テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

ホンダ、再使用型ロケット実験に成功―誤差37cmの驚異の精密着陸で宇宙開発の主役へ

Y Kobayashi

2025年6月19日5:34AM

世界各国で企業や国がしのぎを削る宇宙開発に、自動車の巨人が突如として参戦した。本田技研工業(Honda)の研究開発部門が2025年6月17日、自社開発した再使用型ロケットの離着陸実験に成功したと発表。このニュースは、SpaceXやBlue Originが切り拓いた宇宙開発の新潮流に、日本から極めて有力なプレイヤーが名乗りを上げたことを意味する、まさに「事件」と言えるだろう。

スポンサーリンク

誤差37cmの衝撃:Hondaが達成した「垂直離着陸」の全貌

今回の実験が与えた衝撃の核心は、その圧倒的な技術的達成度にある。Hondaが公式に発表したデータは、およそ自動車メーカーの初挑戦とは思えないほどの完成度を示している。

実験が行われたのは、日本の「宇宙の町」としても知られる北海道広尾郡大樹町にあるHondaの専用実験設備。2025年6月17日、全長6.3メートル、直径85センチメートルの実験機が、轟音とともに垂直に舞い上がった。燃料を含めた総重量は1,312kg。SpaceXのFalcon 9などと比較すれば小柄だが、再使用技術の粋が凝縮されている。

ロケットは目標通り、高度271.4メートルに到達。その後、エンジンを巧みに制御しながら降下し、56.6秒間の飛行の末、発射地点近くの目標に寸分違わず舞い戻った。そして、着陸地点の目標との誤差は、わずか37センチメートル。これは、Hondaが長年培ってきた精密な制御技術が、宇宙という未知の領域でも通用することを証明した瞬間だった。

公開された映像はさらに驚きを与える。ロケットは4本の着陸脚で自立した状態から離陸すると、上昇中にその脚を機体内に格納。最高点に達すると、SpaceXのブースターにも見られるグリッドフィン(格子状の翼)のような空力フィンを展開し、姿勢を安定させながら降下する。そして着陸直前、フィンを畳み、再び着陸脚を展開してソフトランディングを敢行した。この一連の複雑なシーケンスを完璧にこなしたことは、単なるホップテストの成功以上の意味を持つ。

再使用型ロケット実験機の離着陸実験

実験機および飛行の概要:

  • 実施日時: 2025年6月17日 16時15分
  • 場所: 北海道広尾郡大樹町 Honda専用実験設備
  • 機体スペック:
    • 全長: 6.3 m
    • 直径: 85 cm
    • 乾燥重量: 900 kg
    • 燃料搭載時重量: 1,312 kg
  • 飛行実績:
    • 到達高度: 271.4 m
    • 飛行時間: 56.6 秒
    • 着陸精度: 目標地点との誤差 37 cm

米中に続く快挙 ― Hondaが切り拓く日本の宇宙開発

この成功が持つ真の価値は、国際的な宇宙開発競争の文脈に置くことで明らかになる。専門家が指摘するように、Hondaの実験機は「米国と中国以外で、この種の垂直離着陸飛行を完了した初のプロトタイプ」である可能性が高いのだ。

再使用型ロケットの開発は、世界の宇宙機関や企業がしのぎを削る最重要課題だ。しかし、その道のりは険しい。欧州宇宙機関(ESA)が主導する再使用ロケット実証機「Themis」や、日仏独が共同で進める「Callisto」プロジェクトは、数年の遅延に見舞われ、まだ一度も飛行していないのが現状である。

こうした状況の中、自動車メーカーであるHondaが、いわば「彗星のごとく」現れ、独自の力でこの難関を突破した事実は、日本の技術力の底力を見せつけたと言えるだろう。これは、これまで三菱重工業(MHI)が担ってきた国の基幹ロケット開発とは異なる、民間主導の新たな潮流が日本で生まれつつあることを力強く示唆している。

スポンサーリンク

バイクからジェット、そして宇宙へ:HondaのDNAと「若者の夢」

Hondaの宇宙への挑戦は、決して唐突なものではない。同社の歴史を紐解けば、それは必然の帰結とさえ思える。1946年にオートバイメーカーとして創業し、1963年には自動車産業へ進出。そして1986年、同じ研究開発部門が秘密裏に航空機開発に着手し、のちに高い評価を受けるビジネスジェット機「HondaJet」を生み出した。常に既存の枠組みにとらわれず、新たなモビリティの可能性を追求してきたのがHondaという企業なのだ。

Hondaの公式発表によれば、このロケット研究のきっかけは、「Hondaの製品開発を通じて培った燃焼技術や制御技術などのコア技術を生かしてロケットを造りたい」という若手技術者の「夢」だったという。この情熱が経営層を動かし、2019年にプロジェクトが本格始動した。

本田技研工業の三部敏宏社長は、「今回の離着陸実験の成功により、再使用型ロケットの研究段階を一歩進めることができたことをうれしく思います。ロケット研究は、Hondaの技術力を生かした意義のある取り組みだと考えています」とコメントしており、会社全体としてこの挑戦を後押ししている姿勢がうかがえる。

群雄割拠の宇宙ビジネス:トヨタ、海外勢とHondaの立ち位置

もちろん、前途は平坦ではない。宇宙ビジネスはまさに群雄割拠の時代に突入している。SpaceXやBlue Originといった米国の巨人が市場をリードし、中国からも多数のスタートアップが猛追している。

興味深いのは、日本の自動車業界全体が宇宙に熱い視線を注いでいる点だ。日本最大の自動車メーカーであるトヨタは、宇宙スタートアップのインターステラテクノロジズ多額の出資を行い、自動車の量産技術をロケット製造に応用するアライアンスを組んでいる。ここにHondaが独自のロケットで参入することで、日本の自動車産業が陸・空に続き、宇宙でも新たな競争と協力の時代を迎える可能性が出てきた。

ある専門家が述べた「自動車会社は一度しか使えない乗り物を作ることに慣れていない」という言葉は、示唆に富んでいる。使い捨てが前提だった従来のロケット産業に対し、繰り返し使用する「ビークル」としてロケットを捉え、高い信頼性と量産技術を武器にコストダウンを図るというアプローチは、まさに自動車メーカーの得意とするところではないだろうか。

スポンサーリンク

2029年、準軌道へ―残された課題と未来への展望

Hondaは今回の成功に満足することなく、明確な次なる目標を掲げている。それは「2029年までに準軌道(サブオービタル)への到達能力を実現する」ことだ。

もちろん、今回の実験機はまだ小型の「ホッパー(短距離跳躍機)」であり、軌道投入能力を持つ本格的なロケットへとスケールアップするには、エンジン推力の増強や機体構造の抜本的な見直しなど、数多くの技術的課題を乗り越えなければならない。

しかし、Hondaが見据える未来は大きい。自社ロケットで人工衛星を打ち上げることで、地球観測による環境問題への貢献や、衛星通信コンステレーションを活用した自社のコネクテッドカー、航空機へのサービス提供など、既存事業との強力なシナジーが生まれる可能性がある。

今回の成功は、壮大な宇宙開発物語の序章に過ぎない。しかし、その一歩が、日本の、そして世界の宇宙ビジネスの地図を塗り替えるほどのポテンシャルを秘めていることは間違いない。Hondaという静かなる巨人の覚醒から、しばらく目が離せそうにない。


Sources

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする