誕生から30年を過ぎ、一時は「枯れた技術」と見なされることもあったJavaが、今、劇的な転換点を迎えている。Azulが発表した「2026年 Javaの実態調査レポート(2026 State of Java Survey & Report)」は、企業が直面している苛烈な二極化を浮き彫りにした。一方は、生成AI(Generative AI)を商用環境でスケールさせるための「最強の実行基盤」としてのJavaへの再評価。もう一方は、Oracleのライセンス体系変更を端に発した、かつてない規模での「Oracle離れ」の加速である。
2,000人以上のエンジニアやIT意思決定者を対象としたこの調査結果は、もはやJavaが単なるプログラミング言語ではなく、企業のクラウドコスト最適化とAI戦略の成否を分ける「戦略的資産」に変貌したことを物語っている。
Oracle Javaからの大脱走:92%が抱く「ライセンスの恐怖」

今回の調査で最も衝撃的だったのは、Oracle Javaに対する不信感の広がりだ。回答者の実になんと92%が、Oracleの価格設定やライセンスモデルに対して「懸念」を抱いている。2025年の同様の調査では82%だったこの数字は、わずか1年でさらに悪化した。特に「非常に懸念している」と答えた層は、前年の19%から29%へと急増している。
この懸念の根源にあるのは、2023年に導入された「従業員数ベース(Employee-based)」のライセンスモデルだ。これは、実際にJavaを使用しているサーバー台数やユーザー数に関わらず、企業の全従業員数(パートタイムや一部の請負業者を含む)に対して課金されるという、極めて強力なモデルである。
「たった1つのコピー」が数億円の請求書に変わる罠
Oracleの現在のモデルでは、社内の誰か一人がOracle Javaの商用版をインストールしただけで、企業全体がライセンス料の支払い義務を負うリスクがある。たとえば、全従業員が2万人の企業において、Javaを必要とするのがわずか数百人の開発チームであっても、2万人分のライセンス料を支払わなければならない。
このモデルへの移行により、コストが従来の2倍から5倍に跳ね上がったという報告も珍しくない。この「Java税」とも呼べる重圧に耐えかね、81%の企業がすでに「Oracle JavaからOpenJDKへの移行」を開始、あるいは計画している。特筆すべきは、移行を検討している企業の63%が「全資産をOracleから引き剥がす」という強い意志を示している点だ。
移行を推進する最大の動機は「コスト削減(37%)」だが、それに次ぐ「オープンソースへの嗜好(31%)」や「監査リスクへの懸念(26%)」という回答は、Oracleという特定ベンダーによるロックインと、不透明な監査プロセスに対する強い警戒心を反映している。実際に、回答者の21%がすでにOracleによるJavaライセンス監査を経験しているという事実は、この懸念が単なる杞憂ではないことを証明している。
Pythonでプロトタイプを作り、Javaで「本番」を回す:AI開発の新常識
ライセンス問題で揺れる一方で、技術面でのJavaの存在感はかつてないほど高まっている。今回の調査では、企業の62%がAI機能の実装にJavaを利用していることが判明した。2025年の50%から大幅な伸びを見せており、AIブームが「実験」から「実運用のスケール」へとフェーズを移したことが背景にある。
データサイエンスやプロトタイピングの領域では依然としてPythonが優勢だが、いざ商用環境で大規模なリクエストを処理し、高い信頼性とセキュリティを維持するとなると、Javaの堅牢さと成熟したエコシステムが選好される傾向にある。
AI時代のJavaに求められる5つの能力
企業がJavaをAIスタックに組み込む際、特に重要視している要素は以下の通りだ。
- 最新バージョンへの長期サポート(35%):最新の言語機能と安定性の両立
- 組み込みのセキュリティ機能(34%):AIモデルとデータの保護
- オブザーバビリティ(32%):複雑なAI推論プロセスの可視化
- 大規模データへのアクセス(30%):テラバイト級のデータを効率的に処理する能力
- LLMとの統合(30%):大規模言語モデルを既存アプリへシームレスに組み込む機能
JavaMLやDeep Java Library(DJL)といったライブラリの成熟も、この流れを後押ししている。今や回答者の31%が「開発しているJavaアプリの半分以上にAI機能が含まれている」と述べており、JavaはAIを「動かす」ための基盤として確固たる地位を築きつつある。
クラウドコストという名の「見えない損失」:74%が抱える非効率
企業のIT予算において、クラウドコンピューティング費用は最大の支出項目の1つだ。今回の調査では、97%という圧倒的な数の企業がクラウドコストの削減に取り組んでいることが示された。その中で、41%の企業が「高パフォーマンスなJavaプラットフォームの採用」を主要なコスト削減戦略として挙げている。
しかし、現実は厳しい。調査対象企業の74%が、パブリッククラウド環境において「20%以上の未使用コンピューティング容量」を抱えていると回答している。
なぜ企業は「使っていないリソース」に課金し続けるのか
この非効率の裏には、Java特有の技術的課題がある。標準的なJavaランタイム(JVM)は、起動時のスピードや、ピークパフォーマンスに達するまでの「ウォームアップ」に時間を要することが多い。開発現場では、この起動の遅さや予測不可能なレイテンシ(GCポーズなど)をカバーするために、本来必要なスペックよりも高いインスタンスを割り当てる「過剰プロビジョニング(Overprovisioning)」が常態化しているのだ。
Azul Platform Primeのような高パフォーマンスJavaプラットフォームを採用している企業では、アプリケーション全体のパフォーマンス向上のためにこれらのツールを利用する割合が、Javaへの投資が深い企業ほど高くなる(61%から81%へ上昇)傾向にある。効率的なランタイムを選択することは、もはや単なる技術選定ではなく、クラウド支出という「蛇口」を締めるための経営判断となっている。
DevOpsを蝕む「負の遺産」:未使用コードとCVEノイズ
Javaの長寿命さは、一方で膨大な「技術的負債」という副作用を生んでいる。調査によると、63%のエンジニアが「デッドコードや未使用コード」によって生産性が低下していると回答し、そのうち22%はこの影響を「深刻」と捉えている。
さらに深刻なのが、セキュリティ管理における「ノイズ」だ。Javaに関連する脆弱性(CVE)への対応頻度は激増しており、56%の企業が「毎日または毎週」CVEへの対応を迫られている。これは2025年の41%から急激な増加だ。
問題は、その脆弱性が本当に危険かどうかである。
- 30%の回答者が、調査時間の半分以上を「結果的に誤検知(False Positives)だった脆弱性」の追跡に費やしている。
- これは、セキュリティスキャナーが「本番環境では一度も実行されないコードパス」にある脆弱性を警告し続けていることが原因だ。
この「CVEノイズ」は、本来AIなどのイノベーションに充てられるべき開発リソースを奪い続けている。
2026年、Javaエンジニアと経営層が進むべき道
本レポートが示す2026年のJava情勢は、「コストの合理化」と「技術の高度化」という、一見相反する二つの圧力を同時にコントロールすることが求められる時代である。
Oracle Javaのライセンス問題は、単なる費用の増加ではなく「ビジネスの柔軟性」を奪うリスクとして認識すべきだ。OpenJDKへの移行はもはや選択肢ではなく、多くの企業にとって不可避のミッションとなっている。同時に、AIという新たな波を乗りこなすために、Javaの持つスケーラビリティを最大限に引き出す戦略が必要だ。
Javaは死なない。しかし、そのあり方は「ベンダー主導の商用ライセンス」から「パフォーマンスと効率性を重視するオープンなエコシステム」へと、不可逆的なシフトを完了しようとしている。
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