定番の圧縮・解凍ソフトウェア「7-Zip」が、2025年7月5日に公開したバージョン25.00で、歴史的なマイルストーンを達成した。Windows版において、長年の技術的制約であった「64スレッドの壁」を初めて突破し、AMD Ryzen ThreadripperやIntel XeonといったメニーコアCPUの性能を完全に引き出すことが可能になった。
64スレッドの壁とプロセッサグループ
今回のアップデートの核心は、WindowsにおけるCPUスレッドの扱いに深く関わっている。これまで7-Zipは、最大64スレッドまでしか効率的に利用することができなかった。これは、今日のコンシューマー向けハイエンドCPU、例えばAMDのRyzen 9 9950X(16コア/32スレッド)やIntelのCore Ultra 9 285K(24コア/24スレッド)の性能を引き出すには十分であった。
しかし、プロフェッショナルやエンスージアストの世界では、この壁が深刻なボトルネックとなっていた。例えば、AMDのRyzen Threadripper Pro 9995WXが誇る96コア/192スレッドや、IntelのXeon W9-3495Xが持つ56コア/112スレッドといった、まさに「モンスター級」のプロセッサは、7-Zip上ではその有り余る能力を持て余していたのだ。だが、2017年の初代Threadripper登場から実に5年以上を経て、ようやくその処理能力が解放されることになった。
この技術的ブレークスルーの鍵は、Windowsが内部で管理する「プロセッサグループ」にある。Windowsは、64スレッドを超えるとCPUを複数のグループに分割して管理する。アプリケーションがこれら複数のグループを横断してスレッドを効率的に利用するためには、特別な対応が必要となる。バージョン25.00では、このプロセッサグループを認識し、複数のグループにまたがってCPUスレッドをインテリジェントに分散させる機能が実装された。これにより、100を超えるスレッドを持つシステムでも、すべてのCPUリソースを圧縮・解凍処理に注ぎ込むことが可能になったのである。
公式のリリースノートには、この変更点が簡潔に、しかし力強く記されている。
「7-Zip for Windowsは、zip/7z/xzアーカイブへの圧縮および7-Zipベンチマークにおいて、64を超えるCPUスレッドを使用できるようになりました。Windowsに複数のプロセッサグループが存在する場合(64 CPUスレッドを超えるシステム)、7-Zipは実行中のCPUスレッドを異なるプロセッサグループに分散させます。」
この対応は、7-Zipの統合ベンチマークにも反映されており、ユーザーは自身のハイエンドシステムが持つ真のポテンシャルを、より正確に測定できるようになった。
全ユーザーに恩恵。bzip2圧縮は最大40%の劇的進化
今回のアップデートの主役がメニーコアCPUへの対応であることは間違いないが、その恩恵はHEDTユーザーだけに留まらない。すべてのユーザーが体感できる、着実な性能向上が盛り込まれている点も見逃せない。
特に注目すべきは、bzip2圧縮アルゴリズムの性能向上だ。リリースノートによれば、その圧縮速度は実に「15%〜40%」も向上したという。bzip2は、特にLinuxのtarballなどで広く利用されており、この改善は多くの開発者やシステム管理者にとって朗報となるだろう。
また、我々が日常的に最も頻繁に利用するであろうdeflate(zip/gz)形式においても、「1%〜3%」の圧縮速度向上が図られている。数値としては地味に見えるかもしれないが、世界中で膨大な数のzipファイルが作成されていることを考えれば、この僅かな改善も全体として見れば大きな効率化に繋がるはずだ。
さらに、zip、cpio、fatといった各種アーカイブ形式のサポートが改善されたほか、複数のバグ修正と、詳細は明かされていないもののセキュリティ脆弱性の修正も含まれており、安定性と安全性の両面でより信頼性の高いツールへと進化したと言える。
なぜこのアップデートは重要なのか? 孤高の進化を続ける7-Zip
7-Zipは、長年にわたり、無料で高機能なオープンソースソフトウェアとして、世界中のPCユーザーにとって「必須」の存在であり続けてきた。その一方で、Windowsに標準搭載されているZip機能は、いまだに時代遅れの制約を抱えている。
Tom’s Hardwareの記事は、WindowsのZip機能開発者であったDave W Plummer氏の逸話を紹介している。彼によれば、現在のWindowsのZip機能でさえ、25年以上前のシングルスレッドのコードが基本になっているという。この事実と対比するとき、7-Zipが今回達成した技術的進歩の重要性は一層際立つ。7-Zipは、OS標準機能が停滞する中で、ハードウェアの進化に追随し、そのポテンシャルを最大限に引き出すという使命を独自に追求し続けているのだ。
このアップデートは、特にデータセンターでの大規模なバックアップ処理、研究機関での膨大な実験データのアーカイブ、映像プロダクションにおける巨大なプロジェクトファイルの管理など、これまで処理時間がボトルネックとなっていた多くの専門分野で、作業効率を劇的に改善する可能性を秘めた大きな一歩だ。
さらに、業界のデファクトスタンダードとも言える7-Zipが並列処理の新たな基準を打ち立てたことで、他の圧縮ソフトウェア開発者にも同様の最適化を促す圧力となるかもしれない。これは、ソフトウェア業界全体における並列処理技術の成熟を加速させる、重要な一歩となる可能性がある。
7-Zipの将来と残された課題
バージョン25.00が画期的なアップデートであることは間違いないが、ユーザーコミュニティからは次なる進化への期待の声も上がっている。
その一つが、新しい圧縮アルゴリズムへの対応だ。近年では、Facebookが開発したZstandard(zstd)のように、圧縮率と速度のバランスに優れた最新のアルゴリズムが登場している。7-Zipがこれらの新しい標準をネイティブでサポートすることは、多くのユーザーが望む次のステップだろう。
また、機能面では他の追随を許さない一方で、そのユーザーインターフェース(UI)は、正直なところ、長年大きな変化がなく、やや古風な印象は否めない。機能性を損なうことなく、より現代的で直感的なUI/UXへと進化することも、今後の課題として挙げられるだろう。
とはいえ、今回のバージョン25.00は、7-Zipが依然としてPCソフトウェアの最前線で進化を続ける、活気に満ちたプロジェクトであることを力強く証明した。CPUの多コア・メニースレッド化という大きな潮流の最先端を捉え、ハードウェアの真価を解放したこのアップデートは、すべてのPCユーザー、とりわけその性能を極限まで追求する人々にとって、見過ごすことのできない、まさに「事件」と呼ぶにふさわしい出来事である。
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