国際度量衡総会(CGPM)は2026年10月15日、協定世界時(UTC)を2027年5月20日からうるう秒による調整なしで運用する決議を採択した。これまで、地球の自転に基づく時刻とのずれを0.9秒以内に抑えてきた仕組みを改め、許容差を1時間まで拡大する。背景にあるのは、過去に一度も実施されていない「1秒を削る」調整が、通信網などのシステムに障害を引き起こす懸念だ。国際度量衡局(BIPM)の発表によると、今回の変更はUTCを連続的に進められるようにするもので、地球の自転を正確に把握する必要がなくなるわけではない。世界共通の時計と地球の自転観測の役割を分けることで、時刻同期システムの安定性を高める狙いがある。

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0.9秒から1時間へ、何が変わるのか

2022年の国際度量衡総会では、UTCと地球の自転に基づく世界時「UT1」の許容差を、2035年までに拡大する方針が決まっていた。今回採択された決議5では、施行日を2027年5月20日と定め、新たな許容上限を3,600秒、つまり1時間とすることが正式に決定された。これまで「2035年までにうるう秒を廃止する」と説明されてきた方針が、具体的な実施日と運用条件を伴う決定へと進んだ形だ。

うるう秒は、UTCに1秒を加えたり、必要に応じて1秒を削ったりすることで、UT1との差を一定の範囲に収める仕組みである。情報通信研究機構(NICT)の記録によると、1972年の制度導入から現在までに実施されたうるう秒は計27回で、すべて1秒を加える「正のうるう秒」だった。最後に実施されたのはUTCで2016年12月31日の終わり、日本時間では2017年1月1日の午前9時直前である。正のうるう秒では、通常の23時59分59秒の後に「23時59分60秒」を挿入し、それから翌日の0時へ進む。これは、原子時計に基づく時刻に対して地球の自転が遅れていく分を、時計側に余分な1秒を設けることで補正するものだ。

新制度では、こうした1秒単位の調整をやめ、UTCを連続的に進める。ただし、施行日の2027年5月20日に時計を1時間進めたり、遅らせたりするわけではない。1時間という数値は、今後UTCとUT1の間に蓄積していくずれに対する許容上限であり、決議では数世紀にわたりUTCを連続して運用できると見込んでいる。将来いつ上限に達するのか、あるいはその際に「うるう時」のような大幅な補正を実施するのかについては、今回の決議で具体的な日時や手順は定められていない。

UTC・UT1・TAI、混同しやすい二つの時刻差

今回の変更を理解するうえで重要なのが、UTC、UT1、国際原子時(TAI)の違いだ。UTCとTAIは同じ速さで秒を刻み、BIPMが生成するUTCは、TAIに対して整数秒の差を設けた時刻となっている。一方、UT1は地球の自転角を観測して求める時刻であり、地球の回転速度の変動を反映する。つまり、原子時計を基準に安定した時間を刻むか、実際の地球の回転を基準にするかという違いがある。

今回1時間に拡大されるのはUT1とUTCの許容差であり、現在のTAIとUTCの差である37秒とは別のものだ。 この違いを整理すると、今回の決議で何が変わり、何が変わらないのかが分かりやすい。以下は、2022年の決議4、2026年の決議5、IERSの通報C72、および2026年の決議4に基づく比較である。

比較する項目 現在の関係 今回の決議による変更
UT1とUTCの差の絶対値 許容上限は0.9秒 2027年5月20日から3,600秒に拡大
TAIとUTCの差 現在はTAIが37秒進んでいる 過去に生じた差をゼロにする規定はない
1秒の定義 セシウム133原子の特定の遷移周波数を基準とする UTCの連続化によって定義は変わらない

現在のTAIとUTCの37秒という差には、1972年の制度開始時点で存在した10秒と、その後27回の正のうるう秒によって加えられた27秒が含まれる。国際地球回転・基準系事業(IERS)が発行した通報C72では、UTCがTAIより37秒遅れていることに加え、2026年12月末にはうるう秒を実施しないことが確認されている。この37秒は原子時計に誤差が蓄積した結果ではなく、二つの時刻系の間で制度上定められた差である。したがって、UT1とUTCの許容差を1時間へ拡大しても、TAIとUTCの既存の差を解消することにはならない。

そもそも、うるう秒は原子時計の精度不足を補うためのものではない。米国立標準技術研究所(NIST)の解説によると、原子秒の長さは歴史的に地球の公転に基づく「暦表時」との比較によって決められたもので、平均太陽秒よりわずかに短いという性質を受け継いでいる。そこに地球の自転速度の変動が加わるため、原子時計に基づく時刻と地球の自転に基づく時刻の差が徐々に蓄積する。今回緩和されるのは、この差を小さく保つための運用条件であり、原子時計の精度や1秒の長さを変更するものではない。

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なぜ2035年を待たずに廃止するのか

うるう秒の廃止を前倒しする背景には、地球の自転速度の変動によって「負のうるう秒」が必要になる可能性がある。地球の自転が速まり、UT1がUTCに対して進む状態が続いた場合、両者の差を補正するにはUTCから1秒を削らなければならない。NISTが示す負のうるう秒の処理では、23時59分58秒の次が翌日の0時0分0秒となり、23時59分59秒を飛ばすことになる。こうした操作は制度上想定されているものの、世界のUTCに適用された実績は一度もない。

ただし、地球の自転が今後も一方向に速まり続けると決まったわけではない。地球の自転は長期的には減速する傾向がある一方、短期的には速くなったり遅くなったりする。負のうるう秒への備えは、自転速度が一定の割合で加速し続けるという予測に基づくものではなく、変動によって必要になる可能性を考慮した判断だ。

時間周波数諮問委員会(CCTF)がまとめた技術報告書の第4節では、2025年にBIPMとIERSが開催した専門家会合での評価が説明されている。研究者らは、地球の自転変動を予測しやすい要因と、十分に解明されていない不規則な要因に分け、後者については確率モデルを使用した。独立した3つの研究グループが近い結果を得たことを確認した後、合意したモデルを過去数世紀にわたる自転観測データと照合し、その妥当性を検証したという。

この評価では、専門家会合から約10年間に負のうるう秒が必要になる確率は約30%、正のうるう秒が必要になる確率は約50%と推計された。今回の決議5でも、負のうるう秒が2035年までに必要となる確率を30%としている。ただし、これは特定の年に負のうるう秒が実施されるという予告でも、時刻同期システムが30%の確率で故障するという意味でもない。正のうるう秒が必要になる可能性も残っており、地球の自転が今後どのように変化するかには不確実性がある。それでも、実施経験のない負のうるう秒に世界中の機器やソフトウェアを対応させるには、大規模な検証が必要になる。こうしたリスクを考慮し、実際に負のうるう秒が必要になるまで待つより、うるう秒による調整そのものを廃止する方が、時刻同期に依存するシステムの安定性を確保しやすいと判断された。

わずか1秒の調整がDNS障害を引き起こした理由

うるう秒がシステム障害を引き起こすリスクは、すでに過去の事例で明らかになっている。2017年1月1日(UTC)、Cloudflareでは正のうるう秒の処理に伴い、一部のDNS名前解決が失敗する障害が発生した。同社の障害報告によると、原因は時刻が後戻りしたことで、DNSサーバーの応答に要した時間を計算すると負の値が生じたことだった。

当時のソフトウェアは、DNSサーバーの応答時間を平滑化し、その結果を基に利用するサーバーを選択していた。しかし、応答時間として想定していなかった負の値が渡されたことで、サーバーの選択処理に例外が発生した。問題は、時計が「23時59分60秒」という特殊な時刻を表示できるかどうかだけではない。プログラムが当然の前提としている「後から取得した時刻は、先に取得した時刻より進んでいる」という条件が崩れることも、障害につながり得る。

Cloudflareの事例では、別のドメイン名を参照するCNAMEを利用していた顧客の名前解決の一部に影響が生じた。ピーク時に影響を受けたDNSクエリは約0.2%であり、世界中の通信が停止したわけではない。それでも、過去に何度も実施されてきた正のうるう秒でさえ、日常的なソフトウェア処理に予期しない障害を引き起こす可能性があることを示した事例といえる。

こうした急激な時刻の変化を避けるため、Googleは「うるう秒のスミア(leap smear)」と呼ばれる方式を推奨している。Googleの技術文書では、UTCの正午から翌日の正午までの24時間にわたり、時計の進む速さを少しずつ調整する方法が説明されている。この方式なら、時計を突然1秒進めたり戻したりする必要がなくなり、調整期間の終了後にはUTCと再び一致する。ただし、調整中の時刻は厳密なUTCから一時的にずれることになる。

さらに、スミアを実施する期間や時計の進め方は、すべての事業者で統一されているわけではない。各社が独自の方法を採用すると、異なる方式で時刻を同期しているシステム間で、かえって時刻の不一致が生じる可能性がある。世界共通の時刻を維持するために導入されたうるう秒が、その副作用を避けるための独自方式を生み、結果として時刻の統一を難しくしているわけだ。こうした運用上の不整合も、国際度量衡総会がUTCの連続化を進める理由の一つとなっている。

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地球の自転を基準とするシステムには対応が必要

うるう秒が廃止されても、天体観測など、地球の向きを正確に把握する必要がある分野では、引き続きUT1が重要となる。今回の決議5では、UT1とUTCの差を、全球測位衛星システム(GNSS)の航法メッセージやIERSなどによるインターネット配信から取得できることが説明されている。また、BIPMには両者の差の観測と将来予測を引き続き監視することが求められた。つまり、地球の自転の測定をやめるのではなく、その情報を必要とするシステムが個別に参照する仕組みへ移行することになる。

これまでUTCをUT1の近似値として利用してきた装置やソフトウェアは、今後、両者の差が大きくなっても正しく処理できるようにする必要がある。一方、通信やデータ処理など、連続した共通時刻を必要とする用途では、地球の自転に合わせて時計を調整する必要がなくなる。共通時刻の維持と地球の自転情報の利用を分離することで、それぞれの用途に適した時刻管理が可能になる。

新たな許容差を無制限ではなく1時間に定めたことにも、技術的な理由がある。CCTFの技術報告書第3節では、許容差を1分、1時間、あるいは上限なしとする案が検討された。UT1とUTCの差を配信するシステムの関係者からは、その数値を記録・送信するために必要なビット数を決められるよう、有限の上限を設けてほしいという要望があったという。今回の決定は、うるう秒による補正の頻度を大幅に減らしつつ、時刻差を扱う機器が想定すべき最大値を明確にするものでもある。

一方、UTCとUT1の差を電波で配信するための符号体系には、別途更新が必要となる。今回の決議が引用する国際電気通信連合(ITU)の移行措置では、既存機器の早期交換が難しい場合、拡大した時刻差の電波配信への移行について2035年まで、遅くとも2040年までの猶予が認められている。ただし、これは2027年5月20日に予定されるUTCの連続化そのものを延期するものではない。UTCの運用変更と、時刻差を配信する機器の更新は、それぞれ別の工程として進められる。

なお、今回の総会では、光時計を利用した「秒の再定義」についても議論された。総会は2030年の会合に向けて、新たな秒の定義案と施行日案を準備するよう求めているが、採用する原子種などについては、まだ合意に至っていない。うるう秒の廃止は世界共通時刻の運用方法を変更するものであり、1秒の長さを定める基準を変更する秒の再定義とは別の取り組みだ。後者については、科学的な要件を満たすための検討が今後も続けられる。

2027年の移行で重要になるのは、時刻配信システムが連続したUTCを安定して届けられるか、そして地球の自転情報を必要とする装置やソフトウェアが、今後拡大するUT1との差を正しく扱えるかという点だ。今回の決定によって、世界共通の時計に1秒の段差を設ける必要は当面なくなる。その一方で、地球の自転を高い精度で扱うための観測と情報配信は引き続き必要となる。両者の役割分担を各システムに適切に反映できるかが、うるう秒のない新しい時刻運用への移行を成功させる鍵となる。