Polymarketをめぐる新たな疑惑は、インフルエンサー広告の表示漏れにとどまらない。予測市場は、参加者が実際に資金を賭け、その取引が価格として表れるから価値がある。Wall Street Journalの調査によると、Polymarketはクリエイターに報酬を払い、実際には存在しないベットや勝利を撮影した動画をSNSに投稿させていたという。

WSJは1,100本を超える欺瞞的なクリップを特定し、クリエイターがPolymarketから報酬を受け取っていたことを認めたと報じた。動画は一見すると実際の取引のように見えたが、なかには正規のpolymarket.comではなく「poiymarket.com」にアクセスしているものがあった。WSJが確認した範囲では、それらの動画に出てくるベットは実際には行われていなかったという。

数字を見ると、演出の規模が分かる。WSJによれば、118本の動画では合計約90万ドルの勝利に反応する様子が映っていた。しかし実際にその通りのベットをしていれば、約16万6,000ドルの損失になっていたとされる。PolymarketはWSJの質問後、偽サイトを閉鎖し、多くの投稿者も動画を削除したという。見えてくるのは、取引画面風の映像で「実際に勝った人がいる」と思わせる販促手法だ。

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偽の勝利演出が予測市場で重くなる理由

一般的な消費者向けアプリなら、偽の利用体験は広告表示の問題として扱われる。Polymarketの場合はそうはいかない。予測市場は、価格が人々の期待を集約するという説明に支えられている。Polymarket自身もAccuracyページで、解決済み市場の価格スナップショットを使い、事前確率と実際の結果の近さを示すと説明している。

勝ったふりの動画は、通常の誇大広告より深い矛盾を生む。視聴者が見ているのは、商品の感想ではなく、資金を投じた判断が当たったという物語だ。取引が実在しないなら、価格にも、注文履歴にも、決済にも結びつかない。Polymarketが掲げる「実際の取引から生まれる情報」と、宣伝で見せた体験が別物になる。

Polymarketの開発者文書は、この違いをはっきり示している。同社のCLOBは、オフチェーンで注文を照合し、Polygon上のスマートコントラクトで決済するハイブリッド型だ。注文はEIP-712署名付きメッセージとして作られ、残高やアローワンスが確認され、約定後はオンチェーンで決済される。トレードのステータスも、MATCHED、MINED、CONFIRMED、FAILEDといった段階を通る。

本物のベットには取引の道筋がある。注文、照合、決済、解決、勝ちトークンの償還という流れがあり、少なくともPolymarketの説明では、その一部は公開ブロックチェーン上に残る。偽動画はこの流れを通らず、見た目だけを借りていたことになる。Polymarketが「世界最大の予測市場」を名乗るほど、宣伝の演出と市場の検証可能性のズレは大きく見える。

FTCの広告ルールは、報酬と体験の見え方を問題にする

米連邦取引委員会のEndorsement Guidesは、消費者が広告主ではない第三者の意見や経験だと受け止める販促メッセージを「エンドースメント」として扱う。推薦がエンドーサーの正直な意見や経験を反映していること、広告主との報酬関係などが消費者の評価に影響する場合は、明確かつ目立つ形で開示することが求められる。

FTCの「Disclosures 101 for Social Media Influencers」も同じ線を引いている。ブランドから金銭や価値あるものを受け取って商品を薦めるなら、その関係を開示しなければならない。動画の場合、説明欄だけでなく動画内に表示することが望ましいとも説明している。フォロワーがブランドとの関係を知っているはずだという前提には立たない。

今回の疑惑がこの枠組みで重いのは、報酬の非開示にとどまらず、体験そのものが実在しなかったとされる点にある。FTCのガイドは、広告がエンドーサーの使用体験を示すなら、その人が実際にその商品やサービスを使っていた必要があるとしている。広告主は誤解を招くエンドースメントや、予期されない重要な関係の非開示について責任を問われ得る。広告代理店やPR会社などの仲介者も、欺瞞的な表示の作成や拡散に関与すれば責任を負う可能性がある。

現時点でFTCやCFTCがこの動画キャンペーンをめぐって新たな執行手続を始めたと確認できる資料はない。だが、FTCが示している基準に照らすと、視聴者が「本人の取引経験」だと受け止める動画に、報酬関係やシミュレーションであることが見えない構図は、広告管理上のリスクを強く帯びる。

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米国では取引できない国際版という前提

Polymarketには、米国規制との長い経緯がある。CFTCは2022年1月、Blockratize Inc. d/b/a Polymarketに対し、オフエクスチェンジのイベント型バイナリーオプションを提供し、指定契約市場やスワップ執行施設としての登録を得ていなかったとして、140万ドルの民事制裁金を科した。CFTCは当時、Polymarketが開始以来900を超えるイベント市場を提供し、スマートコントラクトを用いて取引を運営していたと説明している。

現在のPolymarketは、国際版と米国版を分けている。Polymarket.comのフッターは、Polymarket USがQCX LLC d/b/a Polymarket USによって運営されるCFTC規制下のDesignated Contract Marketであり、国際版Polymarket.comはCFTCの規制を受けず独立して運営されると説明している。同じページには、Polymarket.comは米国ではview-onlyであり、取引には米国アプリを使うよう促す表示もある。

開発者向けのGeographic Restrictionsページも、米国をPolymarket.comで注文できない国として挙げる。APIの地理判定は、IPアドレスが注文可能かどうかを返す仕組みで、制限の理由として国際制裁、地域の金融規制、賭博・予測市場法、AML、KYCを挙げている。日本はフロントエンドUI制限、米国はblockedと区分されており、少なくとも国際版での注文可否は明確に分けられている。

この文脈で、SNS上に広がった取引風動画の意味は軽くない。Polymarket.comが米国で取引できない国際版であり、別に規制済みの米国アプリを持つなら、宣伝で見せる画面や体験がどの法人、どの市場、どの取引環境に結びつくのかは、なおさら明確でなければならない。視聴者がそれを判別できなければ、広告表示の問題は規制対応の問題へ広がる。

Polymarketが掲げる市場健全性は、広告にも及ぶ

PolymarketはMarket Integrityページで、同社の市場はユーザー同士の取引であり、胴元を相手にしているわけではないと説明している。市場が機能するのは、誰かが結果を操作していないと参加者が信じられるからだという趣旨も明記している。さらに、全ての取引はブロックチェーン上で公開され、監視の対象になると強調する。

同ページは、インサイダー取引、違法な情報提供、結果に影響できる立場の人による取引を禁じ、詐欺、市場操作、架空取引、ウォッシュトレード、フロントランニング、情報の不正利用を禁止行為として挙げている。これは取引側の規律である。今回の疑惑が示したのは、取引所の外にある広告やSNS運用も、同じ信頼を左右するということだ。

偽のベット動画は、実際の注文板を操作しなくても、市場への入り口を汚す。視聴者は価格の形成過程ではなく、短い動画で「誰かが大きく勝った」という物語を受け取る。その物語が報酬付きで、しかも本物の取引ではないなら、オンチェーン透明性で守れる範囲の外側から信頼が削られる。

次に問われるのは、Polymarketが宣伝・アフィリエイト・クリエイター管理をどこまで取引監視と同じ重さで扱うかである。WSJの質問後に動画削除や偽サイト閉鎖が進んだという事実だけでは、再発防止の設計までは見えない。誰がクリエイターを採用し、誰が台本や画面を確認し、報酬表示やシミュレーション表示をどの段階で必須にするのかという運用が問われる。

予測市場の強みは、意見ではなく資金を伴う判断が価格になる点にある。その強みを広告で売るなら、広告にも同じ検証可能性が求められる。Polymarketが透明性を事業の中心に置くほど、偽の勝利演出は小さな宣伝ミスではなく、予測市場そのものの信用管理の問題になる。