Microsoftが、長年の課題であったWindows 11のパフォーマンス問題に対し、ついに本腰を入れて向き合う姿勢を鮮明にした。2025年7月中旬に公開されたWindows 11 Insider Previewの新ビルドには、システムの「遅さ」や「もたつき」の原因を根本から特定するための新たな仕組みが搭載された。これは、ユーザーと共にOSの応答性を改善していくという、同社の姿勢の変化と言えるだろう。2025年後半に予定される次期機能アップデート「Version 25H2」で、我々のPC体験はどのように変わるのだろうか。

AD

長年の課題だった「もっさり感」との決別へ

2021年の登場以来、Windows 11はモダンなUIと新機能で注目を集める一方、パフォーマンスに対するユーザーの不満が常に付きまとってきた。特に、軽快な動作で定評のあったWindows 10からのアップグレードユーザーからは、「全体的に動作が重い」「リソース消費量が増えた」「どうもキビキビしない」といった声が絶えなかった。

こうした声は単なる主観的な印象に留まらない。特定のハードウェア、特にAMD製CPU環境下でのゲームパフォーマンスの低下が指摘された時期もあれば、ファイルエクスプローラーの起動や操作に明らかな遅延が感じられるなど、具体的な問題点がフォーラムやSNSで数多く報告されてきた。

もちろん、Microsoftも手をこまねいていたわけではない。タスクバーや通知領域の応答性向上、スタートアップアプリのパフォーマンス影響の低減など、断続的な改善は続けられてきた。しかし、多くのユーザーが抱く「Windows 10より遅い」という根本的な印象を覆すには至っていなかったのが実情ではないだろうか。今回の発表は、こうした根深い課題に対し、小手先の修正ではなく、構造的なアプローチで挑むという宣言に他ならない。

「ユーザー参加型」のログ収集機能

今回の改革の中核をなすのが、Windows 11 Insider Preview Build 26200.5710(Devチャネル)で導入された、新しいパフォーマンスログ収集機能だ。これは、PCが「遅い」あるいは「反応が鈍い」といった状態を経験した際に、その状況を詳細に記録する仕組みである。

Windows のパフォーマンス向上への取り組みの一環として、お使いの PC のパフォーマンスが低下した場合にログが収集されるようになりました。Windows Insiderの方は、パフォーマンスの低下や低速に関連するPCの問題が発生した場合にフィードバックを提供することをお勧めします。これにより、Feedback Hubがこれらのログを自動的に収集し、問題の原因究明を迅速に行うことができます。フィードバックを提供する際は、「デスクトップ」>「システムの不調」カテゴリを使用し、Feedback Hubがこれらのログを自動的に収集できるようにしてください。これらのログはローカル(%systemRoot%TempDiagOutputDirWhesvcフォルダ)に保存され、フィードバックが送信されたときにのみフィードバックHub経由でMicrosoftに送信されます。

Microsoftの発表によると、この機能はシステムのパフォーマンス低下を検知すると、診断用のログを自動的にローカルPC内の特定フォルダ(%systemRoot%\Temp\DiagOutputDir\Whesvc)に保存するものだ。ここでの重要な点は、収集されたログが自動的にMicrosoftへ送信されるわけではない、ということだ。

プライバシーと改善の両立:ユーザーが握る主導権

ログがMicrosoftの開発チームに渡るのは、ユーザーが「Feedback Hub」アプリを起動し、「デスクトップ > システムの遅延 (Desktop > System Sluggishness)」というカテゴリを選択して、パフォーマンスに関する問題を明示的に報告した場合に限られる。つまり、ユーザー自身の明確な意思表示があって初めて、詳細なデータが共有される仕組みだ。

これは、ユーザーのプライバシーへの配慮と、品質改善に必要なデータ収集という、時に相反する二つの要求を両立させようとする試みである。一部で指摘されるように、ユーザー側にもフィードバックという「一手間」が求められるが、これは自身のPCで発生している問題の解決に直接貢献できる機会でもある。自分が提供したデータが、世界中のWindows 11ユーザーの体験を向上させる礎になるかもしれないのだ。この「ユーザー参加型」の開発アプローチこそ、今回の取り組みの最も注目すべき点だろう。

AD

Version 25H2で何が変わる?すでに判明している改善点

この新たなログ収集によって得られたデータは、2025年9月から10月頃のリリースが見込まれる「Windows 11 Version 25H2」の品質向上に活かされる。25H2は、前バージョン(24H2)と同じプラットフォームを基盤とし、新機能を有効化する「イネーブルメントパッケージ」として提供される可能性が高い。これは、OSの根幹部分に大きな変更を加えるのではなく、既存機能の磨き込みや安定性向上に主眼が置かれることを意味しており、今回のパフォーマンス改善への注力とも方向性が一致する。

すでに、25H2で期待される具体的な改善点もいくつか明らかになっている。

劇的に高速化するファイルエクスプローラー

長年、動作の重さが指摘されてきたファイルエクスプローラーだが、25H2では特に「ホーム」タブの読み込み速度が劇的に改善されるようだ。一部の報告によれば、旧ビルドでは15秒から20秒以上かかっていた読み込みが、わずか2〜3秒にまで短縮されるという。日々の業務で誰もが頻繁に利用する機能だけに、この改善がもたらす体感速度の向上は非常に大きいだろう。

バッテリー持続時間も改善?インテリジェントなCPU制御

もう一つの注目すべき新機能が、ユーザーの使用状況を検知し、PCから離れている際にCPUの動作を自動的に抑制(スロットル)するというものだ。これにより、不要な電力消費を抑え、特にノートPCのバッテリー駆動時間を延ばす効果が期待される。

この機能がどのようなメカニズムでユーザーの在・不在を判断するのか詳細はまだ不明だが、PCの利用パターンを学習するアルゴリズムが用いられると推測される。バックグラウンドタスクの実行に影響が出ないかといった懸念も一部では指摘されているが、適切に実装されれば、パフォーマンスと省電力の両立に貢献する興味深い機能となりそうだ。

ユーザーと共に創るOSへ、Microsoftが描く未来

今回のMicrosoftの動きは、OS開発の哲学そのものが、よりユーザー中心で、データ駆動型のアプローチへとシフトしていることの表れと言えるだろう。

これまでのOS開発は、いわば開発者が「最良」と信じるものをユーザーに提供する形が主流だった。しかし、ハードウェアやソフトウェア、そしてユーザーの利用シーンがかつてないほど多様化した現代において、そのアプローチは限界を迎えつつあるのかもしれない。

Microsoftが今回提示した「ユーザー参加型」の改善サイクルは、無数の利用環境で発生する捉えどころのない「遅さ」という問題を解決するための、最も合理的かつ効果的な方法と言えるだろう。自らのフィードバックが製品をより良くしていく。この透明性の高いプロセスは、ユーザーと開発者の間に新たな信頼関係を築き、Windowsというプラットフォーム全体の価値を高めることにも繋がりそうだ。

長年の「もっさり感」との決別を宣言したWindows 11。その進化の鍵は、今や我々ユーザー一人ひとりの手の中にも委ねられているのだ。


Sources