ハイエンドスマートフォンの価格が20万円を超える中、ユーザーは次世代機に価格に見合う明確な進化を求めている。2026年夏に登場が見込まれるGoogleの「Pixel 11」シリーズも、購入のハードルが上がりつつある。Android Authorityのリーク報告によると、次期SoC(System on a Chip)「Tensor G6」はTSMCの最先端2nmプロセスで製造される。しかし、グラフィックス処理を担うGPUには2021年の設計が採用されるという。最先端の製造技術と古いGPUを組み合わせる設計の背景を紐解く。

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2nmプロセスの採用と7コアへ削減されたCPUの仕様

2025年の「Tensor G5」で、Googleは長年のパートナーだったSamsung Foundryから決別し、TSMCの3nmプロセスへと製造を移行した。続くTensor G6では、TSMCの最新鋭である2nmプロセスを採用する。微細化が進むことでチップ内のトランジスタ密度が高まり、消費電力の低下と処理能力の向上が見込める。競合他社の主力チップが3nmプロセスに留まる中、製造技術の面ではGoogleが先行する形になる。

処理を担うCPUの構成は、Tensor G5の8コアから7コアへと削減される。ARMの最新アーキテクチャである「C1 Ultra」コアを1基(4.11GHz)、高性能「C1 Pro」コアを4基(3.38GHz)、そして効率重視のコアを2基(2.65GHz)搭載する。コア数は減るものの、各コアの動作周波数は大幅に引き上げられている。特にシングルコアの処理能力で、高クロック化はG5世代との明確な差につながる。

コア数を減らしてクロック周波数を上げるアプローチは、高騰するチップ製造コストの抑制と直結している。TSMCの2nmウェハーは非常に高価であり、チップの面積を少しでも小さく抑えることが、端末価格を維持するための至上命題だ。コアを1つ削ることで空いたスペースは、AI処理専用のNPU(Neural Processing Unit)や、新たなセキュリティチップ「Titan M3」の搭載領域として活用される。

なぜ新しいTensor G6はGPUで「後退」を選んだのか

Tensor G6には、Imagination Technologies製の「PowerVR CXT-48-1536」が搭載される見込みだ。現行のTensor G5の「IMG DXT-48-1536」から、2021年発表の古いアーキテクチャへ退行する。最新の2nmプロセスを採用したとしても、発熱や歩留まりの問題からチップサイズを無限に大きくすることはできない。限られたシリコンの面積をGPUの最新機能に割くのではなく、別の処理ユニットへ振り分ける決断を下したと推測される。

2021年に登場したCXTシリーズは、モバイル向けGPUとして初めてハードウェア・レイトレーシングを本格的にサポートした。これは光の屈折や反射を物理法則に従って計算し、現実世界に近いリアルな映像を描き出す技術を指す。CXTは複雑な計算を専用の回路で処理し、モバイル端末でも高度なグラフィックス表現を実現した。このアーキテクチャ自体は、現在でも一定の水準を保っている。

後継のDXTシリーズは、CXTの性能を維持しつつ、フラグメントシェーディングレートと呼ばれる技術を強化している。画面内でプレイヤーの視線が集中する部分だけを高解像度でレンダリングし、背景などの目立たない部分の描画負荷を下げる仕組みだ。Tensor G6がCXTへ回帰することで、描画負荷の最適化機能の一部が失われる。重い3Dグラフィックスを多用する最新のゲームタイトルで、フレームレートの低下や発熱といった問題が顕在化するリスクがある。

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ベンチマークを捨てて端末内AI処理へリソースを割く戦略

Pixel 11シリーズでは、生成AI「Gemini」のシステム統合がさらに深化する予定だ。クラウドに依存せず端末単体で音声認識、翻訳、画像生成をこなすには、専用の演算ユニット——NPUの処理能力が直接ボトルネックになる。Tensor G6でGoogleがチップ面積を割いたのは、そこだ。

ゲームの最高画質設定で60fpsを維持するためのGPU性能よりも、音声入力から画像編集まで、AIが操作の流れを途切れさせずに処理する体験に重きが置かれている。7コア化されてクロックが引き上げられた新しいARMコアは、アプリの起動やウェブブラウジングといった普段使いのレスポンスを向上させる。新しいMediaTek製モデムの採用により、長年の課題であった通信の安定性とバッテリー消費の改善も見込める。

Pixel 11から折りたたみ型のPixel 11 Pro Foldに至る幅広いラインナップを展開する上で、SoCの製造コストをどう抑えるかは重要な課題だ。最先端の2nmプロセスに旧世代のGPUアーキテクチャを組み合わせるトレードオフを選んだ形になる。Googleはベンチマーク競争から降り、GPUの世代を意図的に下げてまでAIの日常統合を優先した。その設計選択そのものが、Tensor G6の最も雄弁なメッセージと言えるだろう。