中国Alibaba GroupのAIインフラ投資が加速している。同社は2026年8月20日の四半期決算発表(2026年4〜6月期)で、AIデータセンターへの資本支出が前年同期比75%増の約100億ドルに達したことを報告した。

巨額のインフラ投資が利益を圧迫するとの懸念に対し、CFOのToby Xuは明確な財務モデルを提示した。同社のサーバー運用期間は5年であり、AIサーバーが生み出す収益によって最初の3年間でコストを完全に回収できているという。残る4年目と5年目は、ハードウェアが純粋なフリーキャッシュフローを創出する期間となる。CEOのEddie Wuによれば、2018年や2020年に導入したNvidia V100およびA100搭載サーバーの一部は現在もほぼフル稼働で顧客に利用されており、古い世代のGPUであっても用途さえ選べば十分な収益を生み続ける構造ができあがっている。

同社はこの初期回収期間を、さらに短い2.5年へと短縮する方針だ。その最大の手段として、商用チップへの依存を減らし、自社開発チップのデータセンターへの導入比率を引き上げる。演算能力が世界的に不足する現状において商用AIチップの粗利率は極めて高く、これがクラウドベンダー側の利益を圧迫する最大の要因になっていた。自社製チップへの切り替えは、自社サービスの価格競争力と利益率を直接的に押し上げる効果を持つ。

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「Zhenwu」と「Yitian」が支える自社製エコシステム

Alibabaは現在、半導体開発部門であるT-Head(平頭哥)を通じて、独自のシリコン基盤を急速に強化している。汎用サーバー向けCPUの「Yitian(倚天)」710の展開に加え、彼らが今最も注力しているのが最新のAI推論および自律型AIエージェント向けチップ「Zhenwu(真武)」シリーズの拡大だ。

2026年5月に発表された最新のZhenwu M890は、144GBの広帯域オンチップメモリを搭載し、次世代のAIエージェントが要求する大規模なコンテキスト処理に特化した設計を採用している。演算性能は前世代から約3倍に引き上げられ、すでに数十万個規模での出荷が始まっているとされる。米国による先端AIハードウェアの輸出規制により、中国企業はNvidiaの最新アーキテクチャへのアクセスを制限され、性能を落としたH20などの代替品に頼らざるを得ない状況が続いている。そのような環境下で、エージェント特化型のZhenwu M890は、高価な代替商用チップに対する強力な対抗馬として位置づけられている。

Wuは「自社開発チップは当社にとって長期的かつ重要な方向性だ」と強調した。自社製チップの生産能力が向上するにつれて、データセンター内での商用チップの置き換えが進む。高性能な国産チップを自社データセンターの標準装備とすることは、米国の規制リスクを回避し、サプライチェーンを安定させるためにも必須の選択だった。

Eコマースの成長限界とAIへの賭け

こうした巨額のインフラ投資を正当化する背景には、祖業であるEコマース事業の明確な成長限界がある。PDD Holdings(Pinduoduo/Temu)やDouyin(TikTokの中国国内版)との間で長年続いた不条理な価格競争は沈静化の兆しを見せているものの、市場そのものの成熟により、今四半期のEコマース収益は303.4億ドルにとどまった。成長率は前年同期比でわずか4%にすぎない。

対照的に、クラウド部門におけるAIサービスの収益は45%増を記録した。Wuは、AIが同社にとって「最も確実な成長エンジン」になったと断言する。クラウド事業全体の四半期収益は71.4億ドルに達しており、次期には100億ドルの大台に乗るとの見通しが示された。

ただし、このクラウド売上にはAlibabaグループ自身の内部利用分も多く含まれている点に注意が必要だ。自社グループのEコマースプラットフォームにおける商品推薦AIの稼働や、物流部門であるCainiao(菜鳥)でのルーティング最適化など、膨大な内部需要がクラウド部門の収益を直接的に支える構図となっている。外部顧客への販売で利益を上げる以上に、まずは自社の巨大な事業基盤をAIで徹底的に効率化し、その運用コストを自社製チップで吸収するという巨大な内部循環が機能している。

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外部顧客獲得の壁と今後の観測点

AlibabaはAIデータセンターの構築期間をわずか100日間に短縮し、インフラの展開速度を世界最高水準まで引き上げたと主張する。だが、この巨大なインフラを外部顧客のワークロードで埋め尽くせるかは未知数だ。

決算発表の中で同社は、650社以上の外部顧客がAlibabaの自社製チップを搭載したクラウドリソースを利用していると公表した。これは一歩前進と言える数字だが、競合である米AWSが汎用プロセッサ「Graviton」で12万社以上の顧客を抱えている事実と比較すると、規模の差は歴然としている。AWSは長年のソフトウェア最適化と移行支援によってGravitonのエコシステムを築き上げたが、AIチップの領域ではNvidiaのCUDAエコシステムという強固な壁が存在し、顧客に独自のハードウェアへ移行させるハードルは汎用CPU以上に高い。

さらに、西側諸国の政府機関が中国製クラウドサービスの利用を制限、あるいは非推奨とする動きを強めており、欧州でもデータ主権を重視するソブリンクラウドの要求が高まり続けている。Alibaba Cloudが中国国外で独自のチップエコシステムを拡大する道筋は険しい。

今後の観測点は、自社製チップを活用した高利益率モデルが、Alibaba自身の内部コスト削減ツールにとどまるのか、それとも圧倒的なコストパフォーマンスを武器に外部のAI開発者を惹きつけるプラットフォームへと進化するのかという点にある。2.5年での投資回収という強気な財務シナリオが現実のものとなるかは、外部顧客ベースの拡大速度が証明することになる。