2026年4月29日、SNS上にひとつの投稿が流れた。GPUレビューで知られるブラジルの技術系メディアTecLabのRonaldo Buassaliが、GALAX BrazilのX(旧Twitter)アカウントに、Palit MicrosystemsがGALAX社の全運営を引き継いだことを告知する文面を掲載したのだ。その後、この投稿は削除されたが、複数の海外メディアが一斉にキャッチアップし、「GALAXが30年の歴史に幕を下ろした」「市場撤退」と報じた。

ところが、その数時間後にPalitとGALAX双方が公式声明を発表し、事実関係を明確に訂正した。両社の声明が示す事実は一点に収束する。GALAXは市場から撤退しない。GPUの開発・製造・サポートは継続する。今回の出来事は法人としての独立運営の終焉であり、ブランドの消滅ではない。

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最初の報道が生んだ混乱と、その実態

当初の混乱は、GALAX BrazilのWebサイトに掲示されたPalitからの通知文が発端である。その文面には「Palitがすべての運営と責任を引き継いだ」「旧来の組織体制は解散し、チームは解雇された」と記されていた。この措辞が「市場撤退」として読まれたのは無理もない。

しかし後日公表されたPalit Groupの公式声明は、まったく異なる絵を描いていた。「GALAXは事業を停止しない。高性能ハードウェアの開発・製造・サポートへの全面的なコミットメントを継続する。GALAX、KFA2、HOF(Hall of Fame)ブランドの管理は、Palit Groupの本部に集約された。これはブランドのグローバルなプレゼンスを強化するための戦略的な移行であり、縮小ではない」というのが声明の骨子だ。GALAXもまた独自の声明を出し、「次世代のGALAX、KFA2、HOFシリーズのGPUが発売される」ことを確約している。

整理すると、今回の出来事は三つの事実から成り立っている。第一に、GALAXという独立した法人は解散し、そのチームは解雇された。第二に、GALAXブランドとHOFシリーズは存続し、製品ラインの継続が公式に約束された。第三に、ブランドの管理主体が2026年4月1日付でPalit Group本社(台湾)に完全移管された。この三点を切り分けずに報じたメディアが「撤退」という誤解を招いた。

30年の軌跡:GALAXとはどのような企業だったか

1994年、香港で設立されたGalaxy Microsystemsは、当初コンピュータハードウェアの流通業者として出発した。NVIDIAのAIC(Add-in Card)パートナーとなったのは1999年で、2000年代初頭にはOEM供給から自社ブランドへと軸足を移し、2007年には米国小売市場に進出した。

転機となったのは2008年、Palit MicrosystemsによるGalaxy買収だ。Palitは1988年にLi Shilongによって設立されたGPU専業AIBメーカーで、台湾に本拠を置き、Gainward、KFA2、XpertVision、Daytonaなど複数のブランドを傘下に持つ。自称「世界最大のNVIDIA公認AIBパートナー」であるPalitは、GALAXの買収によってそのポートフォリオをさらに拡充した。

GALAXが熱狂的な支持を集めるきっかけとなったのが、2011年に始まったHall of Fameシリーズ(HOF)である。手選別したGPUダイと大容量VRMを白いPCBに載せたその設計思想は、EVGAのKINGPINシリーズと並ぶ、極限オーバークロック向けハードウェアの代名詞となった。TecLabのRonaldo Buassaliをはじめとする世界各地のオーバークロッカーが、HOFカードを用いて液体窒素(LN2)環境でのGPU世界記録を塗り替えてきた。2025年初頭にはRTX 5090 HOF OC LABが3.27GHzというクロック周波数でオーバークロックされ、2025年8月にはKFA2 RTX 5070 Ti HOFが21フェーズ電源とカスタムPCBでメディア向けに提供された。RTX 5080 HOFが最後にメディアでレビューされたGALAX製品となった、とWccftechは記録している。

欧州市場では「GALAXY」「GALAX」という名称が商標上の理由から使用できず(Samsungのシリーズとの競合が要因のひとつ)、同一設計のカードがKFA2の名称で販売されてきた。2013年の社名変更(Galaxy Microsystems→GALAX)と2014年のKFA2統合を経て、グループは単一のブランド管理体制に移行した。

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撤退ではなく統合——今回の構造的な意味

今回の変化の本質は、法人格の解散とブランド継続性の分離にある。GALAXという独立した法人が持っていた「自前のエンジニアチーム、自前のPCB設計、自前の意思決定」は失われた。その代わり、ブランドとしてのGALAX、KFA2、HOFはPalit Groupの内部部門として存続する。

香港のGALAXオフィスは閉鎖され、マネジメントは台湾のPalit本社に移管された。VideoCardzが記録するように、変更の発効日は2026年4月1日である。Palitがこの統合の理由として挙げたのは「管理効率の向上」と「AI時代における原材料のサプライチェーン制約」だ。後者の文言には、2026年のGPU市場を覆う構造的な問題が凝縮されている。

GDDR7メモリの需給逼迫は、2026年前半に深刻な状態にある。NVIDIAはRTX 50シリーズの生産量を30〜40%削減したという報道が複数ある。TSMCやSamsungの製造キャパシティがAI向けHBMメモリ生産に引き寄せられ、コンシューマGPU向けGDDR7の供給が圧迫されているためだ。自社でメモリ事業を持たず、ファウンドリのキャパシティを直接確保できない独立AIBにとって、この状況は致命的なリスクになる。Palitのような大規模メーカーであれば、大量調達によってコストと供給安定性で優位に立てる——その差が、GALAX独立運営の経済的合理性を侵食した。

Guru3Dはこの再編を受け、GALAXブランドが中国市場への集中戦略に移行するとの見方を示している。国際市場でのGALAX製品の視認性が低下する可能性は否定できない。ただし、GALAX.comやszgalaxy.com(中国向けサイト)は4月29日時点で通常通り製品を掲載したままであり、VideoCardzが示した「これらのサイトが製品を削除するかPalitにリダイレクトを開始した時点が事実上のブランド消滅」という基準はまだ満たされていない。また、NVIDIA Philippinesとの協力関係から、フィリピン市場では当面GALAXブランドの流通が続くとの報告もある。

EVGAとの比較が浮かび上がらせるもの

2022年9月、EVGAはNVIDIAとのパートナーシップを突然打ち切り、GPU事業から完全撤退した。EVGA CEOのAndrew Hanが当時語った理由は、NVIDIAとの関係悪化という極めて個人的かつ原則的なものだった。今回のGALAXは状況がまったく異なる。撤退でも決別でもなく、親会社による吸収だ。

しかし結果として見れば、どちらもオーバークロッカーコミュニティにとって象徴的な存在が市場から姿を変えた、という事実に違いはない。EVGAのKINGPINとGALAXのHOFは、ともに量産品では絶対に実現できないカスタム設計と極限性能の追求という哲学を持っていた。その「ブランドの中身」を形成していたエンジニアやオーバークロッカーとの関係が、今回の統合によって断ち切られた可能性は高い。HOFというロゴが次世代製品に刷られても、それを設計したチームがPalit内部でどう再編されるのかは、外部から確認する術がない。

Igor Wallossek(igorsLAB)は鋭く指摘する。「ブランドは理論上継続できる。HOFシリーズもいつかPalitのリーダーシップのもとで復活するかもしれない。しかし、それを設計し、テストし、オーバークロッカーに届けてきた人たちは解雇された。人のいないブランドは、せいぜいシールに過ぎない」。この言葉は、「ブランド継続」という公式声明が示す表層と、製品開発の実態との間にある溝を正確に捉えている。

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カスタムAIBとしての経済学が成立しなくなる時代

GALAXが直面した問題は、自社ファウンドリもメモリ製造ラインも持たない中規模AIBが2026年のGPU市場でどこに向かうかという、業界規模の問いに直結している。HOFシリーズのようなカスタム設計製品は、開発コストが嵩む割に出荷数は限られ、ターゲット層もオーバークロッカーに特化しすぎている。AI向けデータセンター需要が市場の重力を変えた2026年において、このビジネスモデルはパレート最適から外れていく。

Palitは自社のキャパシティを使って同等のモデルをより低コストで製造できる。GALAX独自のエンジニアリング体制を維持する経済的正当性は、メモリ逼迫が続くほど薄れていく。この論理はGALAX固有の問題ではなく、似た構造を持つあらゆる中規模AIBに等しく適用される。その意味で注目されるのがKFA2の扱いだ。KFA2は欧州でGALAXブランドの代替として機能してきた主要チャンネルであり、欧州のGALAX製品購入者にとって実質的な窓口だった。Palitが今後KFA2を欧州向け戦略ブランドとして積極展開するか、それともGainwardと同様に静かな存在に留めるかで、Palit Groupの非中国市場戦略の方向性が見えてくる。

GALAXの統合は、AI時代がGPUのコンシューマ側にどう圧力をかけるかを示す事例として残る。NVIDIAはより大きなAIBパートナーに依存し、小規模・独立系のブランドは統合か退場を迫られる——その流れは、2026年だけで完結する話ではないだろう。