「3Dプリントされた角膜」という表現から想像する全層の人工組織とは、実際の対象が異なる。Precise BioのPB-001は、角膜の後面にある内皮だけを置き換える移植片であり、ClinicalTrials.govにはNCT07325097として第1相の臨床試験が登録されている。予定登録は15人、対照群を置かない単群・非盲検の介入試験だ。

Live Scienceが2026年8月21日に掲載した共同創業者Aryeh Battへのインタビューでは、同社は5人へ移植済みだと説明した。初回の移植は2025年10月29日である。ただし、登録情報に試験結果はまだ載っていない。今ある人の情報は、進捗と個別例についての会社説明であり、PB-001がドナー組織より安全、あるいは有効だという比較結論には届かない。

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角膜全体ではなく、水分を排出する内皮を置き換える

角膜内皮は、角膜後面に並ぶ単層の細胞である。余分な水分を排出して角膜の透明性を保つため、Fuchs角膜内皮ジストロフィーや白内障手術後の内皮障害で細胞が働かなくなると、角膜はむくみ、混濁して視力が下がる。PB-001が対象にするのはこの角膜浮腫であり、角膜の形状や全層を作り替える製品ではない。

PB-001は、ドナー由来で培養したヒト角膜内皮細胞をヒトコラーゲンの支持層へ配置したPVEK(Precise Vision Endothelial Keratoplasty)である。滅菌インジェクターまたはカートリッジに充填して角膜保存液中で輸送し、手術時には前房へ挿入する。細胞を「印刷」する工程はここにあるが、移植されるのは細胞を含む薄い組織片だ。

既存の内皮移植では、DMEK(Descemet membrane endothelial keratoplasty)がデスメ膜と内皮のみを移植するのに対し、DSAEK/DSEKは支持となる後部実質も含める。Precise Bioは、DMEKに近い細胞層をコラーゲン支持層に載せ、既存の内皮移植用器具で扱えるようにする設計を狙う。培養内皮細胞を人に使う発想自体は新しくない。Kinoshitaらが2018年にNEJMで報告した無対照単群研究では、水疱性角膜症の11人へ培養ヒト内皮細胞100万個とROCK阻害薬を前房注入した。

15人の単群試験は、効果比較ではなく初期の安全性を測る

NCT07325097の正式題名は「A Prospective, Single Arm Study to Assess the Safety and Tolerability of PVEK Corneal Implant for the Treatment of Corneal Edema」で、スポンサーはPrecise Bioである。試験は2025年9月16日に開始され、2026年1月確認時点でRecruitingだった。主要完了予定は2027年3月、試験完了予定は同年9月である。

対象は18歳以上で、Fuchs角膜内皮ジストロフィーまたは偽水晶体水疱性角膜症による角膜浮腫があり、内皮角膜移植を必要とする人だ。試験眼は偽水晶体眼で、最高矯正視力は6/379〜6/12(1.8〜0.3 logMAR)、中心角膜厚は0.6 mm超といった条件がある。少人数で対象を絞った初期試験であるため、一般の角膜疾患全体へ結果を広げる設計ではない。

主要評価項目は、6カ月までの有害事象と治療関連有害事象に加え、有効性または忍容性が不十分なため代替治療を求めずに6カ月の追跡を完了した参加者の割合である。副次項目には12カ月までの有害事象、眼圧26 mmHg超、最高矯正視力のベースラインからの変化、OCTで測る中心角膜厚、6カ月・12カ月の内皮細胞密度が入る。これらは将来の測定計画であって、現在の成績ではない。

Live ScienceでBattは、最初の患者が偽水晶体水疱性角膜症で、術前には指の本数を数えられなかったが、数週間後にはメニューやテレビ字幕を読めたと述べた。標準化した最高矯正視力、中心角膜厚、内皮細胞密度の前後値は公表されていない。介入後の一例の経過から、改善率や治療による因果効果を計算することはできない。

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64匹のウサギで得た実測値、ただし学会抄録段階

人での結果が未掲載である一方、前臨床では無作為化比較のデータがある。Wessam SalemとMohamed HosnyによるESCRS 2025の学会抄録FP07.15(DOI: 10.82333/keye-8t18)では、New Zealand Whiteウサギ64匹に直径8.25 mmのデスメ膜剥離を行い、PVEK群26匹、コラーゲン支持層のみの群22匹、シャム群16匹へ無作為に割り付け、6カ月追跡した。これはシミュレーションではなく動物実験である。

6カ月時点の平均中心角膜厚は、PVEK群が391±181 μm、支持層のみの群が646±297 μmで、PVEK群との差はp=0.01だった。シャム群は757±153 μmで、PVEK群との差はp<0.001とされた。角膜の水分を排出する細胞層を含む群で、中心角膜厚が低かったという比較結果である。

PVEK群の内皮細胞密度は、1カ月で2110±171 cells/mm²、3カ月で1894±181 cells/mm²、6カ月で1793±160 cells/mm²だった。時点ごとの実数があるため、細胞が存在したことと6カ月までの測定値は追える。ただし、このウサギ実験からヒトの視力や安全性を確定することはできない。長期生着、拒絶、凍結や国際輸送後の成績も同様である。

このデータの公表形態にも注意が要る。根拠はESCRS 2025の学会抄録であり、査読済み原著論文の全文公表や独立した追試は確認されていない。動物での群間比較は有用な次の材料だが、人の臨床効果の証明とは別である。

1枚から400個超という供給主張は、まだ製造能力の説明にとどまる

Precise BioはLive Scienceに対し、ドナー角膜1枚から400個を超える移植片を作れると説明した。同社は製品の内皮細胞密度を4,000 cells/mm²超、標準的なドナー組織を2,000〜2,500 cells/mm²としている。培養によって少数のドナーから移植片を増やせるなら、供給制約への対応として意味を持ち得る。

ただし、400個超は会社による製造能力の主張で、査読済み原著論文や公開ロットデータによる独立検証は確認できない。細胞密度が高いことも、そのまま人での優れた視力や長期生着を意味しない。Live Scienceも、高密度の意義は臨床試験で確認する必要があると注記している。

供給問題そのものには、査読済みの比較材料がある。GainらがJAMA Ophthalmologyで2016年に発表した論文(DOI: 10.1001/jamaophthalmol.2015.4776)は、2012年中心の横断的推計として、116カ国で角膜移植が184,576件、推定待機者が1,270万人、必要70件に対して提供は1件だったと報告した。世界人口の約53%が移植にアクセスできないという推計も示されたが、これは約14年前の活動データであり、現在の待機規模を表す数値ではない。

比較対象を混同してもいけない。Kinoshitaらの査読済みNEJM論文(2018年、DOI: 10.1056/NEJMoa1712770)は、11人の前房へ細胞を注入する研究で、24週時点に11眼すべてが中心部500 cells/mm²超となり、10眼が1,000 cells/mm²超、9/11眼が視力2段階以上改善したと報告した。改善した割合は82%95%信頼区間48〜98%)である。Rafatらの査読済みNature Biotechnology論文(2023年、DOI: 10.1038/s41587-022-01408-w)は、円錐角膜20人へ細胞を含まない豚由来コラーゲンの実質インプラントを埋め込むパイロット研究で、24カ月後に19人の視力改善を報告した。しかし、対象疾患も移植する角膜層もPB-001とは違う。材料と製法も異なるため、PB-001の有効性を裏づける研究ではない。

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2027年までに、移植片が人で機能し続けるかを測る

PB-001を評価するうえで、最初に確かめるべきなのは「5人に移植した」という進捗ではなく、登録された15人が6カ月までにどの有害事象を経験し、代替治療を求めずに追跡を終えたかである。その後、最高矯正視力のベースラインからの変化、OCTでの中心角膜厚、内皮細胞密度を、試験計画どおり6カ月と12カ月で確認する必要がある。

単群・非盲検試験には、同じ条件のドナー角膜移植と直接比較する対照群がない。したがって、数値が公表されても、患者背景、追跡の完了状況、欠測、代替治療に移った症例を読まなければ、優越性は判断できない。特に内皮細胞密度は、移植直後の高さに加え、時間とともにどの程度保たれるかが重要になる。

同社は米国での商用化を2030年に見込むが、これは目標である。米食品医薬品局(FDA)へのIND申請、後続相の試験、製造と規制審査の成否に左右される。角膜全体を印刷したという物語ではなく、培養細胞を支持層に載せた内皮移植片が、人で安全に機能し、供給可能な品質で作れるか。試験結果が公表されれば、その問いに初めて測定値で答えられる。