米ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)は2026年10月13日、核爆発によって発生するX線が小惑星に与える影響を調べた3次元シミュレーションの成果を発表した。直径約160mの仮想小惑星を対象に3つの条件で計算したところ、2例で天体の破砕が進んでいることを示す兆候が確認された。ただし、最も長いシミュレーションでも追跡できたのは爆発から145ミリ秒後までで、破片が地球に危険を及ぼさない程度まで細かく分かれ、十分に分散するかどうかは確認できていない。今回の成果は、核爆発による小惑星の破砕がどのように始まるかを詳しく調べたものであり、地球への衝突を確実に回避できると実証したわけではない。

研究を率いたのはLLNLのIsaiah B. Santistevan氏で、Mary T. Burkey氏らとの共著論文「Nuclear Mitigation of Hypothetical Asteroid Threats in Smoothed Particle Hydrodynamics」は、2026年8月14日に学術誌『The Planetary Science Journal』第7巻に掲載された(論文番号196、DOI: 10.3847/PSJ/ae8a49)。米エネルギー省の科学技術情報局(OSTI)が公開する採択原稿には、LLNLの発表では詳しく触れられていない計算条件や比較データも記載されている。

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核爆発のX線が小惑星を破壊する過程を3次元で再現

研究チームは、LLNLが開発した流体シミュレーションコード「Spheral」に、核爆発で発生するX線が小惑星の表面へエネルギーを与えるモデルを組み込んだ。想定したのは、核装置を小惑星の表面から少し離れた位置で爆発させる方式だ。爆発によるX線を吸収した表面の薄い層が急激に加熱され、蒸発した物質が勢いよく宇宙空間へ噴き出す。このとき生じる反作用によって小惑星の速度を変え、地球との衝突を回避するのが核方式による「偏向」の基本的な仕組みである。さらに、表面から内部へ伝わる衝撃波が岩石に大きな損傷を与えれば、小惑星そのものを破砕できる可能性もある。

小惑星の軌道を変える偏向は、天体をほぼ元の形に保ったまま速度をわずかに変え、地球に衝突しない軌道へ移す方法だ。NASAは2022年のDARTミッションで、探査機を小惑星ディモルフォスに衝突させ、運動エネルギーによって軌道を変える方法を実証した。一方、核方式は探査機の衝突よりも大きなエネルギーを与えられるため、天体が大きい場合や衝突までの猶予が短い場合の選択肢として研究されている。小惑星を破砕する場合には、単に岩石を砕くだけでなく、破片が地球に危険を及ぼさないよう十分に分散させることが重要になる。

今回の研究の特徴は、小惑星内部の損傷や亀裂の進展、それに伴う物質の動きを3次元で計算した点にある。研究チームはまず、1500件以上の一次元シミュレーションを実施し、既存の計算コード「Ares」による結果と比較した。さまざまな条件で両者の計算結果がおおむね一致することを確認したうえで、3次元モデルを使った3例の破砕シミュレーションに進んでいる。ただし、1500件以上という数字は計算コード同士の比較回数であり、実際に小惑星を破壊する実験を行った回数ではない。

3次元シミュレーションでは、球に換算した直径が約160mの不規則な形状を持つ小惑星を想定した。外形には実在する小惑星ベンヌの形状モデルを利用したが、内部は均質な一体の岩石と仮定し、フォルステライト(苦土かんらん石)の物性を採用している。空隙率は0.308、かさ密度は2.228g/cm³に設定されており、実際のベンヌの内部構造を再現したものではない。また、核装置の爆発エネルギーにはTNT換算1メガトン(1000キロトン)という仮定を置いている。こうした条件の下で、爆発位置や岩石の壊れやすさが破砕の進み方にどのような違いをもたらすかを調べた。

爆発位置を遠ざけると、エネルギーが減っても損傷が拡大

シミュレーションでは、核爆発を起こす位置が小惑星の表面から10mの場合と25mの場合を比較した。爆発位置を遠ざけると、小惑星が受け取るエネルギーの総量は減少する。しかし、同じ時点で損傷の広がりを比較すると、意外にも25m離れた位置で爆発させた場合の方が、損傷した物質の割合が大きくなった。

論文の表3と表4から、同じ損傷モデルを使用した2つの条件を比較すると、次のようになる。

計算条件 表面からの爆発距離 小惑星に付与されたエネルギー(TNT換算) 68ミリ秒後に完全損傷した質量割合
C10 10m 55.4キロトン 78.1%
C25 25m 30.0キロトン 92.6%

爆発距離が10mのC10では、天体に付与されたエネルギーが55.4キロトン相当だったのに対し、25mのC25では30.0キロトン相当と少なかった。それにもかかわらず、爆発から68ミリ秒後に完全損傷した物質の割合は、C10の78.1%に対してC25では92.6%に達している。両者には、2013年にロシア上空で爆発したチェリャビンスク隕石に基づく同じ損傷モデルが使われている。なお、ここでいう「完全損傷」とは、数値モデル上で岩石が一体の物体として形を保つ能力を大きく失った状態を指し、安全な大きさの破片に分かれたことを意味するものではない。

研究チームは、25m離れた位置から照射した場合、X線のエネルギーがより広い表面積に分布することが、損傷の拡大につながった可能性が高いと説明している。狭い範囲に強いエネルギーを集中させる場合と、比較的弱いエネルギーを広範囲に与える場合では、小惑星内部に伝わる衝撃の影響も異なるということだ。ただし、この結果は核爆発の位置を遠ざけるほど破砕に有利になることを意味しない。適切な距離は小惑星の大きさや形状、組成によって変わり、軌道変更を目指すのか、天体そのものを破砕するのかによっても異なる。

岩石の壊れやすさに関する仮定も、結果に大きな影響を与えた。爆発距離を25mに固定して比較すると、34ミリ秒後に完全損傷した質量割合は、チェリャビンスク隕石に基づくC25では60.2%だったのに対し、Aba Panu隕石に基づくAP25では34.2%にとどまった。核装置の出力や小惑星の直径が同じでも、亀裂の生じやすさや広がり方によって破砕の進行が大きく変わることが分かる。もっとも、これらは設定した物性と照射条件に基づく数値計算の結果であり、実際の小惑星でも同じ現象が起こると実験で確認されたわけではない。

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59日間の計算で再現できたのはわずか145ミリ秒

今回の研究で大きな課題となったのが、計算に必要な膨大な時間だ。最も長く計算を続けたC10では、1680の計算コアを59日間使用したにもかかわらず、再現できたのは核爆発から145ミリ秒後までだった。それでも、この短い時間に小惑星内部では大きな変化が生じていた。計算終了時点では質量の98.2%が完全損傷に達し、約97%の物質が小惑星自身の重力を振り切る脱出速度を上回っていた。このモデルでの脱出速度は秒速7.89cmで、物質が互いに反対方向へ動く様子も確認されている。

Santistevan氏はLLNLの発表で、小惑星の広範囲に損傷が生じ、物質が重力から脱出できる速度で動いていることを重要な成果として挙げた。こうした損傷と物質の運動は、小惑星の破砕が進行していることを示す有力な指標だという。ただし、これは破砕が始まっているという評価であり、天体が完全に分解され、すべての破片が安全に分散したことを示すものではない。

地球への脅威を取り除けるほど十分に破砕・分散できたと判断するには、残る破片がおおむね10m以下になり、互いの重力によって再び集まらないことを確認する必要がある。今回の計算では、最終的にどの程度の大きさの破片が形成されるのか、その破片がどの方向へ移動するのかまでは明らかになっていない。小惑星を構成する物質の多くが脱出速度を超えたとしても、それだけで地球への衝突を避けられるとは限らない。破片の大きさや速度、分散方向によっては、依然として地球に危険を及ぼす可能性が残るためだ。

論文によると、破片が十分に分散するか、あるいは重力によって再集積するかを調べるには、エネルギーを与えた後の数分から数時間にわたる計算が必要になる。今回の最長145ミリ秒という追跡時間との間には、非常に大きな隔たりがある。つまり、小惑星内部で損傷が急速に広がる初期段階を3次元で詳しく再現できるようになった一方、破砕後の物質が最終的にどうなるかを調べるには、計算能力と手法の両面でさらなる改善が必要ということだ。

計算精度の向上だけでは解決できない課題

今回の結果を評価するうえでは、シミュレーションの解像度にも注意が必要だ。研究チームによると、解像度が低い計算では衝撃波の最大圧力を過小評価し、岩石内部に生じる損傷を実際より小さく見積もる可能性がある。一方、細かな亀裂を十分に再現できない場合には、逆に完全損傷した物質の割合を過大評価することもある。したがって、解像度を高めれば必ず核方式による破砕の有効性が高く評価されるとは限らず、どちらの影響が強く現れるかを確かめる必要がある。

論文では、損傷の分布に計算粒子の配置方向に沿った模様が現れるなど、数値計算に由来すると考えられる特徴も指摘されている。こうした模様は、実際の岩石内部で生じる亀裂の広がりを正確に反映しているとは限らない。今回の3次元計算は計算負荷の制約から十分な解像度を確保できておらず、損傷や破砕の進行をどこまで正確に捉えられているかは今後の検証課題となる。研究チームは、解像度を高めた計算によって衝撃波の伝わり方と亀裂の進展を詳しく調べ、結果がどの程度変化するかを確認する必要があるとしている。

また、今回の小惑星モデルでは内部を均質な一体の岩石と仮定しているが、実際の小惑星には多数の岩塊が緩く集まった「ラブルパイル(瓦礫集合体)」と呼ばれる構造を持つものもある。こうした天体では、岩塊同士の接触状態や内部の空隙が衝撃の伝わり方に影響するため、今回とは異なる結果になる可能性がある。研究チームは今後、計算の高速化と高解像度化に加え、より現実的な内部構造や組成を持つ小惑星へのモデルの拡張を進める方針だ。小規模な実験との比較も計画しているが、今回の3例について独立した実験による検証が完了したわけではない。

今回の研究は、核爆発による小惑星の破砕を、表面へのエネルギー付与から内部の損傷、物質の運動まで3次元で詳しく調べるための重要な一歩となった。ただし、地球防衛の手段として核方式の有効性を判断するには、小惑星が壊れ始めることだけでなく、危険な大きさの破片が残らず、長時間にわたって安全に分散することを確かめなければならない。今後、より現実的な内部構造を取り入れた長時間シミュレーションと実験による検証が進めば、どのような小惑星に対し、どれだけの警告時間があれば核方式を検討できるのか、より確かな判断材料が得られると期待される。