6月27日、AnthropicはClaude Mythos 5の再展開が米政府から正式に承認されたと発表した。対象は重要インフラを運用・防衛する米国組織に限られており、完全な制限解除には至っていない。

6月12日(金)夕方、商務長官Howard Lutnickはサイバーセキュリティの懸念を理由に、Mythos 5と一般向けモデルClaude Fable 5へのアクセスをすべての外国籍者に禁じる輸出管理指令をAnthropicに送付した。これを受けてAnthropicはGlasswingパートナーを含む全ユーザーへのアクセスを即日停止した。

指令発出の直接の引き金は、AnthropicがProject Glasswingの対象外である韓国通信企業に同モデルへのアクセスを許可していたことだ。米政府はこの企業が中国との関係を持つとの情報を入手し、アクセス管理に問題があると判断した。

その直後、AmazonとNSA(米国家安全保障局)が、Fable 5にはジェイルブレイクによる脆弱性探索機能の悪用リスクがあるとして別途懸念を表明した。このAmazon・NSAからの指摘が重なり、事態はより複雑な様相を帯びた。

その後、AnthropicはサイバーセキュリティとAI安全チームの上席者をワシントンD.C.に派遣し、商務省との協議を続けた。今回のLutnick書簡は、この協議が「著しい進展」をもたらしたと評価している。ただし、書簡はセーフガードの具体的な内容を明示しておらず、どのような技術的措置が採用されたかは現時点では不明だ。

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Mythos 5が問題視された理由

Claude Mythosが当初から注目を集めたのは、その能力の種類が既存のAIとは質的に異なるためである。Anthropicは2026年4月の発表で、MythosをAIが自律的にソフトウェア脆弱性を発見できる「サイバーセキュリティの転換点」と表現し、当初は公開を見送った。

実際に報告されている性能は、その慎重な姿勢を裏付けるものだ。Mythosは主要なオペレーティングシステムとウェブブラウザ全般にわたって数千件の高深刻度の脆弱性を自律的に発見し、最初の試みで機能するエクスプロイトの生成と脆弱性の連鎖に72%の成功率を達成した。前モデルのOpusの同成功率が0%だったことと比較すれば、その能力向上の幅がいかに急峻かがわかる。発見された具体例には、OpenBSDの27年前の脆弱性、FFmpegの16年前の欠陥、そして完全な権限昇格が可能なLinuxカーネルエクスプロイトの連鎖が含まれる。

こうした能力は、サイバー防衛の観点から見れば「先手を打った脆弱性発見」を意味するが、攻撃側の手に渡れば、金融や医療、エネルギーのような複雑かつ老朽化したインフラを標的にした精巧な攻撃を大幅に加速しうる。政府がMythosと外国籍者アクセスの組み合わせに神経をとがらせたのは、この非対称性が背景にある。

Project Glasswingと「誰が使えるのか」という問い

今回承認された再展開の枠組みは、既存のProject Glasswingを継承している。Glasswingはもともと米国政府機関やApple、Amazon、Microsoftなどの主要テクノロジー企業を含む約200の審査済み組織に限定されたクローズドアクセスプログラムで、Anthropicは最大1億ドル相当のClaude利用クレジットをその支援に充てていた。

Reuters の報道によると、今回の再展開対象は100社超の企業・機関とされ、その多くがFortune 500企業である。Lutnick書簡には、承認リストに掲載された組織であれば、その外国籍従業員もMythos 5へのアクセスが可能になるとも明記されている。ただし、リスト外の組織への輸出規制は継続される。

承認基準が公開されていないため、選定プロセスの透明性を問う声が上がっている。非党派の表現の自由団体FIRE(Foundation for Individual Rights and Expression)の立法顧問John Colemanは「どの企業が選ばれ、なぜ他が排除されるのか、誰にも分からない。透明性がなく、法の支配への疑念を生む」と指摘した。OpenAIのSam Altmanも、安全性のテスト自体を批判したわけではないが、「政府が顧客を選ぶという考え方は好きではない」と自身のXへの投稿で述べた。

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遅延するFable 5と業界への波及

一般向けに設計されたClaude Fable 5は、Mythosと同一の基盤モデルを持つが、一部のセーフガードが有効化された形で構成されている。現時点では引き続き制限下にあり、再公開の時期は明らかになっていない。事情に詳しい関係者によると、AnthropicとWhite Houseの協議は週末をまたいで継続される見込みだという。

Fable 5の停止はAnthropicの事業に直接的な打撃を与えた。Glasswingパートナーをはじめとする企業が、最前線モデルへのアクセスを失ったまま業務を継続せざるを得ない期間が続いたためだ。Anthropicへの投資家の一部は、指令が発出された6月12日の週末に、今回の事態が企業の先行きに与える影響を検討するための非公式な連絡を取り合っていたとも報じられている。

波及は競合にも及んだ。OpenAIは6月27日、GPT-5.6の完全な一般公開を米政府の要請を受けて延期すると発表した。OpenAIの元ホワイトハウスAIアドバイザーでもあるDean Ball氏は、今回の一連の動きが「フロンティアモデルの開発者は政府の明確な承認なしには展開できないという認識を定着させた」と述べた。

前例となりうる今回の枠組みと、残された問い

今回のMythos 5再展開は、Anthropicと米政府の関係における転換点の一つである。ただしその経緯は単純ではない。Anthropicはこれに先立ち、軍の国内監視活動や完全自律型兵器システムへのAI使用を認める契約条件を拒否し、それが原因で米政府のサプライチェーンリスク指定を受けて提訴に至った。今年初め、Anthropicはその指定を不服としてTrump政権を訴えている。

こうした文脈を踏まえると、今回の「部分的な許可」は、敵対的とも友好的とも言い切れない微妙な関係の延長線上にある。両者が「今回の経緯が将来のモデル公開に向けた恒久的な政策枠組みの構築に役立てられる」ことを期待しているとされるが、具体的な枠組みはまだ見えていない。

同日、Trump大統領が署名した大統領令では、AI開発者が「対象フロンティアモデル」を信頼できるパートナーへ公開する前に、最大30日間政府に提供する任意的な枠組みが設けられた。この枠組みが実効性を持つかどうかは、今後のAnthropicとOpenAIの対応によっても左右される。

戦略国際問題研究所(CSIS)のアナリストで、元商務省高官でもあるKate Koren氏は「今回の対応は実務的な暫定措置だが、企業が更新されたモデルを広く公開できる仕組みという大きな問題は未解決のままだ」と指摘する。「モデルの広範な公開を可能にする仕組みが存在しない状態が続けば、中国が追いつく可能性が高まる」という懸念は、技術競争の観点から政府にとっても無視できない論点になる。

Claude Mythos 5の再展開承認は、交渉の一つの節目ではある。しかしFable 5の公開時期、政府が認めた「適切なセーフガード」の具体的な内容、そして今後の政府によるモデル審査プロセスの透明性といった問題は、依然として宙に浮いたままだ。