Samsungの未来技術育成事業に採択された垂直ダイ集積パッケージング研究が、既存HBMの構造制約を崩す候補として浮上している。Samsung Science & Technology Foundationの研究紹介ページは、この研究を「超高帯域幅AIアクセラレータ向けV-die集積パッケージ技術開発」と位置付け、TSVベースのHBMが抱えるデータ遅延と放熱課題を同時に解く構造として、チップを立てて配置する垂直ダイを提案している。ET Newsの報道では、この研究が同一面積でHBM4比およそ10倍のI/O、約4倍の帯域、より短い読出し遅延を示したという。

これはSamsungの量産HBM4やその次世代製品の正式仕様ではなく、2025年に採択された先行研究の進捗だ。一方で、Samsung Semiconductorが公開しているHBM4ページでは、現行ロードマップ上のHBM4が2,048 I/O、最大3,300GB/s、前世代比約2.7倍の帯域をうたっている。

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HBMの制約を崩す研究として何が出てきたのか

Samsung Science & Technology Foundationの研究者ページによると、このプロジェクトは2025年採択、当時の所属はUNISTで、研究責任者は権志民教授である。説明では、AIアクセラレータの性能が演算速度よりもメモリ帯域と熱安定性に左右される局面に入り、HBMのTSV構造がデータ転送と放熱の両面で制約になっていると整理する。そのうえで、チップを基板上に垂直ボンディングし、冷却液を直接流す垂直ダイ構造を提案し、将来的な適用先としてAIアクセラレータだけでなく、メモリとロジックの高速統合、HPC、高周波通信まで挙げている。

ET Newsは4月8日、この研究成果を載せた論文が2026 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuitsに採択されたと報じた。学会採択そのものは量産決定ではないが、少なくとも構想段階のアイデアだけではなく、国際会議で扱える水準まで整理された研究成果として外に出始めたことを示している。

HBM4の2,048 I/Oと並べると伸び幅が見えてくる

いま市場で語られているHBM4の基準値は、Samsung公式ページでは2,048 I/O、最大3,300GB/sである。HBM4が前世代より帯域を押し上げた中心は、1,024から2,048へのI/O倍増だ。つまり、いまのHBMでも帯域改善の本丸は、積層枚数よりまずI/O密度にある。

垂直ダイ研究が狙う差分はそこをさらに押し広げることにある。ET Newsによれば、チップを本棚のように90度立てて並べることで、ダイの長辺全体をパッド領域として使えるようになり、同一面積でI/O数をHBM4比約10倍、約2万本まで広げられるという。帯域が約4倍になるという説明も、単なる周波数向上ではなく、入出力端子を増やせる構造変更の帰結として読むほうが自然だ。

この数字がそのまま製品仕様になるとは限らないが、比較軸は明確である。HBM4の公式I/Oは2,048本で、研究側が示す目標は約2万本である。帯域面でも、Samsung公式HBM4の最大3,300GB/sを起点に単純換算すると、約4倍という主張は10TB/sを超える領域を射程に入れた話になる。HBM世代交代の延長というより、配線面積の使い方を変えるパッケージ転換として見るべき数字である。

ET Newsがもう一つ伝えたのは、研究が信号伝送と冷却の両方で実装寄りの検証に進んでいる点だ。報道では、ガラス基板に直接銅をめっきして伝送線を作り、信号無欠性を確認したとする。さらに、今年中にシリコンチップボンダーを導入し、実際の垂直接合工程に入る計画だという。ここまで進んでも量産時期は見えないが、概念図だけで終わっていないことは重要である。

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SamsungのHBM戦略に重ねると研究の位置づけが変わる

Samsungは量産ロードマップ側でも、HBMを従来の平面拡張から立体方向へ押し出す説明をすでに始めている。2月のSeoul Economic Daily報道では、Device Solutions部門CTOのSong Jae-hyuk氏が、GPUの上にHBMを積む「zHBM」を開発する計画を語り、現在使われるHBM比で4倍性能を目指すと述べたと伝えられた。こちらは製品構想の話であり、V-die研究と同じ技術ではないが、SamsungがHBMの進化を「より高く積む」「配置を変える」方向で考えていることは共通している。

この文脈で見ると、垂直ダイ研究は単独の珍しい大学発テーマではなく、Samsungが抱えるHBM競争上の課題に沿った探索案件と言える。Samsung公式HBM4ページでも、同社はメモリ、4nm foundry、先端パッケージングを束ねられる総合半導体ソリューション企業だと強調している。ベースダイ、ロジック、パッケージを同時に最適化できることを自社の差別化要素にしているため、HBMの構造自体を変える研究に資金を入れる動機は強い。

もう一つの文脈は熱である。HBMは積層数を増やすほど熱密度が上がりやすい。Samsung公式HBM4も、前世代比で電力効率約40%改善、垂直熱抵抗10%改善、放熱特性30%改善を打ち出している。つまり現行ロードマップのHBM4も、帯域だけでなく熱対策を大きな訴求点にしている。V-die研究がチップ間の微細な隙間を冷却液の流路として使うダイレクト液冷を前面に出すのは、I/O拡張と同じくらい、熱がボトルネックだからだ。

次の争点は積層枚数よりI/O密度と熱設計にある

ここから言えるのは三つある。第一に、垂直ダイ研究はHBM4の次期量産仕様を示した話ではなく、Samsung支援下で進む先行研究の性能目標と検証状況の開示だ。第二に、その目標値は現行HBM4の公式仕様と並べるとかなり大きく、I/O密度を桁で増やすことで帯域を押し上げる構造転換を狙っている。第三に、冷却を構造の内部に取り込む発想まで含めているため、単純な配線増強ではなく、AIアクセラレータ向けパッケージ全体の再設計に近い。

半導体業界の見方としては、HBM4以降を占う論点が二つに絞られてきたとも言える。一つは、JEDECの高さ制約緩和や積層高度化で既存アーキテクチャをどこまで延ばせるか。もう一つは、V-dieのようにダイ配置そのものを変えてI/Oと放熱の両立を狙う別系統へ進むかである。Samsungの量産品が直ちに後者へ移るとまでは言えないが、少なくとも同社の支援研究と製品メッセージの両方が、HBMの将来課題をI/O密度と熱に置いている点は一致している。

AI半導体の次の競争は、メモリ容量の多寡だけでなく、パッケージが何本の信号をどれだけ短い距離で、どれだけ安定して、どれだけ冷やしながら運べるかに移っている。今回の垂直ダイ研究は、その争点を研究段階の数字で具体化した案件として見ることが出来そうだ。


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