米ブラウン大学の上級経済学科目で、持ち帰り中間試験の平均96点が、監督付きの対面期末試験では48.6点まで落ちた。担当教授は、ChatGPTを使った大規模な不正があったと主張している。ただし、この48ポイント近い差を、そのままAIが上乗せした点数とはみなせない。異なる試験を受けたうえ、期末までに受験者も27人減っているからだ。それでも今回の一件は、提出物だけを見て学生の理解度を測る仕組みが、生成AIによって機能しにくくなった現実を突きつけた。
96点と48.6点の間に起きたこと
問題が起きたのは、Roberto Serrano教授が担当する「厚生経済学と社会的選択理論」(ECON 1170)である。数理経済学を扱う上級学部科目で、例年は多くても30人ほどしか履修しない。2026年春は86人が登録した。
Serrano教授が試験方法を変えた背景には、2025年12月13日に学内で2人が死亡し、9人が負傷した銃撃事件がある。教室へ戻ることに不安を抱く学生へ配慮し、教授はブラウン大学で教えてきた34年間で初めて、資料参照を認めない持ち帰り試験を採用した。時間に余裕がある分、通常より難しい問題を出したという。
3月5日の中間試験は平均96点で、86人中40人が満点だった。過去の中間試験は平均65〜80点だったため、採点者は答案を精査した。すると、命題を素直に証明できる問題に対して、何人もの学生が回りくどい背理法を選ぶなど、不自然に似た解答が見つかった。試験問題をChatGPTへ入力すると、同じような解法が返ったと教授は説明している。
教授は学部長の了承を得て、期末試験を教室で実施すると学生に通知した。成績分布が中間試験と似ていれば中間の結果を採用し、大きく違えば無効にするという条件も示した。その後、18人が履修を取り下げ、登録を残した9人も期末を受けなかった。受験した59人の平均は48.6点で、3人が0点だった。中間試験は無効となり、期末の比重は50%から80%へ上がった。一方で合格線は50%から40%へ下げられたが、19人が科目を落とした。
これらの数字と経緯は、Serrano教授に独自取材したEl Paísと、学生への通知や大学広報の回答を確認したInside Higher Edが報じたものだ。大学の懲戒手続きで、個々の学生によるAI不正が確定したわけではない。
「AI使用の証明」にはならない数字
平均点がほぼ半分になった事実は重い。だが、これはAIの学習効果を測った対照実験ではない。持ち帰り中間と対面期末では問題が違い、使える時間も環境も異なる。さらに、86人のうち27人は期末を受けておらず、同じ集団をそのまま比較していない。48.6点を「AIを外した学生の実力」と呼べば、データの意味を広げすぎる。
一方、試験条件の違いだけで今回の異常を片づけるのも難しい。教授は持ち帰り試験を通常より難しくしたと説明しており、それでも平均は過去の範囲を超えた。満点者は40人に達した。対面試験を告知した後に27人が受験から離れ、残った59人の平均は過去の期末最低値65点も下回った。答案の解法もChatGPTの出力と似ていた。個別の不正を認定する証拠とは別に、評価結果が通常の範囲から大きく外れたことは否定しにくい。
ここで大学は二つの異なる判断を迫られる。成績を学習の指標として扱えるかという授業運営上の判断と、誰が規則に違反したかという懲戒上の判断である。前者は分布の急変を根拠に試験を組み直せる。後者は学生ごとの答案と手続きを要する。

この違いが、教員と大学の対立にも表れた。Serrano教授は5月、学術規程を扱う委員会へデータを提出したが、その後、学生ごとの申立てと答案の提出を求められたと説明している。これに対し大学広報は、正式審理に必要な手順を案内したものの、教授から必要な詳細が提出されていないと回答した。大量の疑わしい答案を一件ずつ立証する負担と、誤認を避けるため個別に審理する原則がぶつかっている。
試験問題の前から進んでいた51ページのAI報告書
ブラウン大学は2026年7月7日、教育と学習における生成AI委員会(GAITL)の51ページに及ぶ最終報告書を公表した。報告書の草案は2月に大学へ提出されており、今回の試験問題を受けて作られた文書ではない。しかし、そこに記された制度上の弱点はECON 1170の一件と重なる。
大学は2023年、生成AIの利用可否を一律には決めず、各教員が授業ごとに明確な規則を示す方針を採った。無許可のAI利用は学術規程違反になり得るが、何をどこまで許すかは科目によって変わる。GAITLは今回、全学共通の基準を設けたうえで、学部・学科、授業、課題の各段階で例外や追加条件を明記するよう提言した。学生が毎回違う暗黙の規則を推測する状態を終わらせる狙いである。
報告書は、2025年10月に寄せられた697人の回答もまとめた。回答者は学部生147人と大学院生・医学生276人、教員105人だった。これに職員169人が加わる。無作為に選んだ調査ではないため、大学全体の比率とはみなせない。それでも、学部生回答者の88%が長期的な学習の低下を、87%が認知能力への悪影響を、74%が学生の不正を懸念した。教員ではそれぞれ95%、80%、75%だった。学生と教員は、AIへの賛否を超えて「学ぶ過程が抜け落ちる」危険を共有している。
GAITLが処罰の強化を第一案にしなかった点も重要だ。報告書は、生成AIの使用を100%正確に判定する方法はないと明記し、厳しい禁止と処罰への偏重を避けるよう求めた。その代わりに、人が最終責任を負うこと、完成品より作業過程を見ること、許可範囲を具体的に伝えることを原則に置いた。この一般原則に照らせば、検出器で不正者を一括抽出する方法では、多数案件を公平に処理するのは難しい。
禁止・検出より、評価を二層にする
対面試験へ戻せば、本人がその場で何を解けるかは確認しやすい。だが、GAITL報告書はその限界も認める。複雑な問題解決や文章の推敲、証拠の収集と分析は、数時間の試験に収まりにくい。監督付き試験だけへ戻れば、AI不正を減らす代わりに、大学で育てたい能力の一部を測れなくなる。
現実的な設計は、本人確認を伴う短い評価と、時間をかける課題を二層に分けることだ。授業内の小テストや口頭説明で基礎理解を確かめ、長期課題ではテーマ設定、資料選び、初稿、修正理由を段階ごとに確認する。AIを許可する課題なら、どの場面で何に使い、出力をどう検証したかも評価対象にできる。完成した答案だけを採点するより、学生が考えた痕跡を追いやすい。
ECON 1170が残した最大の教訓は、平均点の落差そのものより、96点の意味を授業中に検証できなかったことにある。ブラウン大学は今夏、全学向けのAI利用方針案を作り、秋に学内協議を始める。そこで確認すべきなのは、禁止文言が厳しくなるかではない。学生本人の理解と、AIを使って仕上げた成果物を、成績表の中で別々に測れる仕組みへ移れるかである。