配車・配達大手の米Uberは2026年9月2日、全社的な組織再編に伴い、全世界の従業員の約10%に相当する約3,300人を削減すると発表した。最高経営責任者(CEO)のDara Khosrowshahi氏が全社員に宛てたメッセージを公開し、管理職の階層削減、小規模チームの統廃合、オフィス回帰の厳格化を含む抜本的な構造改革を明らかにした。

一般的な人員削減は、業績悪化や資金繰りの逼迫に対する防衛策として行われることが多い。しかし、足元の同社は四半期売上高が141億9000万ドルに達し、直近12か月間のフリーキャッシュフローが過去最高の100億ドルを突破するなど、創業以来最も潤沢な収益力を誇っている。順風満帆に見える絶頂期の只中で、なぜ同社は大規模な人員整理と組織の解体に踏み切ったのか。

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3300人削減と「7階層」「マイクロチーム半減」が暴く組織の目詰まり

今回の再編の中核は、中間管理職の層を大幅に削ぎ落とすフラット化だ。コスロシャヒが社員に送った文書によると、社内調査(パルスサーベイ)や従業員との対話において、多くの業務で複数チーム間のすり合わせが必要になり、議論が長期化し、意思決定の所在が曖昧になっているという不満が噴出していた。従業員が顧客向けの開発や配送実務よりも、社内での「目線合わせ」に過大な時間を費やしている状況が常態化していた。

こうした肥大化の弊害を断ち切るため、同社は調整業務を主務とする役割を削減し、残る職務についても責任範囲を厳格に定義し直した。同時に、管理職1人が管轄する部下の範囲(スパン・オブ・コントロール)を広げることで管理階層そのものを圧縮した。とりわけ部下が1〜2人しかいない「マイクロチーム」を約50%削減し、CEOから7階層以上離れた位置に所属する従業員の数を20%削減する。

この措置により、全社で管理職ロールの約20%が縮小される。対象となった管理職の一部は、組織を管理する立場から実務に専念するIC(個別貢献者)へと役割を転換する。管理階層を薄くすることで、意思決定の速度を高め、マネジメントのための組織から「プロダクトを作り顧客に届けるための組織」への転換を狙う。2025年末時点で約3万4000人だった同社の全世界従業員数は、今回の約3,300人の削減によって3万人を下回り(3万人弱)、2021年当時の人員規模へ戻ることになる。

デリバリー3部門統合と週3日出社が迫る拠点の再編

チーム構造の単純化は、事業部門の統合にも及ぶ。最も象徴的な施策が、最高執行責任者(COO)のAndrew Macdonald氏の主導によるデリバリー事業の再編だ。同社はこれまで別個に運営されていたレストラン向け、小売(リテール)向け、ダイレクト配達向けの3つの運用チームを、グローバル、地域、各国の各階層で単一の統括チームへと一本化した。

事業の立ち上げ初期においては、異なる配送特性を持つ3部門を独立して走らせる体制に合理性があった。しかし、プラットフォーム全体の規模が拡大した現在では、縦割りの組織が重複業務を生み、意思決定の遅延を招く要因になっていた。3部門のP&L(損益計算書)責任を単一の責任者のもとに集約することで、業務の重複を排除し、各地域のゼネラルマネージャー(GM)が戦略的優先度に応じて機動的に資本を配分できる体制へ改めた。またテクノロジー部門でも、中核サービスエンジニアリング(Core Services Engineering)とサイエンス(Science)の各チームを統合し、先行して一体化を進めていたモビリティ部門やデリバリー部門と同一の組織構造に揃えた。

組織のスリム化と並行して、同社は勤務形態の方針も大きく転換した。対面での協業がもたらす生産性を重視し、職種やチームの配置拠点を少数の主要ハブへ集約する。グローバル統括チームはニューヨークとサンフランシスコの2大ハブに集約し、地域チームや開発チームも指定拠点へ集約する。

これに伴い、完全リモート勤務の適用範囲を全世界の全従業員の約1%へと厳格に絞り込んだ。これまで在宅勤務を続けてきた大半のリモート従業員に対してオフィス近郊への移転と出社を要請し、全社的なハイブリッド勤務方針である週3日出社の遵守を徹底する。中間管理層の削減と出社義務化を組み合わせることで、物理的な対面コミュニケーションを軸とした迅速な執行力を取り戻す狙いがある。

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なぜ過去最高益とFCF100億ドルの最中に切るのか

今回の構造改革で最も注目すべき点は、その実施時期にある。同社が2026年第2四半期(Q2)に計上した売上高は前年同期比12.2%増の141億9000万ドルに達し、総取扱高(Gross Bookings)は前年同期比22%増の580億ドル、調整後EBITDAは28億2000万ドルを記録した。さらに直近12か月間のフリーキャッシュフロー(FCF)は、同社史上初めて100億ドルの大台を突破した。月間アクティブ利用者数(MAPC)も2億800万人に達しており、中核事業の勢いは衰えていない。

過去を振り返ると、同社は2020年5月のコロナ禍初期、配車需要が最大80%消失した危機に直面し、2回にわたるリストラで計約6,700人(当時の約25%)を解雇した経験を持つ。あの時の人員削減は、現金の流出を食い止め、企業の生存を図るための防衛的措置だった。

それに対して今回の人員削減は、財務的逼迫とは対極にある。コスロシャヒ自身が「業績がこれほど好調な時期に、なぜ今なのかと疑問に思うはずだ」と社内メモで言及した通り、過去5年超で売上高が約3倍に急拡大した過程で蓄積した組織の官僚化を打破することが直接の動機となっている。事業が成長した結果、承認プロセスが多重化し、責任の所在が分散したことで、大企業病特有の調整コストが拡大していた。

株式市場はこの決断を好意的に受け止めた。発表当日、同社の株価は約2%上昇した。業績悪化を理由とする後ろ向きな人員整理ではなく、資本効率を高めて収益性をさらに底上げする攻めの合理化であると市場が評価したためだ。

ロボタクシーの覇権争いへ振り向ける余力と残る制約

組織の贅肉を削ぎ落として生み出された資金と人員の余力は、次の巨大市場である自動運転(ロボタクシー)の展開へと向けられる。同社はかつて自社開発部門(ATG)を抱えていたが、2020年末に自動運転開発企業のオーロラ(Aurora Innovation)へ売却した経緯がある。巨額の自社開発コストを負担する方針から転換し、以後は有力な自動運転技術を持つパートナー企業を自社の配車ネットワークへ引き入れるアグリゲーター戦略を推進してきた。

現在、同社は米Alphabet傘下のWaymoをはじめ、自動配送を手がけるAvrideやNuroとの提携を着実に広げている。さらにEVメーカーのLucidやRivianとも協業関係を結び、外部の自律走行・車両基盤を自社の配車ネットワークへ取り込む動きを加速させている。自動運転車両が商業運行を本格化させる段階において、膨大な利用者基盤と配車アルゴリズム、車両管理の運用網を提供するプラットフォームとしての地位を固めることが同社の戦略的命題だ。手作業による社内調整を減らして生まれた投資余力は、こうした次世代モビリティ基盤の構築や、ドライバー・配達員への還元へと投じられる。

ただし、この大規模な再編が思惑通りに進むかには制約も存在する。約3,300人の退職に伴う一時的な退職関連費用(セベランスパッケージ等)の総額や、今後の業績に与える影響額は公表されていない。また、リモート勤務者を約1%に制限し、週3日のオフィス出社を義務づける施策は、優秀なエンジニアやデータサイエンティストの離職を招くリスクを孕む。

何より、自動運転の普及速度は技術的課題や各都市の規制認可に大きく左右される。資本と人員を集中させたとしても、ロボタクシーが人間のドライバーを代替して大規模な収益源へと育つまでには時間を要する。

肥大化した組織の階層を削り、意思決定の速度を過去の創業期水準へ戻す試みは、巨大テック企業が直面する共通の課題だ。過去最高益の頂点で敢えて痛みを伴う組織改革を断行したUberが、手に入れたスピードと投資余力を用いて自動運転時代の配車覇権を維持できるかどうかが、次の試金石となる