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トランプ政権、半導体調査を開始:国産化推進と関税への布石か

Y Kobayashi

2025年4月16日

米商務省は、国家安全保障への影響を評価するため、半導体とその関連製品の輸入に関する調査を開始した。これはトランプ政権による新たな関税導入の布石と見られており、米国内の半導体生産能力強化の動きと連動する可能性がある。

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調査開始の公式発表と混乱の背景

米商務省は2025年4月15日(現地時間)、半導体、半導体製造装置(SME: Semiconductor Manufacturing Equipment)、およびそれらを含む下流製品の輸入が米国の国家安全保障に与える影響を判断するための調査を開始したと発表した。この発表は連邦官報(Federal Register)への掲載に先立って行われたもので、正式な公示は4月16日となる見込みである。

調査の根拠とされているのは、1962年に制定された通商拡大法232条(Section 232 of the Trade Expansion Act of 1962)だ。この法律は、特定の製品の輸入が国家安全保障を脅かすと判断された場合に、大統領が関税の賦課や輸入数量制限などの対抗措置をとることを認めるものだ。Trump政権は過去にも、鉄鋼やアルミニウム、自動車および同部品の輸入に対して、この232条を根拠に関税を発動した経緯がある。

しかし、今回の調査発表にはいくつかの不可解な点が存在する。

第一に、調査開始日である。商務省の文書によると、調査はHoward Lutnick商務長官によって4月1日に開始されたとされている。なぜ1日に開始された調査が半月も経ってから発表され、さらに翌日に正式公示となるのか、その理由は明らかにされていない。

第二に、Trump政権による関税政策との整合性である。Trump大統領は4月2日に「解放の日(Liberation Day)」と称し、広範な輸入品に対する「相互主義的」関税を発表し、「いかなる例外も認めない」と強調した。ところが、そのわずか1週間後の4月9日には、Apple製品などに対する関税適用を除外した。この「例外措置」が世界的に報じられると、大統領は週末にかけて「関税の『例外』など存在しない」「単に別の関税『バケツ(区分)』に移しただけだ」と主張し、あたかも当初からの計画であったかのように説明した。

もし半導体分野が、当初から別の「区分」での関税賦課(今回の232条調査に基づくもの)が計画されていたのであれば、なぜ最初に発表された「相互主義的」関税の対象に含まれていたのか。そして、なぜAppleへの「例外」が認められた後に、この調査が発表されるのか。この一連の流れは政策の一貫性の欠如を示唆しており、「計画など存在しない」可能性が高いと指摘されている。

さらに混乱に拍車をかけるように、Trump大統領は4月10日か11日の週末に「電子機器サプライチェーン全体」に対する国家安全保障上の調査を開始するとも述べていた。今回発表された調査は、まさにその発言に沿ったものに見えるが、タイミングや説明には依然として矛盾が残る。

調査自体は、官報公示後21日間にわたり、利害関係者からの意見(パブリックコメント)を募集する。通商拡大法232条に基づく調査は、通常、開始から270日以内に完了し、大統領への報告が行われることになっている。

調査の焦点:国内生産能力と輸入依存リスク

今回開始された調査は、広範な品目を対象としている。具体的には、半導体の基板となるシリコンウェハー、旧世代の「レガシーチップ」から最先端のチップ、マイクロエレクトロニクス、そして半導体製造装置(SME)とその構成部品が含まれる。さらに重要な点として、調査対象には「半導体を含む下流製品」、つまりスマートフォンやコンピュータといった最終製品も含まれる可能性がある。

調査の目的として、連邦官報の公示文書には14の項目が挙げられているが、核心となるのは以下の点である。

  1. 米国内の現在および将来の半導体需要の把握
  2. 国内生産能力がその需要をどの程度満たせるかの評価:「国内の半導体能力増強の実現可能性」
  3. 輸入依存のリスク評価:「外国の製造拠点が米国の需要を満たす上での役割」および「米国への輸入の集中とそれに伴うリスク」。特に、米国が半導体技術の多くを依存している台湾、韓国、オランダといった特定地域からの輸入リスクが念頭にあると見られる。
  4. 外国による輸出制限の可能性:これが特に半導体製造で世界をリードする台湾からの輸出制限リスクを指している可能性も指摘されている。
  5. 現行の通商政策等が国内生産に与える影響の評価
  6. 国家安全保障保護のための追加措置(関税や輸入割当)の必要性の判断:これが調査の最終的な目的であり、関税導入の根拠とされる可能性が高い。

要するに、この調査は「米国はどれだけの半導体を必要とし、どれだけ自国で製造できるのか」を明らかにすると同時に、「輸入に頼ることのリスクは何か」「国内生産を守り、増やすために、関税などの措置は必要か」を判断しようとするものである。

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関税導入は既定路線か? 市場と産業界の反応

調査結果を待たずして、関税導入はほぼ確実視されている状況である。その根拠は複数ある。

まず、Trump大統領自身が、アップル製品等への関税適用を除外した際に、それは一時的なものであり、半導体分野には別途関税を課す計画の一部であると示唆している。大統領は新たな半導体関税率を「来週にも発表する」と述べたと報じられている。

さらに、Howard Lutnick商務長官も、テレビ番組で「半導体および電子製品に対する別途の関税は、おそらく1、2ヶ月後には導入されるだろう」と発言している。Lutnick長官が調査開始前にその結論(関税導入)を予見しているかのような発言をしたことは、調査が関税導入を正当化するための手続きに過ぎない可能性を強く示唆している。

この動きに対し、産業界からは懸念の声が上がっている。消費者技術協会(CTA)のGary Shapiro CEOは、政権がより「永続的な正当化(durable justification)」を求めて国家安全保障を持ち出していると指摘しつつも、「スマートフォンなどの下流の消費者向けハイテク製品を『半導体』と見なすのは無理がある(a stretch)」と批判している。

Shapiro氏はさらに、「予測不可能性が長期的な投資と成長を損なっている」と述べ、国内でのハイテク製品製造は、高い生産コストと熟練労働者の不足という課題に直面していると指摘。「米国のイノベーションと競争力を支えるためには、同盟国と協力して中国に対抗する、より賢明で的を絞った貿易戦略が必要だ」と提言している。

市場もこの不確実性に反応している。Appleへの関税除外のニュースで一時的に市場は好感したが、関税政策の全体像が見えず、今後も不安定な状況が続く可能性が高い。

もし関税が導入されれば、そのコストは最終的に米国の企業や消費者に転嫁される可能性が高い。Amazonもこのような価格上昇を予想しているという。国家安全保障を理由に関税を課した結果、米国の消費者や企業がより高いコストを負担することになるという皮肉な状況が生まれかねない。

なお、今回の調査とは別に、Trump政権がフェンタニル流入阻止を名目に課した多くの輸入品に対する10%の関税は、依然として半導体関連製品にも適用されている点も留意が必要である。

国内半導体産業への影響とCHIPS法の行方

今回の調査とそれに続く可能性のある関税措置は、米国内の半導体産業、特に国内メーカーにとって追い風となる可能性がある。この動きがIntelのような米国のチップメーカーを「絶対に」優先しようとするTrump政権の意向の表れであり、特にIntel Foundryに利益をもたらす可能性があると分析されている。Intelは最先端プロセス「18A」の開発を進めており、米国を拠点とする主要なチップメーカーとしての地位を固めようとしている。

この動きは、Biden政権下で成立した「CHIPSおよび科学法(CHIPS and Science Act)」とも関連している。この法律は、米国内での半導体製造および研究開発を促進するため、約2800億ドルの予算を投じるものである。CHIPS法による補助金などを活用し、すでに大手半導体メーカーは米国への投資を進めている。

これらの投資により、米国内の半導体生産能力は徐々に向上することが期待される。しかし、これらの巨大工場が本格的に稼働するには数年の歳月を要すると指摘されている。

今回の調査と関税導入の動きは、米国政府が国内企業(Intelのような)と、米国に進出する海外企業(TSMCやSamsungのような)のどちらをより重視するのか、という選択を迫る可能性もある。

結論として、Trump政権による半導体輸入調査の開始は、国家安全保障を名目とした新たな関税導入への重要な一歩と見られる。これが米国の半導体国産化を加速させるのか、それともサプライチェーンの混乱と消費者負担の増加を招くだけなのか、その行方は依然として不透明である。今後発表されるであろう具体的な関税率や対象品目、そして産業界や同盟国の反応を注視していく必要がある。


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