Metaの現役従業員26人が、社内AIや活動量の指標を組み合わせた人員削減の選別によって、医療・家族・妊娠関連の休暇を取った人が不利になったとして同社を提訴した。原告は、休職中には増やせない成果量やAI利用量が低い評価へ変換されたと主張する。Metaは「人員と組織に関する判断は人間が行った」と全面的に否定した。争われるのはAIが解雇を単独で決めたかどうかではなく、どのデータが候補者の順位を動かし、人間がそれをどこまで覆せたのかである。
26人が求めるのは解雇の即時確定を止めること
訴状は2026年7月13日、カリフォルニア北部地区連邦地裁に提出された。原告は匿名の26人で、Metaが5月20日に通知を始めた約8,000人、全従業員の約10%に当たる人員削減の対象者である。Metaが3月末時点で公表した従業員数は77,986人だった。原告の多くは7月22日に離職が確定する予定で、ニューヨーク州の原告は8月20日ごろ、ワシントン州の1人は7月31日ごろと訴状に記されている。
26人は、選別前の24カ月間に保護対象の休暇を取ったか取得を申し出た、休暇取得を妨げられた、または障害への合理的配慮を求めたり受けたりしたと訴える。妊娠や性差別を訴える原告は10人いる。Associated Pressによると、8人の女性が出産・妊娠関連休暇を、4人の男性が育児休暇を取得していた。家族の介護休暇と忌引休暇を取った女性も1人含まれる。
原告が裁判所に求めたのは、26人の請求を集団訴訟として一括判断することではない。Metaの雇用契約には個別仲裁と集団訴訟の放棄条項があるため、各人は本案を仲裁で争う予定だ。その前に雇用と給与を維持し、医療保険や未確定の株式報酬、休暇中の地位も変えないよう仮差止めを申し立てた。選別過程の独立監査も要求している。離職後の金銭補償では、治療中の医療保険や期限付きの休暇、在留資格への影響を元に戻せないという理由である。
人員削減は、MetaがAI投資を急拡大する時期と重なった。同社は4月29日の決算発表で、2026年の設備投資を1,250億〜1,450億ドルと見込み、AIと中核事業を支えると説明した。2025年実績の722億2,000万ドルから大きく増える。ただし、投資額は差別的な選別があったことを証明しない。8,000人規模の削減と社内AI活用が同時に進んだという経営上の背景を示す数字である。
原告が主張する、AI利用量と成果量を混ぜた選別過程
原告が描く選別過程は、一つの「解雇AI」ではない。訴状は、社内アシスタントの「Metamate」と従業員が訓練する「セカンドブレイン」型エージェントを挙げる。そこへ端末の活動監視とAIトークン利用量のダッシュボード、AIで補助された業績評価が連なり、従業員を点数化して解雇候補へ入れたというのが原告側の説明だ。
訴状が選別への入力だったと主張する項目も具体的である。まず直近12カ月の業績評価と2025年末の調整結果がある。そこへAIを仕事にどれだけ組み込んだかを表す「AIネイティブ」評価や成果量、コードのコミット数を加え、管理職の後押しと重点ロードマップとの近さも参照したという。原告の一人であるディレクター職の従業員は、社内プログラム「Checkpoint」でAI導入度が主要な評価項目になると告知され、利用状況のダッシュボードには休職と低い関与を区別する仕組みがなかったと宣誓した。
ここに測定上の問題がある。同じ12カ月を分母にしてコードのコミット数やAIトークン量を数えれば、3カ月休んだ人は働いていた9カ月分しか数字を積めない。休職期間を測定対象から外すか、実働日数で正規化するか、個別審査へ送らなければ、合法的な不在が低い生産性として記録される。障害のために入力方法や勤務時間を調整した人も、端末操作の量で比較されれば同じ問題を抱える。
ただし、選別に何が実際に投入され、各項目がどれほど順位を動かしたかは確定していない。訴状の技術的な中核には「情報と信念に基づく」として述べられた部分が多く、現時点で選別モデルの仕様や全対象者の分布は公開されていない。原告が独立監査を求めるのも、入力値、重み、出力、管理職による上書き履歴を自分たちでまだ確認できないためだ。
人間が承認しても自動判断の規制対象になり得る
Metaの反論は明快だ。同社はAPに対し、訴えは事実に基づかず、人員と組織に関する判断はAIではなく人間が行ったと述べた。だが、法的な境界は「最後にボタンを押したのが誰か」だけでは決まらない。
カリフォルニア州では、雇用における自動判断システムの規則が2025年10月1日に施行された。州の公民権評議会は、応募者や従業員を選別・評価し、分類から推薦、意思決定までを行う計算処理を対象にした。人間の意思決定を補助する処理も含む。AIが候補者を順位付けし、管理職が候補者名を承認する運用も、定義から自動的には外れない。
同規則は、性別、人種、障害などの保護属性を理由に応募者や従業員を不利にする自動判断システムが州法違反になり得ると明確にした。保護属性の代理変数を使っていないか、差別を抑える検査をどの範囲と頻度で実施したかも判断材料になる。さらに雇用記録には自動判断データも含め、最低4年間の保存を求める。今回の原告は選別データとモデル、判断ログをはじめ、関連資料一式の保全を要求した。この証拠がなければ人間とシステムの寄与を分離できないからだ。
したがって、「人間が決めた」と「AIが選別を補助した」は両立し得る。呼び名よりも、選別に使った入力と重み、休職期間の除外処理を確認する方が実態に近づける。管理職が推薦を覆した割合と、休職者・非休職者の選択率も、結果と因果を検証する材料になる。
休職は解雇免除ではないが、低評価の材料にできない
連邦の家族・医療休暇法(FMLA)は、対象となる休暇を雇用判断の「不利な要因」として使うことを禁じている。これは休職中の従業員を人員削減から一律に除外する規定ではない。休暇を取らなくても同じ理由で対象になったと雇用主が示せるなら、削減に含めることはあり得る。今回の争いでは、休職そのものを入力しなくても、成果量やAI利用量が休職の代理として働いたかが問題になる。
障害者差別禁止法(ADA)も、ソフトウェアやAIを通じた評価を例外扱いしない。米雇用機会均等委員会(EEOC)と司法省は2022年、AIを使う雇用判断には合理的配慮を提供する手続きが必要で、適切な対策がなければ職務を遂行できる障害者まで評価から排除し得ると注意喚起した。端末操作や成果量を測る設計では、勤務上の配慮による差を能力不足と取り違えない処理が要る。
性別に関する請求では、意図的な差別に加えて「不均衡な影響」が争点になる。合衆国法典42編2000e-2条(k)は、表面上は中立な雇用慣行でも、性別などの保護属性に偏った結果を生み、職務との関連性と事業上の必要性を雇用主が示せなければ違法になり得ると定める。原告は、妊娠や育児、介護で休む割合が高い女性に、休職を実績減として数える仕組みが強く作用したと主張している。
制度環境は一枚岩ではない。トランプ政権は2025年4月の大統領令14281号で、連邦機関に不均衡な影響を根拠とする執行を優先しないよう命じ、進行中の調査や訴訟の見直しを求めた。それでも、議会が定めた2000e-2条(k)の文言は残っている。カリフォルニア州の自動判断規則や各州の差別禁止法も存続しており、原告本人が民事請求を起こす経路は閉じていない。
7月22日までに問われる監査可能性
この訴訟は、26人の経験だけでMeta全体の選別が統計的に差別的だったと証明したわけではない。全対象者のうち休職者が何人いて、どの程度の割合で解雇候補になったのかは示されていない。個々の原告についても、休職を除いた評価でなお対象になった可能性を検証する必要がある。Meta側の正式な反論と証拠提出もこれからだ。
一方で、原告の要求は検証方法を明確にしている。独立監査人が選別の入力、重み、出力を調べ、休職や障害への配慮、その代理変数が使われたかを確認する。そのうえで休職期間を中立化して点数を再計算し、それでも各原告を選ぶ合理的な根拠が残るかを確かめるというものだ。
企業側にとっては、AIという名称を外せば済む問題ではない。表計算の点数でも機械学習のランキングでも、誰を解雇候補へ送ったかに影響すれば、入力の妥当性と例外処理を説明できなければならない。原告が主張する7月22日の離職予定を前に、裁判所が申立ての緊急性と回復不能な損害をどう評価するかが直近の判断材料になる。