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IntelはディスクリートGPUを諦めていない?Celestial GPU「プレシリコン検証」突入、Battlemageの上位版登場も

Y Kobayashi

2025年5月6日

一時は開発中止の噂まで囁かれたIntelの次世代ディスクリートGPUアーキテクチャ「Celestial」(Xe3)。しかし、その開発は続いていたようだ。新たな情報によれば、Celestial GPUの開発が重要なマイルストーンである「プレシリコン検証」フェーズに到達した可能性があると言う。これは、設計図が完成し、実物のチップ製造を前にした最終チェック段階に入ったことを意味するものだ。同時に、現行世代「Battlemage」の上位モデルとされる「Arc B770」の登場も噂されており、IntelのGPU戦略が新たな局面を迎えている可能性が高そうだ。

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ベールを脱ぐ「Celestial」:プレシリコン検証という確かな一歩

「プレシリコン検証(Pre-Silicon Validation)」は、半導体の設計プロセスにおいて、実際のシリコンチップを製造する「前(Pre-Silicon)」に、設計が意図した通りに機能するかを徹底的に検証する段階を指す。

具体的には、ソフトウェアによるシミュレーションモデルやハードウェアエミュレータを用いて、GPUのコア設計(Xeコア、AI処理を担うXMXマトリックスエンジン、レイトレーシングユニットなど)が正しく動作するか、電力管理機能(Power Management IP)が想定通り機能するかなどをテストする。この段階には、PCメーカー(OEM)や独立系BIOSベンダー(IBV)といったパートナー企業も参加し、実際のシステムとの連携を見据えた検証が行われる。物理的なチップが存在しない段階で問題を洗い出し、修正することで、後の手戻りを防ぎ、開発効率を高める重要な工程なのだ。

今回、Haze氏が報じたのは、Intelの従業員のものとされるLinkedInプロファイル情報だ。そこには、「Celestial discrete GPU Pcode IP model development」(CelestialディスクリートGPUのPcode IPモデル開発)や、「Developed pre-silicon HW modeling for power management IP in Intel Xe3 architecture for discrete GPU Celestial team」(CelestialディスクリートGPUチーム向けIntel Xe3アーキテクチャにおける電力管理IPのプレシリコンHWモデリング開発)といった具体的な記述が見られたという。さらに、「developed low-level system software and device drivers in C++ for … Celestial discrete GPU」(CelestialディスクリートGPU向けの低レベルシステムソフトウェアとデバイスドライバをC++で開発)との記述もあり、基本的なソフトウェア開発も進んでいることが伺える。

これらの情報は、Celestial GPUのコアアーキテクチャ設計が完了し、電力効率や性能/ワットの最適化といった最終調整段階に入っていることを示唆している。IntelのフェローであるTom Petersen氏が2024年12月の時点で「Xe3のハードウェアはすでに完成しており、ハードウェアチームは次世代のXe4 “Druid” に移行している」と語っていたことを裏付ける動きと言えるだろう。

IntelはディスクリートGPU市場を諦めていない

一時期、Intelがコンシューマー向けの高性能ディスクリートGPU開発から撤退するのではないか、という憶測が流れた。しかし、今回のプレシリコン検証入りのニュースは、そうした噂を明確に否定するものだ。特に、リーク情報内で「discrete GPU」(ディスクリートGPU)という言葉が繰り返し使われている点は注目に値する。これは、CPU内蔵グラフィックスだけでなく、NVIDIA GeForceやAMD Radeonと直接競合する単体グラフィックボードの開発が継続されていることの証左と言える。

なぜIntelは、先行する2強が圧倒的なシェアを持つ市場にあえて挑戦し続けるのだろうか。一つには、急成長するAI市場におけるGPUの重要性の高まりがあるだろう。高性能なコンピューティング能力は、AI開発や推論処理に不可欠であり、GPUはその中核を担う。自社で高性能GPUを開発・供給できる体制を築くことは、データセンター向けビジネスはもちろん、AI PCといった新たな市場トレンドにおいても大きなアドバンテージとなる。

また、CPU、GPU、そして将来的にはNPU(Neural Processing Unit)などを統合的に開発・提供することで、プラットフォーム全体としての競争力を高める狙いもあると考えられる。Intelが長年培ってきた半導体製造技術やソフトウェア開発力、そして広範なパートナーエコシステムは、GPU市場においても独自の強みとなり得る。Arc GPUの第一世代「Alchemist」、第二世代「Battlemage」で得た経験と市場からのフィードバックは、Celestial開発の糧となっているはずだ。

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Celestial登場へのロードマップ:テープアウトは間近? GDDR7採用の噂も

プレシリコン検証が無事に完了すれば、次はいよいよ「テープアウト(Tape-out)」、すなわち設計データを製造工場に送る段階へと進む。これが完了すれば、実際のチップ製造が開始される。具体的なテープアウトの時期は不明だが、プレシリコン検証入りという状況から、そう遠くない将来である可能性が高いとWccftechは報じている。

Celestial GPUの具体的なスペックについては、まだ多くが謎に包まれている。しかし、いくつかの興味深い噂も浮上している。一つは、Intel自身が製造する最新プロセス「Xe3P」アーキテクチャを採用する可能性。もう一つは、次世代メモリ規格である「GDDR7」の採用だ。これはIntelの求人情報から示唆されたものだという。もしこれらが事実であれば、Celestialは性能と電力効率の両面で大きな飛躍を遂げる可能性がある。

登場時期については、大きな問題が発生しなければ、テープアウトから実際の製品登場まで12~18ヶ月程度かかる可能性があると見られる。順調に進めば、2025年後半から2026年にかけて、Celestial GPU搭載グラフィックスカードが市場に登場するかもしれない。

足元のBattlemageも進化? 上位モデル「B770」がComputexで登場か

Celestialへの期待が高まる一方で、現行世代であるBattlemageにも動きがありそうだ。これまでに登場したBattlemage GPUは、比較的手頃な価格帯の「Arc B570 (10GB)」と「Arc B580 (12GB)」のみで、どちらも「BMG-G21」というGPUチップを採用していた。しかし、より高性能な「BMG-G31」チップを搭載した上位モデルの存在が以前から噂されていた。

最近になって、このBMG-G31チップがIntelのベトナム工場(B570/B580の限定版が製造された場所)に輸送されたことを示す輸送記録が発見されたという。さらに、内部情報筋Haze2K1の資料では「B7XX」スペシャルエディションシリーズが示唆されており、著名リーカーOneRaichu氏は、「Arc B770」が24~32基のXe2コア、256ビットのメモリインターフェース、16GBのGDDR6メモリを搭載する可能性があると報告している。

これらの情報から、IntelがBattlemage世代のハイエンドモデルとして「Arc B770」を準備しており、その発表が間近に迫っている可能性が浮上している。特に、5月下旬に開催される「Computex 2025」が発表の場になるのではないかとの期待が高まっている。もし噂通りのスペックで登場すれば、NVIDIAのGeForce RTX xx60シリーズや、場合によってはRTX 4070 Ti Super/4080クラスとも競合しうる存在となり、ミドルハイ~ハイエンドGPU市場の勢力図に影響を与えるかもしれない。

Intel GPU戦略の次章と市場へのインパクト

IntelのCelestial GPU開発がプレシリコン検証段階に入ったというニュースは、同社がディスクリートGPU市場へのコミットメントを継続していることを示す力強いメッセージだ。キャンセル説を乗り越え、着実に開発を進めている様子がうかがえる。もしCelestialが噂されるような先進技術(Xe3Pプロセス、GDDR7メモリなど)を採用して登場すれば、NVIDIAとAMDが支配する市場に風穴を開けるポテンシャルを秘めていると言えるだろう。

同時に、Battlemage上位モデル「Arc B770」の登場が現実味を帯びてきたことも見逃せない。Celestial登場までの間、Battlemageでラインナップを拡充し、市場での存在感を高めようという戦略が透けて見える。B770が期待通りの性能と価格競争力を示せば、Intel Arcブランドの評価をさらに高め、来るべきCelestial世代への期待感を醸成することにも繋がるはずだ。

もちろん、GPU開発は複雑であり、プレシリコン検証から実際の製品化までには、まだ多くのハードルが存在する。歩留まりの問題、ドライバの最適化、そして熾烈な価格競争など、Intelが乗り越えるべき課題は多い。しかし、CPU市場の巨人であるIntelが本腰を入れてGPU開発に取り組むインパクトは計り知れない。CelestialとBattlemage上位モデルの登場は、ゲーマーやクリエイターにとって選択肢が増えることを意味し、市場全体の活性化にも繋がるだろう。次世代GPUを巡る競争は、ますます激しさを増しそうだ。


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