約1世紀にわたり、ハイゼンベルクの不確定性原理は量子力学を定義する概念の一つとして君臨してきた。粒子の位置と運動量を同時に絶対的な精度で知ることはできないのである。一方について知れば知るほど、もう一方について知ることは少なくなる。

『Science Advances』に掲載された新しい研究において、我々の研究チームは、物理法則を破ることなく、不確定性そのものを再形成することで、この制限を回避する方法を実証した。

その結果、原子スケールで動作する超高精度量子センサーの新世代を実現する可能性のある、測定科学におけるブレークスルーが生まれたのだ。

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不確定性を移動させる

不確定性原理は、測定には常に最小限の不確定性が存在することを明確にしている。しかし、これは風船の中の空気のようなものと考えることができる。空気は逃げることはできないが、内部で自由に動かすことができる。

同様に、位置と運動量を測定する際、不確定性の総量は固定されている。しかし、我々はそれを両者の間で再配分することができる。

従来、このトレードオフは選択を意味していた。位置を正確に測定できるが運動量に関する情報を失うか、またはその逆かである。

風船の中の空気のように、量子測定における不確定性を決して取り除くことはできない。しかし、目的に合わせてそれを圧縮して移動させることはできる。(Credit: Bhautik Patel / Unsplash)

我々の研究は異なるアプローチをとっている。我々は不確定性を重要でない感知範囲に押し込むのである。

これを理解するために、別のアナロジーを試してみよう。針が1本しかない時計を想像してほしい。それが時針であれば、時間は正確にわかるが、分はおおまかにしかわからない。分針であれば、分は正確に読めるが、時間はわからない。

我々はこの同じアイデアを量子測定に適用している。選択した点の絶対的な位置がわからなくても、その点の周りの位置と運動量の小さな変化を同時に追跡できるように不確定性を再配分するのである。

これにより、古典的なセンサーの限界を超えて、位置と運動量の両方の非常に小さな変化を一度に検出できる。

量子センシングへの誤り訂正符号の使用

どのようにしてこれを実現したのだろうか?我々は、もともと量子コンピューターをノイズから保護するために設計された技術を、測定装置の精度を向上させるために転用した。このアイデアは2017年の理論研究で初めて提案された。

我々はトラップイオンを使って実験を行った。これは電場と磁場で保持され制御される単一の電荷を帯びた原子である。

我々はイオンを「グリッド状態」で準備した。これは誤り訂正量子コンピューティング用に開発された一種の量子状態である。そして、量子コンピューターでエラーを検出するのと同様の方法で、これらの状態をセンサーとして使用し、微小な信号を測定した。

量子コンピューティングと量子センシングの間のこのクロスオーバーが、我々の研究の鍵となるアイデアである。

我々の実験は、原子のサイズとほぼ同じである0.5ナノメートルに相当する信号の不確定性を測定できることを示した。

また、ヨクトニュートン単位で測定される極めて小さな力も測定できる。これは1ニュートンの1兆分の1の1兆分の1である。これは約30個の酸素分子の重さを測定するようなものである。

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なぜ重要なのか

極めて小さな信号を測定できることには深い意味がある。直感に反して、極小を測定することは、最大規模での理解を向上させるのに役立つ。

量子センサーはすでに重力波観測所がブラックホールの衝突などの宇宙現象を検出するのに役立っている。我々の研究は、さらに優れたセンシング能力への扉を開き、天体物理学的対象の理解を深める可能性がある。

この実験はまだ物理学研究室の中にとどまっている。明日店頭に並ぶガジェットではない。しかし、我々は、精密測定を行うこの新しい方法が、超高感度量子センサーの全世代につながると確信している。


本記事は、シドニー大学量子制御研究所 シドニー・ホライズン・フェロー兼ARCフューチャー・フェロー Tingrei Tan氏とシドニー大学量子制御研究室 ポスドク研究員Christophe Valahu氏によって執筆され、The Conversationに掲載された記事「A new twist on Heisenberg’s uncertainty principle can sharpen quantum sensors」について、Creative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、翻訳・転載しています。