2026年4月6日、カリフォルニア州グレイビュートの上空でGeneral Atomics製の試作機YFQ-42A(Dark Merlin)が墜落した。原因はAI自律システムの誤動作ではなく、旧来のオートパイロット系統による重量重心の計算ミスだったが、映像が公開されると「米軍の無人機プログラムは大丈夫なのか」という疑問が広がった。
その72日後、米空軍は予定より4カ月早くGeneral AtomicsとAndurilに量産契約を付与した。
この判断は偶然ではない。墜落事故の調査結果が「AI自律システムに問題はない」と確認されたこと、そして競合国の動向に対して速度で応じる必要があるという戦略的判断が重なった結果だ。
2026年6月、競争を2社に絞り込んだ理由
CCA(Collaborative Combat Aircraft・協働戦闘機)プログラムは、2024年4月に4社のプロトタイプ契約から始まった。参加したのはGeneral Atomics、Anduril、Lockheed Martin、Northrop Grummanの4社で、約2年にわたる試験飛行と評価の末、機体競争から生き残ったのはGeneral AtomicsとAndurilの2社だった。
LockheedとNorthropは機体選定から脱落したが、プログラムから完全に排除されたわけではない。後述する自律飛行ソフトウェアの競争には引き続き参加しており、最終的な役割分担はまだ確定していない。
2026年6月17日に付与されたのは、エンジニアリング・製造開発(EMD)と生産を一体化した契約だ。通常は開発段階と生産段階が分離されるが、今回はその境界を意図的に曖昧にすることで開発スピードを上げている。個社別の契約金額は機密扱いで非公開だが、米空軍はFY2027予算として調達費9億9,650万ドル(約1,050億円)を議会に要求している。これはまだ承認前の要求段階だが、プログラムの規模感を示す数字だ。
空軍調達執行担当のCol. Timothy Helfrich氏は「人間と機械のチーミングを航空の世界に持ち込む最初の事例だ」と述べ、コスト面では「1機のCCAコストはF-35の約3分の1未満という目標を現在下回って推移している」と明かした。F-35AのLot17価格が約8,250万ドルであることを踏まえると、CCAの目標単価は3,000万ドル未満(約45億円)ということになる。
FQ-42AとFQ-44A:2機の設計思想の違い
General AtomicsのFQ-42A(量産型Dark Merlin)とAndurilのFQ-44A(量産型Fury)は、同じCCAプログラムの要件を満たしながらも、設計アプローチが異なる。
FQ-42Aは、General Atomicsが長年培ってきた無人航空機の経験を基盤としている。同社はMQ-9 Reaperなどの偵察・攻撃ドローンで実績を持ち、軍の調達プロセスに精通した伝統的な防衛企業だ。試作機YFQ-42Aが4月の事故後わずか45日で飛行を再開した点は、機体の修復・改良スピードの高さを示している。
一方のFQ-44A(Fury)は、防衛テック系スタートアップAndurilが開発した。注目すべきは開発速度で、白紙設計から初飛行まで556日で完成させた。Mark Shushnar氏(Anduril自律航空力担当VP)は「FQ-44は高強度戦闘を生き延びるだけでなく、卓越した成果を上げるだろう」「我々はすでにフルレート生産プロセスを実装済みだ」と述べている。
両機に共通する性能要件は、戦闘半径700海里(約1,300km)以上、そしてF-35、F-22、さらにはBoeing製の第6世代有人戦闘機F-47との連携運用能力だ。サイズと重量は非公開だが、有人戦闘機よりも小型・軽量で、消耗可能な(expendable)プラットフォームとして設計されている。
自律飛行の核心:A-GRAが決める戦術判断の範囲
CCAプログラムが航空宇宙産業の常識を変えようとしている点は、機体の性能だけではない。ハードウェアとソフトウェアを分離し、自律AIを別々の競争調達で選定するという構造そのものが革新的だ。
このアーキテクチャの名称はA-GRA(Autonomous Government Reference Architecture)だ。日本語で言えば「自律化のための政府共通基盤」に相当し、FQ-42AとFQ-44Aのどちらにも同一の規格で搭載される。
従来の軍用機開発では、機体メーカーが自律システムも一体で提供するのが通例だった。しかしA-GRAでは、機体の製造者(General AtomicsまたはAnduril)と自律判断エンジンの提供者が別の企業になりえる。F-35が一社依存のコスト構造に陥った反省が、このアーキテクチャ選択の背景にある。
現在、自律飛行ソフトウェアの競争にはAnduril、Shield AI(Hivemind)、RTX Collins Aerospaceの3社が参加している。2026年内に6カ月の性能評価期間が始まり、2027年夏に最終選定が行われる予定だ。
実際にCCAが「何をどこまで自己判断できるか」は、このソフトウェアによって決まる。空軍の公式表現では「半自律(semi-autonomous)」とされており、攻撃の最終判断は人間が行う。しかし編隊飛行・経路回避・センサー融合・ミッション変更への対応など、リアルタイムの戦術判断はAIが担う。空軍参謀総長のGen. Ken Wilsbach氏は「この能力を戦闘員により早く届けることで、いかなる敵も抑止・撃破するために必要な戦術的優位を維持できる」と述べている。
NGADキャンセルが映す米空軍の方向転換
2024年、米空軍はNGAD(Next Generation Air Dominance・次世代制空機)プログラムをキャンセルした。NGADは第6世代有人戦闘機として10年以上にわたって開発が進められたプログラムだったが、試作機1機あたり3億ドルを超えるとも見込まれたコストが致命的な問題となった。
その代替として空軍が選んだ方向性が、CCAPと呼ばれるアプローチだ。有人機はBoeing製F-47一本に絞り、その周囲を多数のCCAが囲む分散型編隊を組む。有人パイロットは最も危険な交戦エリアから離れた位置で指揮を取り、脅威への最初の暴露はCCAが受け持つ。いわゆる「忠実なウィングマン(Loyal Wingman)」構想だ。
この転換には中国の軍備動向が深く関わっている。中国はJ-35などのステルス戦闘機に加え、無人機戦力を急速に拡充しており、米国が高価な有人機だけで数的優位を保つことはもはや困難だ。「質より量」への転換は、この現実への応答とも読める。
Dr. Troy Meink空軍長官は「競争的選定から本格製造に素早く移行することで、高い信頼性を持つ戦闘準備完了の半自律システムを配備できる立場に立てる」と述べた。プロトタイプ契約から量産契約まで約2年2カ月というペースは、米国の戦闘機開発史でも異例の速さだ。
国際的な関心も高まっており、オランダが2026年4月にIncrement 1 CCA 2機分の資金拠出に合意したとの報道がある。同盟国への展開も視野に入ったプログラムとなっている。
1,000機構想と残るハードル
CCA Increment 1の目標は、2030年末までに両社合計150機以上を納入することだ。これはあくまで第1段階であり、長期目標は複数インクリメントを経て合計約1,000機とされている。
しかし1,000機構想の実現には、複数の独立した課題が残る。最大の未解決事項は自律ソフトウェアだ。2027年夏の最終選定がなければ、CCАは機体を持ちながら「判断能力」を持たない状態で量産が進む可能性がある。ハードとソフトを分離した設計の柔軟性は強みだが、同時にスケジュールの独立した不確実性を生む。
コストの持続性も未知数だ。「3,000万ドル未満」は目標値であり、現時点の取得価格は非公開だ。大量生産が進むにつれてコストが下がるか、それともサプライチェーンの制約で上昇するかは、2030年に向けた最重要変数のひとつとなる。
予算承認のハードルも無視できない。FY2027の調達費9億9,650万ドルはあくまで行政府の要求段階であり、議会が承認しなければ大規模な生産ラインは動かない。
General Atomics社長David Alexander氏は「製造はすでに本格始動している」と述べており、産業側の準備は整いつつある。だが、1,000機という数字が現実になるには、ソフトウェア選定・議会承認・コスト管理という三つの課題が揃って前進する必要がある。
自律飛行AIの競争が決着し、最初の量産機が部隊に届く2030年以降——そのとき、戦闘機の「搭乗者」を巡る問いは新たな段階に入る。機体が飛ぶだけでは「協働戦闘機」にはなれない。AIがどこまでの戦術判断を担えるか——その答えが出るとき、有人・無人の境界線はいま一度引き直されることになる。