南アフリカのウィットウォータースランド大学(Wits大学)の研究チームが、光に埋め込まれた情報を、偏光分布の画像を再構成せずに読み取る光学装置を実証した。同大学が10月13日に「光で動く脳」として紹介した研究で、Hadrian Bezuidenhout氏らによる査読済み論文は、10月7日付の学術誌『Nature Communications』に掲載された。光の特殊な構造を、外部からの乱れに強い情報の伝送手段として利用するには、情報を光に符号化する技術だけでなく、受信側で効率よく読み取る仕組みも欠かせない。今回の成果は、光の伝搬と回折を利用して情報を分類し、従来必要だった画像の再構成や電子計算機による処理を減らす試みである。

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なぜ光の模様を撮影せずに読めるのか

研究チームが扱ったのは「光学スキルミオン」と呼ばれる光の構造だ。この光では、断面上の位置によって、電場の振動方向や振動の軌跡を表す偏光状態が異なる。偏光状態を球面上の点として表す「ポアンカレ球」に、この空間的な分布を対応させると、球面全体を何回覆うかによって「スキルミオン数」という値を定義できる。磁性体で研究されているスキルミオンと共通の数学的構造を持つが、今回、情報を運ぶのは光そのものである。

スキルミオン数には、光の分布が一定の変形を受けても値が変わらないという性質がある。光の模様が多少変わっても同じ情報として読み取れるため、通信への応用が期待されている。ただし、あらゆる乱れに耐えられるわけではなく、スキルミオン数が保存される条件には限界がある。通信に利用するには、伝送中に情報が保たれることに加え、受信器がその情報を正確に読み取れることも確かめなければならない。

従来、スキルミオン数を調べるには、ストークス偏光測定などを用いて各位置の偏光状態を測定し、光の場全体を再構成する必要があった。そのうえで、偏光状態の空間的な変化を微分・積分し、スキルミオン数を計算していた。光の構造を詳しく解析するには有効だが、通信で必要なのが情報を表す番号だけなら、測定するデータ量も計算量も多すぎる。今回の論文では、この読み取り処理の負担を減らすことが課題とされた。

そこで研究チームは、今回対象とした光学スキルミオンでは、水平偏光と垂直偏光の軌道角運動量(OAM)の番号からスキルミオン数を求められることに着目した。軌道角運動量は、光の波面がらせん状に変化する構造と関係する物理量だ。二つの偏光成分を分離し、それぞれの軌道角運動量の番号を読み取れば、光の場全体を再構成しなくてもスキルミオン数を計算できる。必要な特徴だけを直接取り出すことで、読み取り処理を簡略化する仕組みである。

この読み取りを担うのが「回折光ニューラルネットワーク」だ。空間光変調器(SLM)を使って光の位相を調整し、伝搬と回折を繰り返すことで、軌道角運動量の番号に応じた位置へ光を導く。実験装置では、水平偏光と垂直偏光のそれぞれに5層の位相パターンを配置した。出力面で光がどの位置に集まったかを測定すれば、各偏光成分の番号が分かり、その組み合わせから元の情報を読み取れる。

81通りの入力を15種類の情報に分類

各偏光成分について識別する軌道角運動量の番号は、−4から4までの9種類だ。水平偏光と垂直偏光を組み合わせると、9×9で合計81通りの入力状態を作れる。研究チームは、これらを−7から7までの15種類のスキルミオン数に分類する実験を行った。ただし、81通りの入力が、そのまま81種類の独立した通信記号に対応するわけではない。異なる光の模様でも同じスキルミオン数を持つ場合があり、受信器はそれらを同じ情報として扱う。見た目の異なる光から共通の番号を取り出せることが、この分類方式の特徴である。

ネットワークの学習も、81通りの入力パターンを個別に記憶させる方法ではない。論文のMethodsによると、学習に用いたのは各偏光成分につき9種類、合計18種類の基底モードである。それぞれの軌道角運動量の番号を識別できれば、その組み合わせからスキルミオン数を求められる。このため、学習時に直接与えていない組み合わせにも対応できる設計となっており、その基礎には対象とする光の物理的な性質がある。

一方、ネットワークの学習自体には電子計算機を使用する。各層の位相パターンを121個のフーリエ成分で表し、カメラが測定した出力を基に係数を更新する仕組みだ。各位相パターンの係数は実部と虚部を合わせて242個で、二つの偏光経路にそれぞれ5層を配置するため、調整する係数は合計2,420個となる。つまり、学習には電子計算機を使うものの、学習後の入力光の変換と分類は光学系が担う構成である。

識別性能を評価する際には、異なる指標を区別する必要がある。論文では、光が正しい出力位置にどの程度集中するかを評価した指標について、約93%という値を報告している。一方、多数の光子による平均強度を測定できる古典的なレーザー光の実験では、閾値を設定したり、最も強い出力を選んだりすることで、対象となるスキルミオン数を100%正しく判定したという。ただし、この100%という結果は古典光を用いた実験での分類精度であり、単一光子を使った場合にも同じ成功率が得られることを意味しない。

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背景光には強いが、大気の乱れへの対応は今後の課題

学習済みの受信器については、外部から白色光を混ぜる耐雑音性試験も実施された。検出面に入る非干渉の背景光を増やしても、論文で定義した雑音レベルが−0.22dBに達するまでは、古典光を用いた分類で100%の正答率を維持したという。ただし、これは検出する光に広く重なる「等方的な雑音」に対する結果であり、あらゆる種類の光学的な乱れに対する耐性を示したものではない。

従来の偏光画像を再構成する方式では、各位置の光の強度に生じる揺らぎが、空間微分の計算誤差につながりやすかった。今回の方式は空間微分を必要とせず、出力領域ごとの光の強度を比較して情報を読み取る。最も強い信号を正しく判別できればよいため、背景光が加わっても分類結果が変わりにくい。ただし、出力間の強度差が小さくなると、カメラがその差をどこまで正確に測定できるかが重要になる。実際に、背景光をさらに強めた条件では分類精度が低下した。

一方、大気乱流による影響は、背景光による雑音とは別の問題だ。Guo氏やPeters氏らによる先行研究では、大気乱流を実験的に再現した条件でも、古典光と量子光のスキルミオン数が比較的安定して保たれることが示された。ただし、同研究では量子もつれなどの相関が劣化する可能性も報告されている。スキルミオン数という特定のトポロジカルな情報が保存されても、光が持つほかの性質まで維持されるとは限らない。

今回の受信器についても、モード間の混合や位相の乱れ、大気乱流が読み取り性能に与える影響は、今後の検証課題とされている。先行研究によって特定の条件下でスキルミオン数の保存が確認されていても、新しい受信器を接続した際に同じ情報を正確に読み取れるとは限らない。現段階では、乱れのある伝送路を経由した光を、この受信器で安定して読み取れることまでは実証されていない。

研究チームは、画像の送受信にもこの方式を応用した。スキルミオン数に色の値を割り当て、画像の各画素に対応する光を順番に送信し、受信側で読み取った情報から画像を復元したという。論文では、この実験で100%の画像復元に成功したと報告している。ただし、これはスキルミオン数の読み取りを画像伝送に応用できることを示す原理実証であり、実際の雑音環境を含む高速・長距離通信の性能を検証したものではない。通信技術としての実用性を判断するには、送信から伝送、受信までを含むシステム全体での評価が必要となる。

通信受信器としての実用化に残る損失と速度の課題

装置の性能を考えるうえでは、光の振り分け効率と透過率の違いも重要だ。論文で報告された「70%超」という値は、CCDに到達した光のうち、指定された検出領域に集まった光の割合を表している。一方、装置への入力光量を基準とした透過率は約15±3%であり、入射した光の大部分は検出面に到達するまでに失われていた。10月7日付の論文のResultsに示された主な数値を整理すると、次のようになる。

指標 論文の報告値 分母と意味
出力の振り分け効率 70%超 CCDに届いた総光量のうち、指定の検出領域に入った割合
回折格子の損失を加える前の透過率 約30±3% 入力光量に対し、SLMや鏡での反射を経てCCDに届く割合
回折格子の損失を含む透過率 約15±3% 入力光量に対し、回折格子の損失も含めてCCDに届く割合

これらは同じ実験装置について、異なる基準で測定・評価した数値であり、単純に割り算して性能差を求められるものではない。光を正しい検出位置へ振り分ける性能が高くても、そこへ到達するまでに多くの光を失えば、受信できる信号は弱くなる。実際の通信受信器として利用するには、振り分け精度を維持しながら、装置全体の光学損失を減らす必要がある。

また、二つの偏光経路のネットワークを学習させるのに、実際の装置では約45時間を要した。この時間は、各層の位相パターンを実機上で調整するために必要だったものであり、一度学習したネットワークが情報を判定するたびに45時間かかるわけではない。光の伝搬を利用して分類処理を行う利点はあるものの、今回の装置が通信速度をどこまで高められるかについては、別途測定する必要がある。

消費電力についても、光学的な演算部分の効率が高いことを、そのまま受信器全体の省電力性能とみなすことはできない。著者らは、レーザーやSLMだけでなく、カメラや制御回路が消費する電力も含めて評価する必要があると指摘している。学習済みの位相パターンを固定構造のメタサーフェスに置き換える案も示されており、実現すれば装置構成の簡素化につながる可能性がある。ただし、今回の実験ではSLMを使用しており、メタサーフェスを用いた受信器が完成したわけではない。

今回の実証に用いられたのは、特定のラゲール・ガウシアンモードと水平・垂直偏光を組み合わせて生成した、古典的なレーザー光である。単一光子や量子もつれを利用する光への応用は、今後の研究課題として残されている。また、大気乱流などの影響を受ける伝送路でも正確に情報を読み取れるか、必要な光量や処理速度が実用的な範囲に収まるかを検証する必要がある。こうした課題を解決できれば、光の偏光分布を詳細に再構成せず、必要な情報だけを直接取り出す新しい光通信受信器への応用が期待できる。