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『ポケモン』のゲームフリークが放つ完全新作『Beast of Reincarnation』―なぜ彼らは“可愛い”を捨て、過酷な「和風ソウルライク」に挑むのか?

Y Kobayashi

2025年6月9日

世界で最も愛される「生命」を創造してきた開発スタジオが、その真逆とも言える世界に足を踏み入れた。日本時間6月9日に開催された「Xbox Games Showcase 2025」にて、『ポケットモンスター』シリーズの開発で知られる株式会社ゲームフリーク(GAME FREAK)が、完全新規IPとなる3DアクションRPG『Beast of Reincarnation』を正式発表。2026年にPC、PlayStation 5、Xbox Series X|S向けに発売され、Xbox Game Passにも初日から対応することが明かされた。

『ポケモン』の温かく、どこか懐かしい世界観とは一線を画す、ダークでリアリスティックなグラフィック。崩壊後の日本を舞台に繰り広げられる、テクニカルで過酷な戦闘。この衝撃的な発表は、ゲームフリークというクリエイター集団の新たな野心と、日本のゲーム開発が持つポテンシャルの奥深さを、我々にまざまざと見せつけるものだ。

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『ポケモン』の巨人が見せる新たな顔

Beast of Reincarnation | Reveal Trailer

Xbox Games Showcaseという、任天堂のライバルとも言うべきMicrosoftの牙城でゲームフリークの名を聞いて「まさかXboxにポケモンが?」と、多くのゲーマーがそう予期していたであろう発表の場で、映し出されたのは見慣れたモンスターたちの姿ではなかった。退廃的でありながらも荘厳な自然が広がる、終末後の日本。そこで剣を振るう一人のキャラクターと、異形の怪物たち。それが『Beast of Reincarnation』の最初の姿だった。

本作は、かつて『Project Bloom』というコードネームで存在が示唆されていたタイトルだ。2023年にその存在が明かされた際、「我々の過去作とは大胆に、そしてトーンが異なる新しいIPを創造する機会に興奮している」と、ディレクターの古島康太氏は語っていた。その言葉通り、本作はゲームフリークのパブリックイメージを根底から覆すほどの挑戦に満ちている。

開発を率いる古島康太氏は、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』や『Pokémon LEGENDS アルセウス』でサウンドマネージャーを務めた経歴を持つ異色のディレクターだ。音響のプロフェッショナルがゲーム全体の舵取りをすることで、どのような独創的な体験が生まれるのか。その手腕に、今から期待が高まる。

『Beast of Reincarnation』とは何か?―「穢れ」と「絆」が織りなす物語

公開されたトレーラーとSteamのストアページから、本作の物語と世界の輪郭が見えてくる。

  • 舞台: 世界崩壊後の日本。西暦4026年、人類が滅亡を待つだけの世界。
  • 物語の核心: 荒野の中に突如として森林が生い茂るなど、常に姿を変える無常の世界を舞台に、万物を蝕む「穢れ」の根源に立ち向かう旅が描かれる。
  • 主人公: エマ。彼女は「穢れ人(けがれびと)」として人々から疎まれてきた存在であり、人類最後の希望を背負う「封印する者」でもある。
  • 相棒: クゥ。犬の姿をした「腐蝕犬(ふしょくけん)」であり、エマの唯一無二の忠実な相棒。

Steamの公式説明には「相棒の存在の頼もしさと温もり、また、寂しさを感じる旅を体験できる」とある。これは、単に敵を倒し進むだけのアクションゲームではないことを示唆している。プレイヤーは、主人公エマとして、相棒クゥとの関係性を育んでいくことになるだろう。また「エマとクゥの絆が強まることで、奇妙な力が花開いていく」との記述もあり、この「絆」がゲームシステムの中核を担う重要なメカニクスであることは間違いない。

「穢れ人」と「腐蝕犬」。社会から爪弾きにされた孤独な一人と一匹が、世界の命運を懸けて旅をする。この設定だけでも、重厚でエモーショナルな物語が期待できる。

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ゲームプレイの深層―「和風ソウルライク」と「絆」が融合する新体験

本作のジャンルは「アクションRPG」とされているが、その実態はよりハードなものになりそうだ。海外メディアからは「ソウルライク」や「要求の厳しい、テクニカルな戦闘」といった言葉で評されており、一筋縄ではいかない高難易度のバトルが待ち受けていることが窺える。

公開された映像からは、以下の要素が確認できる。

  • 三人称視点の高速戦闘: 主人公エマが剣を手に、巨大な植物の怪物やメカニカルな敵と対峙する。スピーディーな回避や、敵の攻撃を見切って反撃する「パリィ」のようなアクションが見られる。
  • 巨大なボスとの死闘: 圧倒的なスケールのボスとの戦闘は、本作のハイライトの一つとなりそうだ。単純な力押しではなく、敵の行動パターンを学び、弱点を見抜く戦略性が求められるだろう。
  • 探索とプラットフォーミング: 荒廃した世界には、探索すべき場所が数多く存在しているようだ。トレーラーではツタを使って崖を登るシーンもあり、単調な戦闘の繰り返しではない、冒険の楽しさも盛り込まれている。

しかし、本作を単なる「和風ソウルライク」と片付けるのは早計だろう。最大の差別化要因は、前述した相棒「クゥ」との絆システムだ。高難易度アクションの緊張感と、孤独な旅路で唯一心を許せる相棒との温かい交流。この相反する要素がどのように融合し、プレイヤーにどのような感情を抱かせるのか。そこに、ゲームフリークが提示する新たなアクションRPGの形があるのかもしれない。

なぜゲームフリークは“ポケモンではない”ゲームを作るのか?

世界最大のエンターテインメントIP『ポケモン』を抱えるゲームフリークが、なぜこれほどまでにテイストの異なる、リスクを伴う新規IPに挑戦するのだろうか。

一つには、クリエイター集団としてのDNAが挙げられる。ゲームフリークは『ポケモン』専門の開発会社ではない。過去にも『GIGA WRECKER』や『リトルタウンヒーロー』といったユニークなオリジナルタイトルを手掛けており、常に新しい表現やゲーム体験を模索し続ける姿勢は、同社の根幹にある企業文化と言える。巨大な成功に安住せず、新たな挑戦の場を求め続けることは、クリエイターたちの情熱を維持し、ひいては『ポケモン』本編の開発にも新たな活力を与える源泉となり得る。

また、パブリッシャーの変遷も興味深い。本作は当初、Take-Two Interactive傘下のインディー系レーベル「Private Division」から発売される予定だった。しかし、その後のTake-Twoの事業再編により、新たに設立されたパブリッシャー「Fictions」からのリリースへと変更された。この経緯は、本作の開発が決して平坦な道のりではなかった可能性を示唆すると同時に、プロジェクトを完遂させようという開発チームの強い意志を感じさせる。Fictionsのエグゼクティブ・プロデューサー、ミカ・クロサワ氏は「ゲームディレクターの古島さんを始め、ゲームフリークの名高い開発チームの皆さんと協力できることは大変光栄に思っています」とコメントしており、強固なパートナーシップのもとで開発が進められていることがわかる。

この挑戦は、ゲームフリークが「ポケモンの会社」という枠を超え、多様なジャンルで世界に通用するタイトルを生み出せる総合的な開発スタジオであることを証明する試金石となるだろう。

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2026年への期待―Game Pass対応がもたらす戦略的意味

『Beast of Reincarnation』は2026年に発売予定。対応プラットフォームはPC(Steam/Microsoft Store)、PS5、Xbox Series X|Sと、主要な現行機を網羅している。

特に注目すべきは、発売初日からのXbox Game Pass対応だ。
これはプレイヤーにとって、月額料金のみでこの大作をプレイできるという大きなメリットがある。一方で、開発・販売側にとっても戦略的な意味合いは大きい。全く新しいIPは、その面白さが伝わる前にプレイヤーから敬遠されがちだ。しかしGame Passに対応することで、膨大な数の潜在顧客に「まず一度、触れてもらう」機会を創出できる。口コミやSNSでの拡散を狙う上で、これ以上ない追い風となるだろう。

Microsoftにとっても、日本の有力デベロッパーであるゲームフリークの完全新作をGame Passの目玉としてラインナップに加えられることは、日本市場におけるXboxブランドの価値を大きく高める一手となる。

『ポケモン』という光り輝く太陽の下で、静かに、しかし着実に育まれてきたもう一つの種子、『Beast of Reincarnation』。それは、ゲームフリークが持つ創造性のもう一つの側面であり、日本のゲーム開発が秘める底知れぬ可能性の表れだ。2026年、我々はこの一人と一匹が紡ぐ、美しくも過酷な旅の果てに何を見るのだろうか。その答えを、今はただ楽しみに待ちたい。


Sources

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