PCゲーマー、特に最新のグラフィックボード(GPU)を持たない多くのユーザーにとって、まさに朗報と言えるニュースが飛び込んできた。NVIDIAのDLSSやAMDのFSRといったメーカー純正技術に頼らず、GPUを問わず利用できる汎用アップスケーリング&フレーム生成ツール「Lossless Scaling」が、バージョン3.1へのメジャーアップデートを公開したのだ。
目玉は、新搭載された「パフォーマンスモード」。開発者によれば、GPUへの負荷を「最大で2倍削減」、つまり半分にする可能性があるという。加えて、パフォーマンス向上だけでなく、地道な画質改善も同時に果たしたという今回のアップデートの内容を詳しく見ていこう。
ゲーミング界に再び衝撃、Lossless Scaling 3.1がもたらす「二つの革命」
今回のアップデートは、“パフォーマンス”と”クオリティ”という、トレードオフの関係になりがちな二つの要素を同時に進化させようとする、野心的な試みだ。
一つ目の革命は、言うまでもなく「パフォーマンスモード」による劇的な負荷軽減だ。これは、これまでフレーム生成技術の導入をためらっていた、ミドルレンジや旧世代のGPUユーザーにとって、まさにゲームチェンジャーとなりうる可能性を秘めている。
そして二つ目の革命は、その影に隠れがちだが、同样に重要な「画質改善」である。フレーム生成技術に付きまとう残像やちらつきといったアーティファクトの低減、そしてUI(ユーザーインターフェース)の安定性向上。これらは、ツールの完成度を一段上のレベルへと引き上げ、より多くのユーザーにとって「常用できる」選択肢たらしめるための、地道だが決定的な進化と言えるだろう。
目玉は「パフォーマンスモード」:GPU負荷は本当に“半分”になるのか?

今回のアップデートで最も注目を集めているのが、この「パフォーマンスモード」だ。公式のリリースノートには「ハードウェアと設定に応じて、最大2倍のGPU負荷削減を提供する」とある。これは、これまでGPUの性能不足で高フレームレートを諦めていたゲームが、一気に快適なプレイ領域に入ってくることを意味する。
最大2倍のGPU負荷削減のメカニズムとは
公式には詳細な技術的メカニズムは明かされていない。推測するに、これはフレーム生成のアルゴリズムにおいて、いくつかの計算プロセスをより効率的なものに置き換えるか、あるいは簡略化することで実現しているものと考えられる。
フレーム生成は、前後のフレームを解析し、その中間の「偽のフレーム」を描画する技術だ。この解析と描画のプロセスには当然GPUリソースを消費する。「パフォーマンスモード」は、おそらくこのプロセスにおいて、精度をわずかに犠牲にする代わりに、計算量を大幅に削減するようなアーキテクチャを採用したのではないだろうか。これにより、GPUは本来のゲームレンダリングにより多くのリソースを割くことができ、結果としてベースとなるフレームレートの向上と、全体的な負荷の軽減に繋がる。
「画質低下」と「画質向上」の二面性
ここで重要なのは、公式が「わずかな画質低下を伴う」と正直に言及している点だ。これは誠実な態度であり、ユーザーはトレードオフを理解した上で利用することができる。
しかし、興味深いのはその続きだ。「場合によっては、このモードはゲームが高いベースフレームレートを達成できるようにすることで、画質を向上させることができる」とも述べられている。
これは一見矛盾しているように聞こえるかもしれないが、理にかなっている。例えば、あるゲームを素の状態でプレイすると40fpsしか出ないPCがあったとしよう。この低フレームレートでは、映像がカクついて見えるだけでなく、プレイヤーの入力に対する画面の応答も遅れる。
ここに「パフォーマンスモード」を適用し、GPU負荷が軽減されベースフレームレートが60fpsまで向上したとする。たとえフレーム生成による微細な画質劣化があったとしても、40fpsのガクガクした映像に比べれば、60fpsの滑らかな映像の方がはるかに「高品質」に感じられるだろう。これは、単なる静止画のピクセル比較では測れない、「体感的なクオリティ」の向上だ。この二面性こそ、パフォーマンスモードの神髄と言えるかもしれない。
パフォーマンスだけじゃない。地道だが重要な「画質改善」の数々
派手なパフォーマンス向上に目を奪われがちだが、今回のアップデートにおける画質の改善点は、このツールの実用性を語る上で欠かすことができない。
ゴースティングとちらつきの低減
フレーム生成技術の永遠の課題とも言えるのが、ゴースティング(速く動く物体の周りに残像が見える現象)や、特定のオブジェクトがちらついて見える現象だ。これらは、特に動きの激しいアクションゲームやFPSにおいて、プレイヤーの没入感を著しく損なう。
LSFG 3.1では、これらのアーティファクトが明確に低減された。これにより、ユーザーはより安心してフレーム生成を有効にでき、純粋にゲームの世界に集中できるようになる。これは、パフォーマンス向上の恩恵をストレスなく享受するための、いわば土台作りのようなアップデートだ。
UI検出の改良 – “神は細部に宿る”
もう一つ、見逃せないのが「UI検出の改良」だ。体力バーやミニマップ、弾薬数といったゲームのUIは、常に画面の定位置に表示される。フレーム生成アルゴリズムがこれをゲーム内のオブジェクトと誤認すると、UIが歪んだり、二重に表示されたりといった問題が発生することがあった。
この問題は、ゲームプレイそのものを困難にしかねない致命的な欠陥だ。今回のアップデートでUI検出がより洗練されたことは、開発者がユーザーの実際のプレイ体験を深く理解し、細部にまでこだわって開発を進めている証左と言える。「神は細部に宿る」とは、まさにこのことだろう。
なぜLossless Scalingは支持されるのか? – 巨人たちに挑むインディーの星
NVIDIA、AMD、Intel。GPU市場の巨人たちが、それぞれDLSS、FSR、XeSSという強力な純正アップスケーリング技術を擁する中で、なぜこの「Lossless Scaling」はこれほどまでに多くのPCゲーマーから熱烈な支持を集めるのだろうか。
巨人たちの「純正技術」との決定的な違い
DLSSやFSR、XeSSが特定のGPUアーキテクチャに最適化されているのに対し、Lossless Scalingの最大の武器はその「汎用性」にある。GeForceだろうがRadeonだろうが、あるいはIntel Arc、さらにはCPU内蔵グラフィックス(iGPU)であろうと、DirectXが動作する環境であれば基本的に利用できる。
この「誰でも使える」という特徴が、DLSS非対応のGTXシリーズや、FSRの最新バージョンが使えない旧世代のRadeonシリーズといった、いわば“技術の狭間”に取り残されたユーザーにとって、唯一無二の希望となっているのだ。
驚異の個人開発とコミュニティの力
さらに驚くべきは、この高機能なツールが「THS」という一人の開発者によって生み出され、進化を続けているという事実だ。わずか数百円(Steamでの価格は800円)という手頃な価格設定も相まって、ユーザーコミュニティとの間に強い信頼関係が築かれている。今回のアップデートで、トキポナ語という人工言語を含む多様な言語に対応したことも、そのコミュニティ主導の姿勢を象徴している。
導入すべきか? Lossless Scaling 3.1の最適なユーザー像
では、この進化したLossless Scalingを、どのようなユーザーが試すべきなのだろうか。
こんなユーザーにこそ試してほしい
- GeForce GTX 10/16シリーズ、Radeon RX 500/5000シリーズなど、DLSS/FSRの恩恵を十分に受けられないGPUの所有者。 まさに、このツールが最も輝くターゲット層だ。
- ポータブルゲーミングPC(ASUS ROG Ally, Steam Deck等)のユーザー。 限られた電力とTDPの中でパフォーマンスを最大化したい場合に、強力な選択肢となる。
- 比較的新しいGPUでも、超高解像度や最高設定でさらなるフレームレートを追求したいエンスージアスト。 純正技術との併用や、純正技術が対応しないゲームでの活用も考えられる。
- CPU内蔵グラフィックスで、少しでも多くのゲームを楽しみたいライトユーザー。
注意点と設定の勘所
もちろん、Lossless Scalingは万能の魔法ではない。ゲームとの相性問題は依然として存在するし、最適な設定を見つけるには試行錯誤が必要だ。また、フレーム生成は原理的に入力遅延を増加させるため、コンマ1秒を争うような競技性の高いオンライン対戦ゲームには不向きな場合があることも念頭に置くべきだろう。
だが、Lossless Scaling 3.1は、最新技術の恩恵からこぼれ落ちてしまった無数のGPUに、再び輝くチャンスを与える素晴らしい選択肢を提供する物だ。この個人開発のツールが成し遂げているのは、まさに「技術の民主化」に他ならない。巨人たちの掌の上だけでなく、誰もがパフォーマンス向上の果実を手にできる。Lossless Scalingの挑戦は、PCゲーミングコミュニティ全体にとって、計り知れない価値を持っているのだ。
Sources
- Lossless Scaling: LSFG 3.1l
- Steam:
- via Tom’s Hardware: New Lossless Scaling update can reduce GPU load by 2x — Version 3.1 could be the most potent FSR/DLSS alternative yet