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Valve、Proton 10.0ベータ版リリース:WindowsゲームのLinux互換性が大幅向上

Y Kobayashi

2025年5月1日

Valveが、Linuxゲーマー待望のProton 10ベータ版(10.0-1)をついにリリースした。Windows向けに開発されたゲームをLinuxやSteam Deckで楽しむための鍵となる互換レイヤー「Proton」は、今回のアップデートで基盤となるWine 10.0安定版にリベースされ、大幅な進化を遂げている。これにより、これまでProton Experimentalでしか動作しなかった多くの人気タイトルが新たにサポート対象となり、既存ゲームのバグ修正やパフォーマンス向上も多数実現されているとのことだ。

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Protonとは? Linuxゲーミングを支える魔法の杖

本題に入る前に、Protonについて簡単におさらいしておく必要がある。Protonは、ValveとCodeWeaversが開発する互換性レイヤーだ。その主な目的は、Windows向けに作られたゲームを、Linuxベースのオペレーティングシステム(Valve自身の携帯ゲーム機「Steam Deck」に搭載されているSteamOSもこれに含まれる)上で、あたかもネイティブで動作しているかのように実行させることにある。 これにより、膨大なSteamライブラリのWindowsゲームが、Linuxユーザーにもアクセス可能になるということで、ゲーマーにとっては、OSの壁を越えて好きなタイトルを遊べる、まさに夢のような技術と言えるだろう。

Proton 10 ベータによってプレイ可能になる注目の新規対応ゲームリスト

今回のProton 10.0-1ベータ版における最大の注目点は、なんといっても新たに対応したゲームの数々だろう。これまでProtonの実験的なバージョン(Experimental)でしか動作しなかったり、あるいは全く動作しなかったタイトルが、このベータ版でプレイ可能になったのだ。 以下が、その注目のラインナップとなる。

  • Batman: Arkham Asylum Game of the Year Edition
  • Black Ink
  • Factorio
  • Ignited Entry
  • Microsoft Flight Simulator 2024
  • MySims Kingdom
  • No Man’s Sky (VRモード、ゲームアップデート後の問題に対応)
  • Rising Storm 2: Vietnam
  • Sniper Elite: Nazi Zombie Army
  • Soul Interface
  • THE KING OF FIGHTERS XIII GLOBAL MATCH
  • VIDEO GAME (Steam AppID: 924310)
  • Willful
  • X Rebirth VR Edition

特に、『Microsoft Flight Simulator 2024』のようなAAAタイトルの名前が挙がっている点は、多くのPCゲーマーにとって大きなニュースではないだろうか。これらのタイトルが安定して動作するようになれば、LinuxをメインOSとして利用するハードルはさらに下がることになる。

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より快適なプレイ体験へ:ビデオ再生とパフォーマンスの向上

新規対応タイトルだけでなく、既存のゲームに対する改善もProton 10ベータの重要な要素だ。特に、以下のタイトルではビデオ再生のパフォーマンス向上が報告されている。ゲーム内のカットシーンなどがよりスムーズに表示されるようになることが期待出来そうだ。

  • Agony Unrated
  • All-Star Fruit Racing
  • Audiosurf
  • Bloodstained: Ritual of the Night
  • Gal*Gun 2
  • Greedfall
  • Indigo Park: Chapter 1
  • Omensight
  • SOULCALIBUR VI
  • TELEFORUM
  • Tintin Reporter – Cigars of the Pharaoh
  • Zero Escape: The Nonary Games
  • Shadow Warrior 2 (エクストラビデオ)
  • Twisted Sails
  • Max: The Curse of Brotherhood
  • Microsoft Flight Simulator (一般的なビデオ再生改善)
  • Locoland (NVIDIA GPU環境)
  • ATRI – My Dear Moments-
  • VRChat (60FPS AVPro動画の同期ズレ問題修正)

ゲーム内のカットシーンやムービー再生は、互換レイヤーにとって鬼門となるケースも少なくない。これらのタイトルで再生がスムーズになることは、没入感を高める上で非常に重要だ。

さらに、『Dirt Rally 2.0』ではパフォーマンス全体の向上が確認されている。 レースゲームのようなコンマ一秒を争うゲームタイトルにおいて、パフォーマンスの改善はプレイ体験に直結するだけに、嬉しい改善点と言える。

山積する課題への挑戦:バグ修正と細かな改善点の数々

互換レイヤーの開発は、常に予期せぬ問題との戦いである。Proton 10ベータでは、これまで報告されていた数多くのバグ修正や、特定のゲーム、ハードウェア環境における問題への対応が行われている。その中でも特に注目すべき点をいくつかピックアップしてみよう。

  • 多コアCPU環境での安定性向上: 32論理コアを超えるようなメニーコアCPUを搭載したマシンで発生していたCPUトポロジー(CPUの構成情報)の上書きに関する問題が修正された。ハイエンドな環境での安定性が向上する。
  • GTA Vの起動問題: 『Grand Theft Auto V』の高画質版で発生していたランチャーのハングアップや起動時のクラッシュ、さらにSteam経由でのアンインストールができない問題が修正された。
  • Intel GPUでのクラッシュ回避: 『Marvel Rivals』『The Finals』『Stalker 2』など、特定のタイトルがIntel製GPU環境でクラッシュする問題が修正された。
  • ゲームMODサポートの強化: カスタムされた dinput8.dll ファイルを経由してロードされるタイプのゲームMOD(改造データ)に対応した。これにより、MODコミュニティが活発なタイトルでのプレイの幅が広がる。
  • ネットワーク関連の修正: 『Hunt: Showdown 1896』でゲームアップデート後に発生していたネットワーク問題や、『XCOM 2』のmy2Kへの接続エラーが修正された。
  • 特定タイトルの問題修正: 『Final Fantasy XVI』デモ版のドライバ警告表示、『NieR: Automata』など一部タイトルで多数の解像度を認識するモニター環境で発生していたクラッシュ(Proton 7のハックを再導入して対応)、『Assassin’s Creed Shadows』のSteam Deckでの音割れ改善、『Sea of Thieves』のXboxログインウィンドウ問題など、多数の個別タイトルに対する修正が含まれている。
  • 音声合成の初期サポート: これは興味深い試みである。『The Thief, the Witch, the Toad, and the Mushroom』で動作確認済みの、音声合成機能の初期的な実装が含まれた。利用には追加のProton Voice Files (steam://install/3086180) の手動インストールが必要である。
  • Steam OverlayとEAC EOS: Easy Anti-Cheat (EAC) のEpic Online Services (EOS) 版を使用するゲームで、Steam Overlayが機能するようにハックが追加された。

これらは修正点の一部に過ぎない。他にも多くのゲームタイトルや、非Steam版Battle.netのインストール、Ubisoft Connectの挙動改善など、多岐にわたる修正と改善が施されているのである。

技術的基盤の刷新:Wine 10.0 と最新コンポーネントへのアップデート

Proton 10の心臓部とも言えるのが、Windows API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)をLinuxなどで再現するソフトウェア「Wine」である。今回のベータ版は、最新の安定版である Wine 10.0 をベースに再構築(リベース)されている。 Wine本体の進化を取り込むことで、より広範なWindowsソフトウェアとの互換性向上や、根本的なバグの修正が期待できる。

さらに、Protonを構成する重要なコンポーネント群も最新版にアップデートされている。

  • DXVK (v2.6.1): DirectX 9, 10, 11 APIをVulkan APIに変換するライブラリ。
  • VKD3D-Proton (v2.14.1 Git): DirectX 12 APIをVulkan APIに変換するライブラリ。
  • DXVK-NVAPI (v0.9.0): NVIDIA独自のNVAPIを実装するライブラリ。
  • Wine-Mono (9.4.0): .NET Frameworkアプリケーションを実行するためのコンポーネント。
  • Steamworks SDK (1.62): Steamの機能(実績、マルチプレイヤーなど)をゲームに統合するための開発キットへの対応。
  • Xalia (0.4.5): アクセシビリティ関連のツール。

これらのコンポーネントのアップデートは、グラフィックス描画のパフォーマンス向上、新しいAPI機能への対応、全体的な安定性の向上に寄与するものである。

Protonベータ版を試してみよう:設定方法

Proton 10ベータ版を試してみたい場合は、Steamクライアントの設定から簡単に変更できる。

  1. Steamクライアントを開き、左上の「Steam」メニューから「設定」を選択する。
  2. 設定ウィンドウが開いたら、左側のメニューから「Steam Play」を選択する。
  3. 「他のすべてのタイトルで有効化」にチェックが入っていることを確認し、「実行する互換性ツールを選択」のドロップダウンメニューから「Proton 10.0-1」を選択する。
  4. Steamを再起動すると、設定が反映される。

ただし、ベータ版であるため、予期せぬ問題が発生する可能性もある点は留意すべきだ。常用している安定版(例えばProton 9.0など)に戻したい場合も、同じ手順でバージョンを選択し直すことができる。

Linuxゲーミングの未来を照らす大きな一歩

Proton 10ベータ版のリリースは、LinuxデスクトップやSteam DeckでWindowsゲームを楽しみたいユーザーにとって、間違いなく大きな前進である。Wine 10.0という強固な基盤の上に、多数の新規ゲーム対応、パフォーマンス向上、そして地道なバグ修正が積み重ねられている。

もちろん、これはまだベータ版であり、今後さらなる改善や修正が行われ、正式版へと向かっていくことになるだろう。しかし、今回のリリース内容を見る限り、ValveとCodeWeavers、そしてコントリビューターたちの継続的な努力が、Linuxゲーミングの体験を着実に向上させていることは明らかだ。特に『Microsoft Flight Simulator 2024』のような重量級タイトルのサポートは、Protonのポテンシャルの高さを改めて示すものと言えるだろう。

今後、正式版のリリースに向けて、どのような改善が加えられていくのか、そしてProtonがLinuxゲーミングのエコシステムにどのような影響を与え続けるのか、引き続き注目していきたいところだ。


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