Appleの折りたたみスマートフォン「iPhone Duo」のヒンジには、本体の左右に熱を伝える柔軟なグラファイト製の管が組み込まれている。この冷却構造について、Appleの技術者がPCMagの取材で明らかにしたと、9to5Macが10月12日付で報じた。9月の製品発表では専用のベイパーチャンバーを搭載することが明らかになっていたが、今回の説明からは、折り曲げられるヒンジを通して熱を逃がすための工夫が見えてきた。単に冷却部品を搭載するだけでは解決できない、折りたたみスマートフォン特有の課題に対応した設計だ。ただし、この冷却構造の仕組みと、Appleが公表した「最大35%」という持続性能の向上率は、分けて考える必要がある。
ヒンジを通して本体の両側へ熱を逃がす
PCMagの取材に応じたのは、Appleでシリコン設計を担当するバイスプレジデントのDan Murray氏と、熱設計担当シニアマネージャーのBanafsheh Barabadi氏だ。両氏の説明によると、ヒンジ内部にグラファイト製の管を通し、本体の左右で熱を移動させることで、放熱に利用できる面積を広げているという。
iPhone Duoは開閉によって本体の形状が変化するため、熱を伝える部材にも柔軟性が求められる。単に曲がるだけでなく、繰り返し曲げても熱を伝える性能を維持しなければならない。Barabadi氏は、この部分について次のように語っている。
「設計の中でも、技術的に最も難しい部分の一つだった」
この管の開発には、熱設計と機構設計の両チームが携わったという。繰り返し開閉しても熱伝導性能を維持し、部材の形状や接続部分に問題が生じないようにする必要があったためだ。つまり、iPhone Duoのヒンジは画面を折りたたむための機構であると同時に、本体の反対側へ熱を伝える役割も担っている。
ただし、ここでいう「管」を、内部で液体が循環するホースのような構造と考えるのは適切ではない。現時点で説明されているのは、柔軟なグラファイト製部材を利用した熱伝導の仕組みであり、内部に流体が存在するかどうかや、具体的な断面構造は明らかにされていない。ベイパーチャンバー自体がヒンジを通っているわけでもない。熱をどのように移動させるかという基本的な仕組みは説明されたものの、部材の詳細な構造までは公開されていない。
チップから本体全体へ、熱を効率よく伝える設計
A20 Proの周辺でも、熱を効率よく逃がすために部品の配置が見直されている。PCMagへの説明によると、従来はプロセッサーの上に重ねていたDRAMを、今回は横に配置する設計に変更した。これにより、プロセッサーから冷却部品へ熱を直接伝えやすくしている。
さらに、チップとベイパーチャンバーの間には、フォーム材を金属で覆った特殊な素材が採用されている。Barabadi氏によれば、この素材は熱を直接伝えるだけでなく、機械的な変形にも対応できるという。効率よく熱を伝えるには部品同士を密着させる必要があるが、それと同時に、製品の使用時に生じる変形にも耐えられる構造が求められる。
Appleも9月の公式発表で、新しいチップのパッケージング技術によってA20 Proを専用のベイパーチャンバーに直接接続し、効率的に放熱する設計を採用したと説明している。
ベイパーチャンバーは、内部の作動流体が蒸発と凝縮を繰り返すことで熱を広範囲に拡散する冷却部品だ。今回明らかになったヒンジ内のグラファイト製の管は、それとは異なる役割を持つ。
Appleの公式発表と今回のインタビューを整理すると、各部品の役割は次のようになる。
| 部位 | 採用された工夫 | 主な役割 |
|---|---|---|
| チップ周辺 | DRAMを横に配置し、A20 Proを冷却部品へ直接接続 | プロセッサーから効率よく熱を取り出す |
| チップと冷却部品の間 | フォーム材を金属で覆った素材 | 熱を伝えながら機械的な変形にも対応 |
| 本体の左右をつなぐヒンジ | 柔軟なグラファイト製の管 | 本体の両側へ熱を拡散させる |
この表は各部品の役割を整理したものであり、それぞれの放熱性能を比較したものではない。チップ周辺の構造やベイパーチャンバーが熱を効率よく取り出して拡散する役割を担うのに対し、ヒンジ内の管は本体の反対側にも熱を伝えるために使われている。
また、iPhone Duoには、内側と外側のディスプレイを同時に使用する場面もある。Appleによれば、撮影中に外側の画面へプレビューを表示したり、FaceTimeで端末の反対側にいる人も通話に参加できるようにしたりする機能が用意されている。
つまり、冷却設計では大画面でゲームをプレイするときだけでなく、複数のディスプレイを同時に使用する場合も考慮する必要がある。さまざまな使用状況で処理性能を維持できるかどうかが重要になる。
最大35%の持続性能向上は、ヒンジだけの効果ではない
Appleは9月9日のiPhone Duo発表時に、A20 Proと高度な熱管理システムの組み合わせによって、iPhone 17 Proと比較して持続性能が最大35%向上すると説明していた。
重要なのは、この最大35%という数値が、A20 Proと熱管理システム全体による性能向上を示しており、ヒンジ内のグラファイト製の管だけの効果を表しているわけではないという点だ。
Appleの公式発表にある「A20 Proと先進的な熱管理によるプロパフォーマンス」の説明を整理すると、次のようになる。
| 項目 | Appleが公表した内容 |
|---|---|
| 比較対象 | iPhone DuoとiPhone 17 Pro |
| 性能向上に寄与する要素 | A20 Proと高度な熱管理システム |
| 最大35%が示す指標 | 持続性能の向上 |
| 明らかにされていない条件 | 負荷をかけた時間、端末の開閉状態、環境温度、ヒンジ内の管単独の効果 |
9月の公式発表と10月のインタビューを照らし合わせても、ヒンジ内の管によって持続性能が何%改善したのかを判断することはできない。
例えば、グラファイト製の管がある場合とない場合で、ほかの条件を統一して性能を測定すれば、その効果を個別に検証できる。しかし、Appleが公表した数値は、チップも本体構造も異なるiPhone 17 Proとの比較結果だ。ヒンジ内の管だけの効果を測定したものではない。
同様に、最大35%という数値を本体温度の低下率と解釈したり、iPhone DuoがiPhone 18 Proより35%高速だと受け取ったりするのも誤りだ。比較対象は前世代のiPhone 17 Proであり、示されているのは温度ではなく持続性能である。
もちろん、これはヒンジ内の管に効果がないという意味ではない。公表されている情報だけでは、その効果がどの程度なのかを個別に評価できないということだ。
冷却構造が理にかなっていることと、実際のゲームプレイや動画撮影でどの程度の性能を維持できるかは別の問題である。Appleの説明から設計上の狙いは理解できるものの、それが実際の使い勝手にどれほど貢献するかを判断するには、実機を使った検証が欠かせない。
開閉への耐久性と冷却性能の両立が課題に
Appleによると、iPhone Duoのヒンジは100点以上の部品で構成され、開閉動作を制御するとともに、ディスプレイの中央部分を支える役割を担っている。
この可動部分に熱を伝える部材を組み込む以上、開閉の滑らかさや機構の耐久性だけでなく、長期間使用しても安定して熱を伝えられるかが重要になる。Barabadi氏が熱設計と機構設計の共同開発を強調したのも、こうした課題があったためと考えられる。
ただし、今回の説明から具体的な開閉耐久回数や、長期使用後の冷却性能を判断することはできない。繰り返し曲げても接続状態を維持するという設計上の目標と、実際に何回の開閉試験をどのような条件でクリアしたのかという試験結果は、区別する必要がある。
実機で冷却性能を評価する場合は、開いた状態と閉じた状態で同じ負荷をかけ、一定時間経過後の処理性能と本体表面の温度を比較する方法が考えられる。
例えばゲームであれば、起動直後の最高フレームレートだけでなく、長時間プレイした際にどの程度の性能を維持できるかが重要だ。また、内外のディスプレイを同時に使用する撮影やビデオ通話についても、使用条件を統一したうえで比較する必要がある。
さらに、長期間使用した端末でも同じ条件で測定できれば、繰り返しの開閉が熱伝導性能に影響するかどうかも検証できるだろう。
iPhone Duoは日本時間10月16日午後9時から予約受付を開始し、10月23日に発売される予定だ。
今回明らかになったヒンジ内部の冷却構造は、折りたたみスマートフォンが抱える放熱面積の制約に対する、興味深い解決策といえる。本体の両側を放熱に利用する仕組みが実機でも十分に機能すれば、大画面を生かしたゲームや長時間の作業でも、安定した性能を維持できる可能性がある。
その真価を判断するには、開閉状態や負荷をかける時間を統一した実機テストが必要だ。Appleが採用した独自の冷却設計が、折りたたみスマートフォンの性能面でどれほどの利点をもたらすのか、発売後の検証結果が注目される。
