーザーとは異なるこのアプローチは、世界初となる193nmの渦ビーム生成も実現し、次世代半導体製造技術への応用が期待される。

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革新的な固体レーザーシステムの開発成功

中国科学院の航空宇宙情報研究所GBA支部の研究チームが半導体チップ製造に不可欠な波長193nmのDUVレーザー光源の開発に成功した。この研究は科学誌『Advanced Photonics Nexus』に発表され、従来のガスベースのレーザーとは異なる完全固体型のアプローチを採用している点で革新的なものだ。

半導体チップの製造過程では、シリコンウェハー上に微細な回路パターンを形成するフォトリソグラフィという工程が不可欠だ。この工程では、193nmの深紫外光を使ってフォトレジスト(感光材)に回路パターンを「焼き付ける」。波長が短いほど、より微細なパターンを形成できるため、193nmの光源は先端半導体製造において極めて重要な役割を担っている。

従来の半導体リソグラフィ装置(ASML、Canon、Nikonなど)はフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザーを使用して193nmの光を生成してきた。このシステムでは、アルゴンとフッ素のガス混合物に高電圧パルスを加えることで不安定なArF分子(エキシマー)を形成し、その崩壊過程で193nmの光子を放出させる仕組みだ。

これに対し、中国チームの開発したシステムは完全に固体ベースであり、ガスを使用しない。このアプローチにより、より安定性が高く、メンテナンスが容易で、コンパクトなシステムの実現が期待される。

固体ベースDUVレーザーの技術的詳細と性能

開発されたレーザーシステムは、1秒間に6000回のパルスを発生させる6キロヘルツ(kHz)の周波数で動作し、平均出力70ミリワット(mW)という性能を達成している。また、発生するレーザー光の純度を示す指標である線幅は880メガヘルツ(MHz)未満と非常に狭く、高品質なレーザー光の生成に成功している。

システムの構成は複数の光学プロセスを組み合わせたものだ。まず自作のYb:YAG(イッテルビウムドープ酸化イットリウムアルミニウムガーネット)結晶アンプを使用して1030nm(赤外線領域)のレーザーを生成する。このレーザーは二つの光路に分けられる。

一方の光路では、「第4高調波生成」と呼ばれる非線形光学プロセスを通じて波長を1/4に変換し、258nmレーザー(出力1.2W)を生成する。もう一方の光路では、「光パラメトリックアンプ」と呼ばれる技術を用いて1553nmレーザー(出力700mW)を生成する。

これら二つのレーザービーム(258nmと1553nm)をLBO(三ホウ酸リチウム)結晶に入射させ、「和周波発生」と呼ばれるプロセスを通じて最終的に目標とする193nmのレーザー光を得ている。和周波発生とは、二つの光の周波数を足し合わせて、より短い波長の光を生成する現象だ。

さらに、研究チームは1553nmビームに対して「スパイラル位相板」と呼ばれる光学素子を導入することで、「軌道角運動量」を持つ「渦ビーム」を生成することにも成功した。渦ビームは通常のレーザービームと異なり、光が螺旋状に進む特性を持つ。これは固体レーザーから193nmの渦ビームを生成した世界初の事例であり、半導体ウェハーの処理や欠陥検査、量子通信など様々な応用の可能性を持っている。

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半導体産業への影響と展望

この技術革新は半導体製造技術に大きな影響を与える可能性があるが、現時点ではまだ課題も存在する。現在の商業用DUVリソグラフィツールは、8〜9kHzの周波数で100〜120Wの出力を持つArFエキシマレーザーを使用しているのに対し、今回開発されたシステムは70mW、6kHzの出力にとどまっている。

この出力差は、現状では高スループットとプロセス安定性が不可欠な商業的半導体製造には不十分であり、実用化には複数世代の開発が必要かもしれない。しかし、研究チームは論文中で、1030nmでのポンプパワーを増加させることで、193nmレーザーの出力を数百mW、潜在的にはワットレベルまで拡張できる可能性を示唆している。また、より高い非線形係数を持つ結晶を採用することで、この目標達成の可能性は大幅に高まるとしている。

システム全体は現在1200mm × 1800mmの光学テーブルを占有しているが、研究チームはこれをさらにコンパクト化することで産業応用の要件を満たすことが可能であるとしている。

最終的に、このような固体DUVレーザー技術の進歩は、半導体リソグラフィの効率と精度を向上させ、次世代電子デバイスの製造方法に革新をもたらす可能性を秘めている。特に、渦ビーム技術の応用は、ウェハー処理や欠陥検査などの分野で新たな可能性を拓くものと期待される。

また、この研究は中国の半導体自立化への取り組みの一環としても注目される。半導体製造装置の中核技術の一つであるDUVレーザー光源の独自開発は、国際的な技術競争の中で重要な意味を持つ可能性がある。


論文

参考文献

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