Steam Machineがいくらで出るのか——PCゲーマーの間で半年以上くすぶり続けてきたこの問いに、歓迎しがたい答えが見え始めた。2025年11月の発表当初、ValveはSteam Deckや家庭用ゲーム機に対抗できる価格を匂わせていた。ところが2026年5月、ValveはそのSteam Deck自体を最大300ドル値上げし、1TBのOLEDモデルは949ドルに達した。
その直後、Valve製品のリークで知られるBrad Lynch氏が、Steam Machineの想定価格は「今日のSteam Deckの価格よりも高い」と投稿した。しかもその数字を聞いたのは2ヶ月前だという。手頃なゲーミングPCという当初の期待は、なぜここまで遠のいたのか。答えは、Valveの値付けの姿勢ではなくメモリ市場の構造にある。
リークが示したのは「現行Steam Deck超え」、しかも2ヶ月前の数字
Brad Lynch氏はXで「眉に唾をつけて聞いてほしい。ただの耳打ち程度の話だ」と前置きしたうえで、こう述べた。「Valveが見積もったSteam Machineの開始価格を聞いたとき、それは今日のSteam Deckの価格よりもまだ高かった。しかもそれは2ヶ月前の話だ」(原文:"...it was still higher than today's Steam Deck prices.. And that was 2 months ago.")。同氏は過去にValve関連で的中するリークを複数出してきた人物で、噂の出所としての信頼度は低くない。
ここで言う「今日のSteam Deck」とは、直前に値上げされた後の価格を指す。512GBのOLEDモデルは549ドルから789ドルへ、1TBモデルは649ドルから949ドルへと、最大300ドル引き上げられた。Lynch氏の言葉を額面どおり受け取れば、Steam Machineは最も安い構成でも789ドルを上回り、場合によっては949ドルの最上位Steam Deck OLEDすら超える価格から始まることになる。
見落とせないのは「2ヶ月前」という時間軸だ。その見積もりは2026年3月頃のもので、以降もメモリ価格は上昇を続けている。当時より部材コストが上がっている以上、現在の想定価格はさらに高い公算が大きい。Lynch氏自身も、Steam Deckの値上げがSteam Machineの価格を抑えるための原資ではないかと問われ、「わからないが、その線は薄いと思う」と慎重な答えに終始している。
50ドルのメモリが150ドルに:「RAMaggeddon」がゲーム機を直撃する仕組み
Steam Machineの価格を押し上げている主因は、Valveの利益設計ではなくメモリの調達コストだ。半導体メモリの世界では2025年後半から、業界が「RAMaggeddon(RAM版ハルマゲドン)」と呼ぶ供給逼迫が進んでいる。Samsung、SK Hynix、Micronというメモリ大手3社が、生産能力をAI向けの高単価メモリへ集中させているためだ。
その中心にあるのがHBM(High Bandwidth Memory/広帯域メモリ)だ。生成AIの学習や推論を担うデータセンターはこのHBMを大量に必要とし、メーカーにとっては利益率が高い。限られた製造ラインをHBMに回せば、その分だけPC向けのDRAM(揮発性の主記憶メモリ)やNAND(SSDなどに使うフラッシュメモリ)の供給が細る。調査会社IDCの見立てでは、2026年に生産される高性能メモリの70%超をデータセンターが消費する。
価格への跳ね返りは急だった。2026年第1四半期だけで、コンシューマー向けRAMは最大110%、SSDは最大147%値上がりしたとされる。TechSpotによれば、Steam Machineが発表された頃に約50ドルだった16GBのDDR5メモリは、現在ではDDR5-4800の最も安い1枚でも150〜200ドルする。1年前なら512GBのSSDと同程度の値段だった部品が、いまや本体の主要なコスト要因に変わった。
ここでSteam Machineの構成を見ると、影響の大きさがわかる。本体は16GBのDDR5メモリ、8GBのGDDR6(グラフィック用メモリ)、そして512GBまたは2TBのNVMe SSDを積む。値上がりが最も激しいDRAMとNANDを、ゲーミングPCとしては標準的な量だけ搭載する設計だ。部材そのものが高い以上、Valveが組み立てをどれだけ効率化しても、上昇分はほぼそのまま本体価格に乗ってくる。
2TBモデルは999ドル超?スペックから逆算する価格レンジ
具体的な金額は確定していないが、複数の試算が価格帯を描き出している。TechSpotは以前から、ValveがこのLinuxベースのマシンで利益を出すには最低でも800ドル、おそらく900ドルは付けざるを得ないと試算してきた。Lynch氏のリークを重ねると、上位の2TBモデルは999ドルかそれ以上になる可能性が出てくる。16GBのDDR5と8GBのGDDR6という構成に999ドルを払えるかと問われれば、自作PCの相場を知る層ほど首を縦に振りにくい。
同時に発表されたVR(仮想現実)ヘッドセットのSteam Frameも無傷ではない。こちらは16GBのLPDDR5X(省電力型のメモリ)と256GBまたは1TBのストレージという、より軽い構成だ。メモリ搭載量が少ない分だけ価格高騰の影響は和らぐが、それでも当初想定した価格では出せないとみられている。演算装置の価格はメモリの単価に強く左右される。その単価が一気に跳ねれば、製品全体の値ごろ感は土台から崩れる。
赤字を飲むか、値ごろ感を捨てるか?Valveが迫られる選択
Valveはかつて、Steam Machineを初代Steam Deckのように攻めた価格では出さないと述べていた。Steam Deckは普及を優先し、薄利あるいは逆ざやに近い価格で投入された経緯がある。その手法をSteam Machineには使わない、そう明言していた会社が、いま方針の再考を迫られている。
Insider Gamingの報道によれば、Valveは社内で価格を巡って「行ったり来たり」しており、少なくとも短期的にはコストを下回る価格、つまり赤字を許容するかどうかまで議論しているという。製造済みの在庫が積み上がり部材価格が上がり続ければ、薄利でも売り切る判断に傾く余地はある。ただし赤字に近い値付けは、転売目的の買い占めを呼び込みやすい。Valveは4モデルを対象にした順番待ち(キュー)方式を用意し、発売直後の在庫がスカルパーに流れるのを抑えようとしている。
時間的な余裕も乏しい。Steam Machineは2025年11月、新型のSteam Controllerやスタンドアロン型VRヘッドセットのSteam Frameと共に披露された。当初は2026年初頭の発売を見込んでいたが、RAM不足を理由に延期され、Valveが自ら掲げた「2026年前半」という期限は、いままさに過ぎ去ろうとしている。発売を遅らせればメモリ価格の改善を待てるという保証はなく、足元の相場はむしろ悪化している。
PlayStationの牙城は揺らぐのか:AIが書き換えるゲーム機の価格
元Xbox幹部のMike Ybarra氏は今年のはじめ、Steam Machineは将来PlayStationにとって最大の競合になると見ていた。次世代Xboxの「Project Helix」が別の層を狙うとされるなか、据え置き型のゲーム体験で真っ向勝負を挑めるのはValveだという読みだった。だが999ドル級の価格が現実味を帯びたいま、その構図は揺らいでいる。同じ価格帯で完成度の高い専用機を持つSonyに対し、やや見劣りするスペックのPCを高値で売るのは分が悪い。
この件はValve一社の事情にとどまらない。RAMとNANDの高騰は、PC向けGPUやノートPC、家庭用ゲーム機、さらにはDellのような大手メーカーの製品価格にまで波及している。AIインフラへの投資が続く限り、コンシューマー向けハードウェアは「安く作る」という前提そのものを失う。Steam Machineの価格は、その変化が最も分かりやすい形で表面化した事例だ。
残された変数は時間だ。Micronをはじめとするメモリメーカーは、消費者向けの供給が本格的に緩むのは、新工場や製造プロセスの移行が出そろう2028年頃になるとの見通しを示している。それまでにValveがSteam Machineをいくらで、そもそも年内に出せるのか。Steam Deckの不意の値上げは、その答えを読み解く最初の手がかりになった。