AMDが台湾で開催されたComputex 2025の基調講演で、同社の超解像技術FidelityFX Super Resolution (FSR) の次なる大きな進化、「FSR Redstone」を発表した。この新技術は、最新グラフィックスアーキテクチャ「RDNA4」を搭載したGPU専用となり、AI(人工知能)を活用した3つの革新的な機能を核として、NVIDIAのDLSS技術群に対抗し、ゲーミングにおける画質とパフォーマンスの両立を新たな次元へと引き上げることを目指す物だという。同時に現行FSRの最新版「FSR 4」が2025年6月5日に提供開始されることも発表された。
Computex 2025の目玉:AMDが打ち出す次世代アップスケーリング戦略
AMDのFidelityFX Super Resolution(FSR)は、オープンソースであることの強みを活かし、幅広いGPUで利用可能なアップスケーリング技術として多くのゲーマーに支持されてきた。しかし、NVIDIAのDLSS(Deep Learning Super Sampling)が、特にレイトレーシング表現やフレーム生成技術において先行しているという評価も根強かった。
今回のComputex 2025における発表は、AMDがその差を一気に縮め、さらに追い越そうという強い意志の表れと見て間違いないだろう。発表の柱は二つ。まず、現行FSRの正統進化版である「FSR 4」が、間もなくRadeon RX 9000シリーズグラフィックスカード向けに提供開始されること。そして、より革新的な機能を搭載し、RDNA 4アーキテクチャのポテンシャルを最大限に引き出すことを目指す「FSR Redstone」プロジェクトの存在が明らかにされたことだ。
FSR 4、間もなく登場!Radeon RX 9000シリーズで新次元の画質へ
まず、より直近の話題として注目されるのがFSR 4である。AMDによれば、FSR 4は2025年6月5日に、Radeon RX 9000シリーズグラフィックスカードのユーザー向けにリリースされる予定だ。このRX 9000シリーズは、FSR 4がデビューしたRadeon RX 9070シリーズを含む、AMDの最新世代GPUにあたる。
FSR 4の最大の進化点は、AI機械学習(ML)に基づいた新しい超解像アルゴリズムの導入にある。これにより、従来のFSRと比較して、あらゆるパフォーマンスプリセットにおいて、より正確で大幅に改善された画質が期待できるという。AMDによれば、FSR 4のリリース時点で60以上のゲームタイトルが対応する見込みであり、開発者にとっても既存のFSRからの統合は比較的容易であるとされている。これは、ゲーマーが迅速にFSR 4の恩恵を受けられることを意味しており、歓迎すべき点と言えるだろう。
FSR Redstone:RDNA 4世代で実現する革新的グラフィックス体験
そして、今回の発表で最も大きな興奮を呼んだのが、コードネーム「FSR Redstone」だ。これはFSR 4のさらに未来の拡張版と位置づけられており、2025年後半のローンチが予定されている。FSR RedstoneはRDNA 4アーキテクチャを搭載したGPU専用となる見込みだ。AMDのJack Huynh氏も「FSR RedstoneはRDNA 4ユーザーにとってゲームチェンジャーになるだろう」と述べており、その期待の高さが伺える。

FSR Redstoneは、主に以下の3つの革新的な機能を柱としている。
核心技術1:Neural Radiance Caching – 光の挙動を学習し、リアルタイムレイトレーシングを効率化

「Neural Radiance Caching(ニューラル・ラディアンス・キャッシング)」は、シーン内での間接光の反射や伝播をAIが継続的に学習・予測し、その情報をキャッシュ(一時保存)することで、フルパス・トレーシング(光の経路を完全に追跡する最も高品質だが負荷の高いレイトレーシング手法)の計算負荷を大幅に削減する技術だ。
これは、NVIDIAがRTX 50シリーズで導入を示唆している同名の技術や、既存の『Portal RTX』などで見られる技術コンセプトと軌を一にするものと考えられる。特に複雑な光の相互作用が求められるパストレース対応ゲームにおいて、パフォーマンスを維持しつつ、よりリアルな照明表現を実現するための鍵となるだろう。XDA Developersは、これが「ニューラルレンダリングの基礎の一つ」であり、「パストレーシングを特徴とするゲームにとって重要な機能」と指摘している。まるでAIがシーンの光の振る舞いを“熟知”しているかのように、効率的なレンダリングを助けるというわけだ。
核心技術2:機械学習によるRay Regeneration – ノイズを抑え、レイトレース画質を劇的向上

「Ray Regeneration(レイ・リジェネレーション)」は、機械学習を活用して、レイトレーシング処理中に正確にパス・トレースできなかったピクセルや、ノイズが発生しやすい箇所を再生成・補正する技術だ。これにより、特に超解像技術と併用した際の反射表現や影の品質が劇的に向上すると期待される。
この機能は、NVIDIAのDLSS 3.5で導入された「Ray Reconstruction(レイ再構成)」に相当するものと見てよいだろう。DLSS 3.5 Ray Reconstructionは、従来のゲームエンジン内蔵デノイザー(ノイズ除去機能)をAIベースの高度なものに置き換えることで、レイトレーシング画質を著しく向上させたと評価されている。AMDのRay Regenerationも同様のアプローチで、これまでレイトレーシングの美しさを損ねていた“ザラつき”や“ぼやけ”といったアーティファクトを、AIの力で一掃しようという野心的な試みだ。
核心技術3:機械学習アクセラレートFrame Generation – より高精度なフレーム生成へ

FSR 3で導入されたフレーム生成技術も、FSR Redstoneでは大幅な進化を遂げる。従来の補間技術をベースとしたものから、時間的および空間的な認識能力を持つ、より高度な機械学習(ML)モデルへと置き換わるのだ。これにより、生成される中間フレームの精度と画質が向上し、より滑らかで自然な映像体験が可能になる。
これは、NVIDIAがRTX 40シリーズで実現したフレーム生成技術(DLSS 3 Frame Generation)に匹敵する、あるいはそれを超える品質を目指すものと考えられる。単なるフレーム補間ではなく、ゲーム世界の時間的・空間的な文脈をAIが理解した上で、より“本物らしい”中間フレームを生成するという、まさに次世代のフレーム生成技術と言えるだろう。
FSR Redstoneはゲームチェンジャーとなるか?NVIDIA DLSSとの覇権争い
今回のFSR Redstoneの発表は、AMDがNVIDIAのDLSS技術群、特にRay ReconstructionやFrame Generationといった最先端機能に対し、本格的に戦いを挑む姿勢を明確にした点で極めて重要だ。NVIDIAのDLSSに対するAMDの取り組みにおいて、大きな飛躍を遂げようとしていることを示している点で、大きく期待したい所だ。
これまでFSRは、オープンソースであることのアクセシビリティの高さという利点があった一方で、特に初期のバージョンではDLSSに対して画質面でやや劣るという声も聞かれた。しかし、FSR 4でMLベースの超解像を導入し、さらにFSR RedstoneでNeural Radiance Caching、Ray Regeneration、ML Frame Generationという三種の神器を揃えることで、AMDは技術的なキャッチアップだけでなく、独自の強みを打ち出すことも可能になるかもしれない。
RDNA 3/2世代へのサポートは?残された疑問点
一方で、いくつかの疑問点も残されている。今回の発表ではFSR RedstoneのRDNA 3およびRDNA 2アーキテクチャGPU(つまり旧世代GPU)への対応については一切言及がなかった。前述の通り、FSR RedstoneはRDNA 4専用となる可能性が高い。
FSR 4については、Radeon RX 9000シリーズ向けとされており、これはRDNA 4世代のGPUを指す。つまり、FSR 4の恩恵も当面は最新世代のユーザーに限られることになりそうだ。AMDは伝統的に幅広いハードウェアサポートを重視してきただけに、これらの新技術が将来的に旧世代GPUにも何らかの形で提供されるのか、あるいは最適化された形で移植されるのか、今後の情報開示が待たれるところである。
AMDの逆襲なるか?ゲーミンググラフィックスの未来を占うFSR Redstone
AMDによるFSR 4およびFSR Redstoneの発表は、同社がグラフィックス技術の最前線で戦い続けるという強い決意を示すものだ。特にFSR Redstoneに搭載されるNeural Radiance Caching、Ray Regeneration、そしてMLベースのFrame Generationは、NVIDIA DLSSが築き上げてきた牙城に迫る、あるいは凌駕する可能性すら秘めている。
これらの技術が実際にどのようなパフォーマンスと画質向上をもたらすのか、そしてどれだけ多くのゲームタイトルに採用されていくのか。2025年後半のFSR Redstoneの登場が、AMDの逆襲となるのか、そしてそれがゲーミンググラフィックスの未来をどう塗り替えていくのか、今から楽しみだ。
Sources
- AMD (YouTube): AMD at COMPUTEX 2025