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GMの新型LMRバッテリー、EV航続距離とコストに革命か? 「400マイル超」と「LFP並みコスト」の現実味

Y Kobayashi

2025年5月14日

General Motors (GM) とLG Energy Solutionが共同で開発を進める新しい「リチウム・マンガンリッチ(LMR)角形バッテリーセル」が、電気自動車(EV)の未来を大きく左右する可能性を秘めているとして注目を集めている。2028年の商業生産開始を目指すこの新技術は、特にEVの普及における二大課題である「航続距離」と「車両価格」の同時解決に貢献することが期待できると言うのだ。

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LMRバッテリーとは何か? なぜ今、注目されるのか?

LMRバッテリーは、正極材料にマンガンを豊富に使用することを特徴とするリチウムイオンバッテリーの一種だ。従来の高性能バッテリーで主流だったコバルトやニッケルの使用量を大幅に削減し、より安価で安定供給が可能なマンガンを活用することで、バッテリーコストの低減を目指す。

GMのバッテリー担当副社長であるKurt Kelty氏は、「我々の使命は、できるだけ多くのEVを市場に投入することであり、そのためには内燃機関車と同等の価格を実現する必要があります」と語っており、LMR技術がその鍵を握るとの認識を示している。GMのエンジニアであるAndrew Oury氏に至っては、マンガンのコストについて「土のように安いと冗談を言うほどだ」と表現しており、コスト削減への期待の高さがうかがえる。

これまでLMR技術は、サイクル寿命(充放電を繰り返せる回数)や電圧維持特性などに課題があるとされてきた。しかし、GMは2015年からこの技術の研究開発に着手し、ミシガン州ウォーレンにある「Wallace Battery Cell Innovation Center」で試作を重ねてきた。LG Energy Solutionとの協業により、正極材、電解質、添加剤、セル形状、組み立てプロセスに至るまで改良を加え、これらの課題を克服したとGMは主張している。LG Energy SolutionはLMR技術に関する特許を200件以上保有しており、GMも50件以上の関連特許を持つなど、両社の技術的蓄積が今回の発表につながったと言えるだろう。

「400マイル超の航続距離」と「LFP並みコスト」の両立は可能か?

GMがLMRバッテリーで目指すのは、驚くべきことに「400マイル(約644km)を超える航続距離」と、「LFP(リン酸鉄リチウム)バッテリー並みの低コスト」の両立である。GMのプレスリリースによると、この新しいLMR角形セルは、現在最も高性能とされるLFPセルと比較して、同等のコストで33%高いエネルギー密度を実現するという。

この目標達成に貢献するのが、セル形状の変更だ。GMは現行のUltiumバッテリーで採用しているパウチ型セルから、LMRでは角形(プリズマティック)セルへと移行する。角形セルは、一般的に高密度実装に有利で、バッテリーパック全体の部品点数を削減できるメリットがある。TechCrunchの報道によれば、GMのKurt Kelty氏はこのセル形状の変更により、バッテリーパックの部品点数を50%以上削減できると述べており、これが大幅なコスト削減につながるという。

GMによれば、新しいLMRバッテリーと角形セルの採用により、電気トラックで最大400マイルの航続距離が可能になるとのことだ。これはGMの現行の高ニッケルバッテリーを搭載したEVの航続距離が300~320マイル(約483~515km)であることと比較すれば、大きな改善と言えるだろう。ちなみに、Chevrolet Silverado EVのような大型ピックアップトラックにおいては、NMC(ニッケル・マンガン・コバルト)バッテリーで既に400マイル以上が実現されているが、LMR技術によってより低コストで400マイル超の航続距離が実現される可能性がある。

これらの情報を総合すると、LMRバッテリーは必ずしも現行の最上位高ニッケルバッテリーの航続距離を全ての車種で劇的に凌駕するというよりは、「LFPバッテリーに匹敵するコストで、NMCバッテリーに近い、あるいは特定の車両セグメント(特にトラックや大型SUV)において十分以上の航続距離を実現する」という戦略的価値を持つと言えるだろう。LFPの価格でNMCの航続距離という、EV普及の起爆剤になる可能性を秘めていると言えるのではないだろうか。

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生産スケジュールとサプライチェーン戦略:GMの勝算

GMとLG Energy Solutionの合弁会社であるUltium Cellsは、2028年から米国でLMR角形セルの商業生産を開始する計画だ。これに先立ち、2027年後半にはLG Energy Solutionの施設で先行生産が始まる予定となっている。また、2027年初頭にはGMの「Battery Cell Development Center」(ミシガン州ウォーレン)が開設され、ここでLMRバッテリーセルの最終的な生産設計が検証される。

GMはLMR技術を、既存の高ニッケルバッテリーやLFPバッテリーを補完するものと位置づけ、特に電動トラックやフルサイズSUV市場における顧客の選択肢を拡大する方針だ。

材料調達の面では、コバルトやニッケルの使用量を減らし、安価で豊富なマンガンを積極的に活用することで、コスト削減と同時にサプライチェーンの安定化を図る狙いがある。特にコバルトは、価格が高いだけでなく、採掘における人権問題も指摘されており、その使用量削減は倫理的な観点からも重要だ。GMはマンガン供給業者であるElement 25に投資し、ルイジアナ州に年間100万台分のEVバッテリーに相当する硫酸マンガンを供給可能な施設を建設する計画を支援しており、北米地域でのバッテリー材料の現地調達を強化する姿勢を鮮明にしている。Kurt Kelty氏は、バッテリー生産の国内回帰は輸送コストの削減だけでなく、サプライチェーンのリードタイム短縮による品質管理の向上にも繋がるとそのメリットを強調している。

競合との比較と市場へのインパクト

EV用バッテリー技術の開発競争は熾烈だ。GMのライバルであるFordもLMRバッテリー技術の開発を発表しているが、その市場導入は2030年以降になる見込みだ。 GMが計画通り2028年にLMRバッテリーの商業生産を開始できれば、市場投入で先行できる可能性がある。

LMRバッテリーがGMの掲げる「400マイル超の航続距離」と「LFP並みの低コスト」という目標を達成できれば、EVの普及を大きく後押しすることは間違いないだろう。特に、価格が障壁となりやすいピックアップトラックや大型SUVといったセグメントにおいて、競争力のある価格で十分な航続距離を持つEVを提供できるようになれば、消費者のEVへの移行を加速させる可能性がある。

GMはこれまでに約300個のフルサイズのLMRセルを試作し、140万マイルから150万マイル(約225万kmから241万km)に相当する走行テストを実施したと報告しており、技術的な自信を深めている様子がうかがえる。

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残された課題

GMとLG Energy SolutionによるLMRバッテリー技術の発表は、EVの未来に明るい光を灯すものと言えるだろう。マンガンの活用によるコスト削減、角形セルの採用によるエネルギー密度向上とパックの簡素化は、理論上、航続距離と価格というEVの長年の課題に対する有力な解決策となり得る。

しかし、楽観ばかりはしていられない。実験室レベルでの成功と、安定した品質での大規模量産との間には、常に大きな壁が存在する。過去にも革新的なバッテリー技術が発表されながら、量産化のハードルを越えられなかった例は少なくない。GMがかつてUltiumセルの初期生産で立ち上げに苦労した経験を乗り越え、LMRバッテリーを計画通りに、そして目標通りの性能とコストで市場に投入できるかどうかが、今後の大きな注目点となる。

また、LMRバッテリーの長期的な耐久性や、様々な環境下での性能安定性についても、実際の市場投入後に厳しく評価されることになるだろう。GMは従来のLMR技術の課題であった容量低下や熱安定性の問題を克服したと主張しているが、その実力が試されるのはこれからだ。


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