テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

核融合スタートアップTAEがGoogleらから1.5億ドル調達、商用核融合実現へ加速するクリーンエネルギーの未来

Y Kobayashi

2025年6月4日5:54AM

核融合エネルギー開発スタートアップのTAE Technologies(以下、TAE)は、最新の資金調達ラウンドで当初目標を上回る1億5,000万ドルを獲得したことを発表した。この資金調達ラウンドにはChevron、Google、NEA(New Enterprise Associates)など、新旧の投資家が名を連ねており、TAEの技術的優位性と商用化への道筋に対する市場の信頼が一層高まった結果である。今回の資金は、同社が誇る画期的な「Norm」ブレークスルーの商用化に向けた開発と、次世代実証機「Copernicus」の建設加速に充てられる見込みだ。

スポンサーリンク

資金調達の概要と目的

TAEは1998年の創業以来、商用核融合によるクリーンエネルギー実現を追求し、これまでに総額13億ドル超のエクイティキャピタルを調達してきた。今回のラウンドでは、新規および既存投資家を含むグローバルな資本が引き続き参画し、当初目標を上回る1億5,000万ドルを調達した。参加投資家として特筆すべきは、石油メジャーのChevron、テクノロジー大手のGoogle、ベンチャーキャピタル大手のNEAなどであり、各社の投資判断はTAEが採用する先進的なField‐Reversed Configuration(以下、FRC)ベースの核融合技術に対する確固たる将来性を示している。 また、TAEはこのラウンドでさらに追加資金を調達するオプションを有しており、今後のニーズに応じて柔軟に資本調整を図る方針だ。

資金調達の目的は主に以下の3点に集約される。

  1. Normブレークスルーの商用化加速
    先日TAEが発表した「Norm」は、従来比でコストを劇的に削減しつつ、安定したプラズマを70万℃以上で生成する技術である。この技術は、簡素化された装置構造にもかかわらず高い融合性能を実現し、商用炉「Da Vinci」への移行を見据えた重要なマイルストーンとなっている。
  2. Copernicus実証機の迅速な建設
    CopernicusはTAEが開発する6世代目デモ機であり、2020年代末までに正味エネルギー達成(ブレークイーブン以上)を目指す。今回の資金により、建設・稼働スケジュールを前倒しし、技術検証フェーズを短期集中で実施する見込みである。
  3. 研究開発体制の強化と人材確保
    世界各地の研究拠点において高度人材の採用・研究開発環境の整備を進める。特に、Google Researchとの共同研究で培われたAIベースのプラズマ解析技術を深化させることで、FRCプラズマの制御・最適化をさらに推進する。

出資者と背景、Googleとの協業

今回参画した投資家の中でも、特筆すべきはGoogleである。Google Researchは2014年よりTAEと共同でプラズマ構造解析アルゴリズム「Optometrist Algorithm」を共同開発し、高品質なプラズマ閉じ込めと長寿命化を実現する研究成果を生み出してきた。これにより、TAEはプラズマ性能を飛躍的に向上させ、商用実証機の実現可能性を大きく引き上げた経緯がある。

Googleは長期的な視点で核融合技術への投資を続けており、これまでに資金提供だけでなく、AIエンジニアの派遣やデータ解析インフラの提供によって、TAEの研究開発を多角的にサポートしてきた。2023年には「Norm」開発に向けた簡素化アプローチが明らかとなり、その実証はGoogleとの密接な連携があったからこそ可能となった。今回の投資ラウンドにより、GoogleはTAEの商用化フェーズにおいても引き続き技術面・資金面で先導的な役割を果たすことになる。

また、石油大手Chevronの参画は、従来の化石燃料からクリーンエネルギーへの移行を加速させる業界の潮流を如実に表している。Chevronはエネルギートランジション戦略の一環として、再生可能および先進的エネルギー技術への投資を強化しており、TAEのプラズマ技術はその革新性と実現見通しの高さから高い評価を受けた。NEAも長年にわたり先端テクノロジー企業への投資で実績を上げており、核融合がエネルギー市場のパラダイムシフトをもたらす可能性を見据えた判断となった。

スポンサーリンク

技術的ブレークスルーとFRCアプローチの優位性

TAEが採用するField‐Reversed Configuration(以下、FRC)アプローチは、核融合プラズマを中性粒子ビームのみで形成・維持する世界初の技術である。FRCは高効率なプラズマ閉じ込めを実現しつつ、コンパクトな装置設計を可能とする。その結果、TAEのデモ機は従来の大規模トカマク型機器に比べて小型かつモジュラー設計であり、建設・運用コストの大幅削減が期待される。

2025年4月に発表された「Norm」は、FRCベースのシステムにおいて、従来にないシンプルなプラズマ形成手法を採用し、プラズマ温度70万℃超の安定運転を実現したブレークスルー技術だ。これにより、コストや複雑性が大幅に削減され、燃料である水素とホウ素(H-B11)を用いた低放射能かつ高効率な融合反応が可能となった。H-B11融合は従来の重水素‐トリチウム(D-T)融合に比べ、長寿命の放射性廃棄物をほとんど発生せず、安全性が飛躍的に向上する点で注目されている。

TAEはこれまでに5世代にわたるデモ機開発を行っており、それぞれの世代でスケールアップと性能向上を達成してきた。最新のCopernicusは6世代目にあたり、正味エネルギー達成(エネルギーブレークイーブン)の検証を目標としている。Copernicusの成功は、商用炉「Da Vinci」実現への重要なステップとなり得る。Da Vinciは2030年代初頭に運転開始予定のTAE初のプロトタイプ炉であり、世界初の商用核融合発電所として注目されている。

商用化へのロードマップと市場への影響

TAEはこれまでに1,500件以上の特許を取得し、研究開発からデモンストレーション機の建設まで一貫した技術開発体制を確立してきた。今回の資金調達により、Copernicusの建設・性能検証を加速し、その後は2030年代初頭のDa Vinci稼働に向けた商用化フェーズへと移行する計画である。

商用化に成功すれば、TAEの核融合炉は以下のような特長を提供する:

  • カーボンフリーかつ基地電力規模の発電能力:化石燃料を一切使用せず、地球規模でのエネルギー需要増に対応可能。
  • 高い安全性:核分裂炉と異なり、メルトダウンリスクはなく、長寿命放射性廃棄物もほとんど発生しないため、都市部やデータセンター近傍への設置が可能。
  • モジュラー設計による迅速導入:従来型の石油ガスタービンと同規模のフットプリントで構築でき、地域・用途に応じた柔軟な設置が可能。

市場への影響は計り知れず、特にデータセンターやAI関連施設など、電力需要が急増する分野では、TAEの核融合エネルギーがゲームチェンジャーとなる可能性が高い。実際、Binderbauer CEOも「AIとデータセンターの成長に伴い、世界のエネルギー需要は指数関数的に拡大している。TAEの技術は、この需要をクリーンに満たすための理想的なソリューションだ」と強調している。

核融合エネルギーは、気候変動対策とエネルギー安全保障の両立を可能にする究極のクリーンエネルギーとして期待されている。今回の大型資金調達により、TAEは商用核融合発電の実現に向けて大きく前進することになる。果たして2030年代に本当に核融合発電が実現するのか。世界中の注目が集まっている。


Sources

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする