GoogleはGoogle I/O 2026において、AIを活用した購買支援の中心的な機能として「Universal Cart」を発表した。これは、従来のブラウザのタブ管理や個別サイトごとのアカウント管理に依存した購買プロセスを整理し、ユーザーがGoogleのサービス内から直接商品を一元管理できるハブである。利用者は、Google Searchでの検索中や、Geminiとの会話、YouTubeの動画視聴、Gmailの受信トレイ確認といった多様な場面で、対象製品をこのUniversal Cartへ追加することが可能になる。
Googleの広告およびコマース部門担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーであるVidhya Srinivasan氏は、消費者が長期間にわたり複数の端末や異なる販売店を往復しながら購買の意思決定を行うという現実的な購買行動を指摘している。Srinivasan氏は、かつて自身がブラウザの同期機能や大量のタブを開くことで購入予定の管理を試みていた体験に触れ、そうした非効率な状態を解消することが開発の原動力であると述べた。
Universal Cartはこれらを一箇所に統合し、ユーザープロファイルアイコンの横にカートアイコンとして表示される。これにより、複数のウェブブラウザのタブを同期し続ける繁雑な作業が不要になる。
AIによる協調動作とプロアクティブな支援機能
Universal CartはGeminiモデルを基盤としており、カートに追加された製品の価格追跡や在庫状況の監視を自動的に実行する。この機能には、値下がり情報の通知や過去30日間の価格履歴の提示、および品切れ商品の再入荷通知が含まれる。 これに加え、AIの推論能力を用いたプロアクティブな選択支援が提供される。例えば、ユーザーが自作PCを組み立てるために複数の販売店からマザーボードとプロセッサをカートに入れた際、ソケット規格の不一致などの互換性問題を検出し、代替製品を提案する。 また、Google Walletとの連携により、ユーザーが所有するクレジットカードの特典や小売店のロイヤリティプログラム、提供されている値引き情報を分析し、最適な支払い方法や還元額の最大化につながる選択肢を提示する。 Googleは本機能のパートナーとして、Sephora、Target、Wayfair、Walmartのほか、Shopifyを活用するFentyやSteve Madden、さらにNike、Ulta Beautyなどの有名ブランドとの提携を明らかにしている。
利用者はGoogle Payを利用した簡略化されたチェックアウトを実行できる。さらに、必要に応じてカートの内容を小売店側のWebサイトに転送し、手続きを完了することも可能だ。
オープン規格Universal Commerce Protocolによる業界の連携と拡大
Universal Cartによる購買体験は、Googleが主要な小売店や技術パートナーと開発したオープン規格であるUniversal Commerce Protocol (UCP)に基づいている。UCPは、商品の検索からカートへの追加、決済、購入後の顧客対応までを共通化するためのオープンな言語仕様だ。
本規格にはWalmart、Shopify、Targetといった小売大手があらかじめ参画していたが、さらにAmazon、Meta、Microsoft、Salesforce、Stripeなどの企業がその運営委員会に加わった。UCPは、AIが購買行動を解釈するためのオープンな標準言語として策定されたものである。今年4月に業界の主導権を握る複数の技術・決済大手がUCPのステアリングコミッティに合流したことは、この規格の実用性と業界全体での標準化を前進させるものと言えるだろう。
Googleは、UCPを活用した決済機能を米国以外にカナダやオーストラリア、英国へ順次拡大する計画だ。また、対応する分野も物販からホテルの予約や食品デリバリーなどのサービス分野へと広げていく方針を定めている。
代理購買を可能にするセキュアな決済プロトコルAgent Payments Protocol
Google I/O 2026では、AIエージェントによる代理購買の安全性を確保するための規格として「Agent Payments Protocol (AP2)」が改めて発表された。これはユーザーが設定した明確な制約条件のもとで、AIエージェントに決済処理を委任するためのインフラである。
ユーザーは、購入したい製品のブランドや仕様、および許容する支出上限金額などのパラメータを事前に設定する。AIエージェントは、これらの条件がすべて満たされた場合に限って自動的に決済を実行する。AP2は、暗号技術を用いてユーザー、販売店、決済システム間の通信を暗号化するリンクである。改ざんが不可能なデジタル委任状(Digital Mandates)を通じてエージェントがユーザーの指示に完全に従っていることを証明する。
このプロセスによって生成される永続的な監査ログは、返品処理や注文トラブルの解決において、双方の確認手段となる。本プロトコルは、24時間稼働する個人向けAIエージェントであるGemini Sparkなどの製品に順次組み込まれる。
DoorDash問題への懸念とマーチャント・オブ・レコードモデル
AIエージェントによる購買の自動化は、小売業界において新たな議論を呼んでいる。消費者が販売元のウェブサイトを訪れることなく購買を完了できるようになると、小売店が顧客との直接的な接点を失い、自社製品以外の提案機会を奪われる危険性がある。これは小売店が配送プラットフォームに顧客接点を奪われ、自社店舗の存在感が希薄化する現象になぞらえて「DoorDash問題」として知られる課題だ。
実際、AI検索スタートアップのPerplexityが提供する代理購入機能に対してAmazonが法的措置をとるなど、プラットフォーム側と販売側の摩擦が生じている。また、OpenAIがChatGPT内に搭載した決済機能が期待を下回る成果に留まった事例もあり、実用的な決済機能の構築は課題とされてきた。
これに対してGoogleは直接の販売元(Merchant of Record)となることを避け、消費者と小売店を結びつける仲介者(Matchmaker)としての立場をとる姿勢を明確にしている。Universal Cartでの購入時も、小売ブランド側が販売責任者となり、決済はGoogle Payなどを経由して販売店に直接処理される。
また、Googleは本機能による販売手数料やコミッションを現時点で徴収しない方針をとっている。利用者はカート内の商品をそのまま小売店のサイトに移行して決済手続きを終えることも可能である。
実用化における課題と消費者からの信頼獲得への道
代理購買エージェントの実用化には、技術面および行動面でいくつかの課題が存在する。 技術的な課題としては、配送手数料や税金の加算による総額の変動が挙げられる。エージェントが設定された価格制限以下の商品を発見したとしても、配送料の上乗せによって他の選択肢より総額が高くなる場合、適切な比較と判断を行えるかどうかが問われる。 また、購買後のサポート体制についても調整が必要である。Googleは購入後のトラブル対応は小売店のサポート窓口で行うべきであるとしているが、AIエージェントによる自動注文に対して小売店がどのような返品・交換ポリシーを適用するかは現時点で標準化されていない。
加えて、消費者の心理的な抵抗感も普及の障壁となる。自身の金銭を機械の判断に委ねて決済させることへの信頼醸成は容易ではない。欲しい製品が予算をわずかに超えていても購入したいといった感情的な判断を、合理性に基づいて行動するエージェントがどのように補完するかという点も、今後の実装において検討すべき要素である。



