Googleは「AIによる概要」等の新たなAI検索機能がWebへのトラフィックを減らしていないと公式に表明した。しかし、複数の第三者機関が発表するデータは、この検索巨人による楽観的な見解とは裏腹に、多くのパブリッシャーが深刻なトラフィック減少と収益損失に直面している現実を浮き彫りにしている。これら、食い違う主張の原因はどこにあるのか?そして、この新時代で我々が向き合うべきSEOの現実は果たしてどこにあるのだろうか。
食い違う主張:Googleの「安定」とパブリッシャーの「壊滅」
Google検索部門のトップ、Liz Reid氏は2025年8月7日に公開したブログ記事で、「AIによる概要」導入後もWebサイトへのオーガニッククリック総量は「前年比で比較的安定している」と発表した。 さらに、ユーザーがすぐに検索結果に戻らない「質の高いクリック」は、むしろ微増していると主張する。
Reid氏によれば、AIによってユーザーはより長く、複雑な質問をするようになり、結果として表示されるリンクも増えているという。 これが「Webサイトが発見され、クリックされる機会を増やす」というのがGoogleの論理だ。
しかし、この楽観的な見方は、Webの最前線で起きている現実とは大きく乖離している。多くのパブリッシャーやSEO専門家は、「AIによる概要」の導入以来、壊滅的なトラフィック減少を報告している。 あるメディアはトラフィックが70%近く減少したと訴え、これは事業の存続を脅かす「実存的脅威」だと指摘する。
この惨状を裏付けるように、Pew Research Centerの調査では、AIによる要約が表示されるとユーザーがリンクをクリックする可能性が著しく低下することが示されている。 また、Similarwebのデータによれば、ニュース関連の検索でクリックに至らない「ゼロクリック検索」の割合は、AIによる概要が本格導入された2024年5月の56%から、2025年5月には69%にまで上昇したという。

Googleはこれらの第三者機関のレポートを「欠陥のある方法論に基づいている」と一蹴するが、自らは主張を裏付ける詳細なデータを一切公開していない。 この姿勢が、多くの関係者の不信感を増幅させているのは間違いない。
「総量安定」の裏側で起きている“富の再分配”
なぜこれほどまでに見解が食い違うのか。筆者は、Googleが用いる「総量」という言葉に、巧妙なトリックが隠されていると見ている。たとえクリックの総数が安定していても、その内訳、つまり「誰が」そのクリックを受け取っているのかが劇的に変化している可能性があるのだ。
Reid氏自身も「ユーザーのトレンドがトラフィックを異なるサイトにシフトさせている」と認めている。 具体的には、「フォーラム、ビデオ、ポッドキャスト、そして本物の声や直接的な視点が聞ける投稿」があるサイトへの流入が増えているという。
この言葉が示唆するのは、一部の巨大プラットフォームへのトラフィック集中だ。特に、GoogleがAIの学習データとして大型契約を結んだRedditは、その恩恵を最も受けているサイトの一つだろう。 Ars Technicaが指摘するように、Redditのトラフィックは近年爆発的に増加しており、この成長とGoogleのアルゴリズム変更が無関係であるはずがない。
つまり、Googleの言う「安定」とは、エコシステム全体の繁栄を意味しない。無数のニッチな専門サイトや独立系メディアが失ったトラフィックが、Redditのような巨大フォーラムや一部の動画プラットフォームに集約されている。これは、検索エコシステム内での静かで、しかし大規模な“富の再分配”と言えるのではないだろうか。
「質の高いクリック」という新たな評価軸の狙い
Googleが今回、新たに「質の高いクリック」という指標を持ち出した点も注目に値する。 これは、単純なクリック数(Volume)という指標の価値を相対的に下げ、エンゲージメント(Quality)を新たな評価軸として提示しようとするGoogleの戦略的意図の表れだ。
AIが簡単な答えを提示することで、情報収集の浅い層は検索結果ページで満足し、Webサイトへは遷移しなくなる。一方で、AIの要約を読んだ上でさらに深く知りたいと考えるユーザーは、より明確な目的意識を持ってリンクをクリックする。結果として、サイト訪問者の滞在時間は長くなり、直帰率は下がるだろう。これがGoogleの言う「質の高いクリック」の正体だ。
この変化は、Webサイト運営者にとって、広告インプレッションに依存した従来のビジネスモデルからの転換を迫るものだ。クリック数は減るが、エンゲージメントの高いユーザーが増える。この変化を好機と捉え、新たなマネタイズ手法、例えば有料会員登録やニュースレター、アフィリエイトなどを強化する必要がある。
コンテンツ制作者が生き残るための「新・SEO戦略」
では、このAIが検索を支配する新時代に、コンテンツ制作者はどうすれば生き残れるのか。もはや従来のキーワード対策だけでは不十分だろう。
Googleが求めるのは「本物の声」と「独自の視点」だ。 これは、Googleが長年掲げてきた評価基準「E-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)」の、特に「経験(Experience)」をこれまで以上に重視するという明確なシグナルである。
我々が今すぐ取り組むべきは、以下の3点に集約される。
- 一次情報としての価値を高める: どこにでもある情報の焼き直しではなく、独自の調査、深い分析、そして書き手自身の「体験」に基づいたコンテンツを作成する。AIが生成したような無味乾燥な文章ではなく、書き手の熱意や人間味が感じられる物語性のある記事が、ユーザーだけでなくGoogleからも評価される。
- 多様なフォーマットへの展開: テキスト記事だけに固執せず、ポッドキャストや動画といった、Googleが名指しで言及したフォーマットにも積極的に挑戦する。複雑なテーマを解説する動画や、専門家へのインタビューを収録したポッドキャストは、強力な差別化要因となる。
- コミュニティの構築: GoogleがRedditを重視するように、ユーザー同士が交流できるフォーラムやコメント欄の活性化は、サイトの価値を高める上で極めて重要になる。読者を単なる消費者ではなく、対話のパートナーとして巻き込むのだ。
AIがWebから情報を吸い上げ、要約して提示する時代は、コンテンツの「原材料」としての価値を根底から揺るがしている。我々コンテンツ制作者は、もはや単なる情報の供給者であってはならない。独自の視点と深い洞察、そして人間味あふれる体験を提供する「信頼できる情報源」そのものになること。それこそが、AI時代における唯一の生存戦略だと、筆者は考えている。
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