Qualcommが、Androidスマートフォンの心臓部となる次世代フラッグシップSoC(System on a Chip)「Snapdragon 8 Elite Gen 2」(仮称)を、例年より約1ヶ月早い2025年9月23日から25日に開催される「Snapdragon Summit 2025」で発表することを正式に予告した。 この早期発表は、スマートフォン市場の競争激化や技術進化の加速を背景にしたものと見られ、Androidエコシステム全体に大きな影響を与えることは必至だ。
発表前倒しの背景:加速する開発競争と市場戦略
QualcommがSnapdragon Summitの開催時期を前倒しするのは、今回が初めてではない。近年、同社は発表タイミングを徐々に早めており、背景にはいくつかの要因が考えられる。
第一に、最大のライバルであるMediaTekとの競争激化である。MediaTekは「Dimensity」シリーズで高性能チップ市場での存在感を急速に高めており、昨年は「Dimensity 9400」が「Snapdragon 8 Elite」よりもわずかに早く発表された経緯がある。 Qualcommとしては、先に市場の注目を集め、パートナーであるスマートフォンメーカーへの訴求力を高めたいという戦略があると見られる。
第二に、Xiaomiのような大手スマートフォンメーカーが自社製チップの開発を進めていることも無関係ではないと考えられる。特にXiaomiが5月22日に発表予定の自社開発チップ「XRING O1」の性能が予想以上に高い可能性があり、そうした他社への対抗意識から、Qualcommが発表を早めた可能性を指摘している。
そして第三に、AppleのiPhoneシリーズとの競争も常に意識されている。例年9月に発表される新型iPhoneに対し、最新の高性能SoCを搭載したAndroidフラッグシップ機をより早期に市場投入することで、年末商戦を含めた販売競争で優位に立ちたいという狙いもあると考えられる。
Qualcomm CEOのCristiano Amon氏は、台湾で開催されたComputex 2025の基調講演でこの日程を発表しており、同イベントではPC向けの次世代Snapdragon Xシリーズの新モデルについても言及があったことから、モバイル分野以外でも攻勢を強める姿勢がうかがえる。
Snapdragon 8 Elite Gen 2 – 噂される驚異的な進化とは?
現時点でSnapdragon 8 Elite Gen 2の公式な詳細スペックは明らかにされていないが、リーク情報や業界の観測から、いくつかの注目すべき進化ポイントが浮かび上がっている。
製造プロセスとCPUアーキテクチャ:TSMC 3nm N3Pと次世代Oryon/Pegasusコア
最も注目されるのは、製造プロセスである。複数の情報源が、TSMCの改良型3nmプロセスである「N3P」を採用すると報じている。 これは現行世代よりもさらに微細化・効率化されたプロセスであり、性能向上と消費電力削減に大きく寄与すると期待される。
CPUコア構成については、現行のSnapdragon 8 Eliteと同様の「2つのプライムコア + 6つのパフォーマンスコア」という「2+6」構成を維持しつつ、Qualcomm独自のカスタムCPUコアである「Oryon」の第2世代、あるいは「Pegasus」と呼ばれる新設計のコアが採用されるとの噂がある。 特にPegasusコアは、テスト段階で最大5.00GHzという驚異的なクロック周波数に達したとの情報もあり、これが事実であればシングルコア性能の大幅な向上が期待される。
GPU性能:Adreno 840 とキャッシュ増強の威力
GPUには、新型の「Adreno 840」が搭載される見込みだ。 リーク情報によれば、独立したGPUキャッシュが現行の12MBから16MBへと33%増加する可能性が指摘されており、これによりGPU性能は最大30%向上するとの予測もある。以前登場した未確認のAnTuTuベンチマークスコアでは、Snapdragon 8 Elite Gen 2搭載機が、現行のSnapdragon 8 Elite搭載機を40.7%も上回るという驚異的な結果も出ている。 これが事実であれば、モバイルゲーム体験や高度なグラフィック処理能力が飛躍的に向上すると考えられる。
AI処理能力:NPUの進化と100TOPSの壁
AI処理能力も大幅に強化される見込みだ。現行のSnapdragon 8 Eliteが搭載するNPU(Neural Processing Unit)「Hexagon」は既に高い処理能力を誇るが、次世代ではその性能がさらに引き上げられ、一部では100TOPS(Tera Operations Per Second:1秒間に1兆回の演算能力)の壁を超える可能性も示唆されている。 また、ARMの「Scalable Matrix Extension(SME)」への対応も噂されており、これが実現すればAI処理や複雑な演算の効率がさらに高まるであろう。
メモリとその他の進化
メモリに関しては、次世代メモリ規格である「LPDDR6」への初対応が噂されている。 これにより、より高速かつ省電力なメモリ環境が実現し、システム全体の応答性向上に貢献すると見られる。 もちろん、LPDDR5Xとの後方互換性も維持されると考えられる。
総合すると、Snapdragon 8 Elite Gen 2は、CPU性能で最大25%、GPU性能で最大30%程度の向上が期待されており、AI処理能力においても大きな飛躍が見込まれる。
Galaxy S26への搭載は?価格上昇の懸念も
Snapdragon 8 Elite Gen 2の登場は、Androidスマートフォン市場に大きな影響を与える。
まず、搭載スマートフォンの登場時期だが、発表が9月下旬となれば、早ければ10月にも最初の搭載モデルが登場する可能性がある。 例年、XiaomiやOnePlusといったメーカーが新型Snapdragonをいち早く採用する傾向があり、今回も同様の動きが見られるであろう。 Samsungの次期フラッグシップモデル「Galaxy S26」シリーズへの搭載については、現時点では不透明な部分が多い状況だ。 Samsungは自社製Exynosチップの開発も進めており、地域によって搭載チップを使い分ける戦略を継続する可能性や、Galaxy S26向けのSnapdragon 8 Elite Gen 2 for GalaxyはSamsungの2nmプロセスで製造されるとの噂もあり、その場合は供給時期にも影響が出る可能性がある。
一方で、懸念されるのはチップ価格の上昇である。高性能化に伴い、チップの製造コストも上昇する傾向にある。Android Policeは、QualcommがSnapdragon 8 Elite Gen 2の価格を引き上げる可能性があり、それが最終的にスマートフォンの販売価格に転嫁される恐れを指摘している。現行のSnapdragon 8 Eliteも前世代から値上がりしており、この傾向が続けば、フラッグシップスマートフォンのさらなる高価格化が進む可能性も否定できない。
Snapdragon Summitで注目されるその他の発表
Snapdragon Summit 2025では、モバイル向けのSnapdragon 8 Elite Gen 2だけでなく、PC向けの次世代「Snapdragon X」シリーズの新モデルも発表される可能性が高い。
QualcommはWindows PC向けArmアーキテクチャ採用チップでAppleのMシリーズに対抗しようとしており、こちらの動向も注目される。
新たな性能競争の幕開け
QualcommによるSnapdragon 8 Elite Gen 2の9月発表は、Androidスマートフォンの性能競争を新たなステージへと引き上げる狼煙となる。TSMCの最先端3nmプロセス、新設計のCPUコア、大幅に強化されたGPUとNPUにより、処理性能、グラフィック性能、AI性能の全てにおいて大きな飛躍が期待される。
これにより、より高度なモバイルゲーム、複雑なAIアプリケーション、そして全体的なユーザーエクスペリエンスの向上が実現するであろう。しかし、その一方でチップ価格の上昇という懸念材料も存在する。
今後、9月のSnapdragon Summitに向けて、さらに詳細な情報が明らかになってくると予想される。ユーザーとしては、この次世代チップがどのような革新をもたらし、そしてそれが搭載されるスマートフォンがどのような体験を提供してくれるのか、期待と共に注目したいところだ。
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