中国の家電大手Midea Group(美的集団)が、産業用ロボットの定義を書き換える驚くべき新型機を発表した。

2025年12月5日に開催された「Greater Bay Area New Economy Forum」において公開されたのは、6本の腕を持つ産業用「スーパーヒューマノイド」ロボット、「MIRO U」だ。従来の人型ロボットが「人間への模倣」に囚われる中、Mideaは「人間を超える機能性」を徹底的に追求。車輪移動と多腕によるマルチタスク能力を武器に、製造現場のボトルネックである生産ラインの切り替え効率を約30%向上させるという。

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ヒューマノイドの「脱・人間模倣」:なぜ6本の腕なのか?

ロボット工学の世界では長らく、いかに人間の形態(2本の腕、2本の脚)に近づけるかが主要なテーマであった。しかし、MideaのCTO(最高技術責任者)であるWei Chang(ウェイ・チャン)氏が提示した解は、そのトレンドに対するアンチテーゼとも言える「実利主義」の極致だ。

1. 形態よりも機能を優先した「アシュラ」型デザイン

MIRO Uの最大の特徴は、その異形とも言える6本のバイオニックアーム(生体模倣腕)にある。

  • 役割分担による同時並行処理: 上部の腕と下部の腕で明確な役割分担がなされている。下部の腕は重量のあるコンポーネントを支え、運搬することに特化している一方、上部の腕はツールの持ち替えや、精密な組み立て、留め具の固定といった繊細な作業を行う。
  • 「スーパーヒューマノイド」の定義: Wei Chang氏は、これを単なるヒューマノイドではなく「スーパーヒューマノイド」と称した。これは、人間の作業環境(作業台の高さなど)に適合する頭部と胴体を持ちながら、人間の物理的限界(腕の数や処理能力)を超える存在であることを意味する。

2. 「二足歩行」を捨てた合理的選択

Elon Musk氏率いるTeslaの「Optimus」などが二足歩行にこだわるのに対し、MIRO Uは車輪型のシャーシを採用している。

  • 安定性と速度: 平坦な工場内において、二足歩行はエネルギー効率が悪く、転倒リスクも高い。車輪移動は、迅速な移動と作業時の高い安定性を保証する。
  • 360度その場旋回: 狭い工場の通路や作業スペースにおいて、人間のように方向転換する必要なく、その場で360度回転することが可能だ。これにより、前後の作業ステーションへのアクセスが瞬時に行える。
  • 垂直リフトシステム: 胴体部分には安定した昇降機能が備わっており、棚の高い位置や低い位置へのアクセスをスムーズに行う。

産業現場への実装:無錫工場でのパイロット運用

技術デモに終わらず、即座に実戦投入されるスピード感もMideaの特徴だ。

無錫ハイエンド洗濯機工場への導入

報道によれば、MIRO Uは2025年12月末までに、江蘇省無錫市にあるMideaのハイエンド洗濯機工場に導入される予定である。これはテスト段階からパイロット運用への移行がすでに完了していることを示唆している。

「段取り替え」という最大の課題解決

Mideaが掲げる「生産効率30%向上」という数値の根拠は、製造ラインにおける「段取り替え(Changeover)」の効率化にある。
多品種少量生産が求められる現代の製造業において、生産品目の切り替え時に発生するダウンタイムは最大の損失源だ。MIRO Uは、通常であれば複数の作業員や専用機械の再配置が必要な工程を、1台で、かつ迅速なツール交換と移動能力によってカバーする。これが実現すれば、工場の柔軟性(アジリティ)は劇的に向上するだろう。

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Mideaのロボット戦略:産業用と家庭用のデュアルトラック

今回の発表により、Mideaのロボット開発ロードマップが「産業用」と「民生用」の2つの明確なトラックに分かれていることが明らかになった。

1. MIROシリーズ(産業用)

  • 目的: 工場内物流、組立、重量物運搬など、過酷かつ複雑なタスクの自動化。
  • 現状: 第3世代モデル(MIRO U)が実用化段階。
  • 技術基盤: 自社開発のフルスタック技術に加え、2017年に買収したドイツの産業用ロボット大手Kuka(クーカ)のノウハウが色濃く反映されていると推測される。

2. Meila(Mila)シリーズ(商業・家庭用)

  • 目的: 小売店での顧客案内、製品デモンストレーション、家庭内サービス。
  • 形態: 産業用とは異なり、親しみやすさを重視した小型の二足歩行タイプ。
  • 展開予定: 現在最終テスト段階にあり、2026年にMideaの小売店舗に登場予定。一般消費者と直接対話し、製品ガイドとしての役割を担う。

なぜ今、中国企業が「異形」のロボットを作るのか?

筆者は、MideaのMIRO Uが、世界のロボット産業における重要な転換点を示唆していると分析する。

「模倣」から「超越」へのパラダイムシフト

これまで中国のロボット産業は、欧米や日本の技術をキャッチアップする段階にあった。しかし、MIRO Uのデザインは、「人間と同じ形であること」への固執を捨て、「製造現場で最も効率的な形は何か」という問いに対する独自の回答である。これは、中国製造業が「New Quality Productive Forces(新質生産力)」と呼ばれる、技術革新主導の生産体制へと移行していることの象徴だ。

Kuka買収の真価

2017年のKuka買収以降、Mideaは着実にロボット技術の内製化を進めてきた。2022年の「国家重点実験室(Blue Orange Laboratory)」の認可、2024年の「ヒューマノイドロボット・イノベーションセンター」の設立といった一連の動きは、ハードウェア(Kukaの遺伝子)とAI・ソフトウェア制御(中国のAI開発力)の融合が完成しつつあることを示している。

世界市場へのインパクト

Unitree(宇樹科技)などの中国スタートアップも安価で高性能なロボットを次々と発表しているが、Mideaのような巨大資本を持つ製造業者が、自社の工場(ユーザーとしての視点)で鍛え上げたロボットを市場に投入する意味は大きい。これは、ロボットが「実験室のショーケース」から「工場の同僚」へと、真の意味で移行し始めたことを意味する。

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2026年は「ロボット労働」の元年となるか

MideaのMIRO Uは、6本の腕と車輪という特異な姿で、私たちに問いかけている。それは「ロボットは人間に似せるべきか、それとも人間を超えるべきか」という問いだ。

工場内での30%の効率化が実証されれば、世界の製造業はこぞってこの「スーパーヒューマノイド」のアプローチを検討せざるを得なくなるだろう。さらに2026年の商業用ロボット「Meila」の投入も含め、Mideaのエコシステムは、B2BとB2Cの両面から社会の自動化を加速させようとしている。

無錫工場での稼働実績が明らかになる数ヶ月後、私たちは産業オートメーションの新たな標準を目撃することになるかもしれない。


Sources