データセンターが出す音といえば、サーバーファンのホワイトノイズを思い浮かべる人が多いだろう。だがバージニア州ブリストウに住むDonna Gallant氏にとって、それはホワイトノイズではない。Googleの「Mango Farm」データセンター複合施設が近隣で稼働するたび、彼女は「内臓が振動する感覚」に陥るという。「荷重試験が行われるたびに、本当に眠れなくなる。それは体の芯から揺さぶられる感覚で、完全に不自然なものだ」と彼女は語った。窓の防音工事に多額の費用をかけた後も、その音は消えなかった。市への苦情申請も、設備オーナーへの直談判も実を結ばなかったのだ。
データセンターは何dBの音を出すのか
単体のサーバーはそれほど大きな音を出さない。問題はその規模にある。数万台のサーバーが格納されたコンピューティングウェアハウスでは、冷却ファンの合成音が96dBに達することがある。これは芝刈り機や工事現場の掘削機と同程度の音圧だ。さらにデータセンターはその音を24時間365日、一切停止することなく放出し続ける。
データセンターの電力消費量の約40%は冷却システムに費やされる。空冷方式を採用した施設では、数千台もの産業用ファンが常時稼働し、施設から数百フィートの範囲まで騒音を届ける。Environmental and Energy Study Institute(EESI)の調査によれば、冷却システムの低周波騒音は一般的な騒音計では正確に測定できず、周辺住民が健康被害を訴えても行政が動けないケースが続出している。
停電時や電力需要のピーク時に備えたディーゼルバックアップ発電機も、深刻な騒音源として機能する。稼働時には最大105dBの音圧に達し、これはスノーモービルを上回り、間近でクラクションを鳴らされる音に匹敵する。加えて年間最大50時間の定期試験が義務付けられており、住民は時刻を問わず突然この爆音に晒される。
オンプレミスのガスタービン発電機を導入しているデータセンターは状況がさらに深刻だ。Elon Musk氏のColossus Supercomputerが稼働するミシシッピ州サウスヘイブンでは、27基の天然ガスタービンが昼夜を問わず轟音を響かせている。これらのタービンはジェットエンジンと同等の騒音を発生させ、しかもバックアップ電源とは異なり停止することがない。米国内では現在、46件の計画・許可済み・建設中のデータセンターがオフグリッドのガスタービンで自家発電しており、周辺住民は事実上「空港の隣に住む」状況に置かれつつある。
計測できない音:インフラサウンドという新たな火種
騒音問題をさらに複雑にしているのが、可聴域以下の超低周波音「インフラサウンド」の存在だ。人間の耳が聴き取れる周波数帯は概ね20Hz以上とされているが、インフラサウンドはそれを下回る。音として「聞こえない」が、体に「感じられる」ことがある。地震や火山活動が生み出すような圧力波であり、HVACシステムや冷蔵庫などの大型回転機械も微細なインフラサウンドを発生させる。
データセンターでは、大型計算機・冷却ファン・回転式ガスタービンといった複合的な振動源が重なり合う。Quiet Parks InternationalのエグゼクティブディレクターでアコースティシャンのEthan Bourdeau氏は、データセンターが発する「一定のドローン音」がサブハーモニクス周波数を伴っている可能性を指摘する。
地方政府が手を打てない構造的な理由は、既存の騒音規制が対応できていない点だ。一般的に騒音規制ではA特性重み付け(A-weighted)の騒音計が用いられる。これは人間の聴覚特性に合わせてフィルタリングを施したものであり、低周波や超低周波の成分を実質的にカットしてしまう。インフラサウンドを計測するにはC特性(C-weighting)やG特性(G-weighting)などの別の加重方式が必要だが、ほとんどの自治体の条例はA特性を前提としている。インフラサウンドによる健康被害はまだ因果関係が確立されていないが、一般的な騒音(85dB以上)による聴覚障害や高血圧のリスクはWHOを含む複数の機関が認めている。この非対称性——証明済みのリスクと証明されていないリスクが混在する状況——が、規制論議をさらに複雑にしている。
National Parks Conservation AssociationのKyle Hart氏は、「データセンターの騒音は複数の周波数帯にわたるため、デシベルメーターでの測定が困難だ。信頼性のある計測データがなければ、条例を施行する根拠がない」と指摘する。
テキサス州Red Rock市では、環境団体Public CitizenのAdrian Shelley氏がデータセンターのインフラサウンドをカバーするよう条例改正を求めた。「現行の騒音条例は可聴音しか対象としていない。インフラサウンドは壁を通り抜け、地面を伝わり、生態系にまで影響を及ぼす」と彼は市議会で主張した。メリーランド州Calvert郡やペンシルベニア州Lebanon郡でも同様の訴えが行政に届けられており、インフラサウンドをめぐる論争は全米規模に広がっている。
バージニア州「データセンターアレー」の公衆衛生危機
北バージニア地域は「Data Center Alley」と呼ばれ、300以上のデータセンターが集積する世界最大のデータセンター集積地だ。世界のインターネットトラフィックの最大70%がここを通過するとも言われている。
ジョージマンソン大学の気候コミュニケーションセンターで研究するNeha Gour氏らが学術誌Frontiers in Climateに発表した研究によれば、データセンターのAI需要が増大した場合、米国のデータセンターによる大気汚染に伴う公衆衛生コストは2023年の60億ドル超から2028年には200億ドル以上に膨らむ可能性がある。さらに同年までに、喘息症状の悪化が約60万件、早死が約1,300件に上るとの推計もある。
Gour氏の研究ではバージニア州の特殊事情も指摘されている。同州は電力発電における化石燃料依存度が高く、データセンターのラウンドザクロック運用が温室効果ガス排出量と大気汚染を悪化させている。大規模な停電が発生した場合、バックアップディーゼル発電機に依存するデータセンターは「年間の排出許容量をわずか数日で使い切る」事態になりかねない。カリフォルニア大学リバーサイド校のShaolei Ren准教授はこれを「健康の地震」と形容した。
バージニア州Prince William郡では、騒音被害を訴える住民が議会に対しノイズ条例の大幅な強化を求めてきたが、住民諮問グループは郡によって解散させられ、最終的に採択された条例は住民提案より大幅に骨抜きされたものとなった。住民グループが2024年に新規データセンター9棟の建設差し止めを求めた訴訟は、裁判所によって却下されている。
一方、2025年3月には三人の判事で構成されるパネルが、Manassas National Battlefield Park近接の2,100エーカーを超えるデータセンター計画を差し止める判断を下した。郡の監督委員会もバージニア州最高裁への上訴を見送った。住民の反対運動は着実に開発を阻んでおり、Data Center Watchの調査では2024年3月から6月の間に推定総額980億ドル相当の20件のプロジェクトが中止・延期されたという。
アリゾナ州チャンドラー——10年に及ぶ住民闘争
チャンドラーの事例は特異ではない。アリゾナ州Chandlerの住宅地Brittany Heightsは2014年末にデータセンターが進出するまでは静かな地域だった。以来、冷却設備が発する断続しないハミング音が住民を苦しめ、防音イヤーマフや耳栓も効果がなかったという。
約10年間の住民反発を経て、Chandler市は2022年にデータセンターの立地を困難にするゾーニング条例の改正を行った。2025年には市議会が新たに提案されたデータセンター計画を満場一致で否決し、騒音懸念が反対意見の中核を占めた。
アーカンソー州Greenbrierでは2023年5月にビットコインマイニングセンター(エネルギー集約型データセンターの一形態)が稼働を開始すると、高速ファンが発するハミング音が数マイル先まで届き、住民の血圧上昇や不安障害が報告されている。テキサス州Granburyでは、6万台のコンピュータを収容するビットコインマイニング施設の騒音で、めまい・吐き気・高血圧・偏頭痛・耳からの液体分泌・不眠症など多岐にわたる健康被害を訴える住民が続出している。施設はモバイルホームパークからわずか100ヤード以内に立地している。
規制の空白と対策技術の現状
データセンターの騒音規制は現在、州・自治体レベルのゾーニング条例に委ねられている。連邦レベルでは1970年のClean Air Actで設置されたEPAの騒音規制部門(Office of Noise Abatement and Control)がかつて機能していたが、Reagan政権が1981年に予算を廃止し、規制権限は各州・自治体に移譲された。EPAは法的には騒音研究と公衆衛生影響の調査権限を保持するが、執行力は事実上失われたままだ。
ほとんどの地方条例は騒音の多い住宅街のパーティを想定して書かれており、24時間稼働し複合的な周波数を発するデータセンターには対応していない。データセンターはゾーニング上オフィスビルと同カテゴリ(非工業施設)に分類されるため、住宅地の近隣への立地が法的に可能な状態になっている。
技術的な対策としては、サーバーラックへの防音フォームや吸音マット、音響タイルの設置から、冷却チラー向けのコンプレッサー防音ブランケット・ファンサイレンサー・防音カーテンの活用、建物周囲への音響バリアや防音シールドの設置、そして液浸冷却(Immersion cooling)への移行などが挙げられる。液浸冷却は合成液体冷媒にサーバーを浸して直接冷やす方式であり、大型ファンが不要になるため騒音と消費電力の双方を削減できる。しかし初期投資コストの問題から大規模導入は進んでいない。
Amazonは北バージニアの一部施設で音響シュラウドを後付けする方針を打ち出しているが、あくまで個社の対応にとどまる。液浸冷却の普及コストと業界全体の導入ペースを踏まえると、技術的解決が規制的解決を先行する見通しは現時点では薄い。
バージニア州では2025年4月、Abigail Spanberger知事がデータセンター申請者に騒音・環境影響評価を義務付ける法案に署名した。前任のGlenn Youngkin知事が一度拒否した法案だったが、ついに成立に至った。Prince William郡の州議会議員Josh Thomasは「バージニア州全体の定義的な問題だ」と述べており、この州法がデータセンター規制の全米的な先行事例となるかどうか注目される。
インフラサウンド議論の政治的文脈
インフラサウンド問題は科学的な議論と政治的な思惑が入り混じる複雑な局面も抱えている。音響エンジニア・Benn Jordan氏が制作した動画「データセンターが音響兵器として機能する」という主張を含む動画は100万回超の再生を記録し、ネット上で激しい論争を引き起こした。これに対し有効利他主義(Effective Altruism)系ライターのAndy Masley氏が科学的反論を展開し、議論は今なお収束していない。
注目すべきは、RFK Jr.が米国保健福祉省長官として上院委員会でデータセンターとEMF(電磁界)の騒音問題に関するメタレビューや基礎研究を外科総監室に依頼したと証言した点だ。「神経疾患やがんリスクなど、非常に重篤な健康被害が十分に文書化されている」と彼は主張した。ただし、インフラサウンドが実際に深刻な公衆衛生リスクをもたらすかどうかについては、査読を経た科学的コンセンサスはまだ存在しない。
この問題が風力発電のインフラサウンド問題と同じ政治的文脈で利用される可能性も指摘されており、Heartland Instituteなど化石燃料寄りの団体が過去に風力タービンのインフラサウンドを再生可能エネルギー反対の根拠として用いてきた経緯がある。インフラサウンドをめぐる科学的不確実性が、政策形成の道具として使われてきた歴史は長い。データセンター問題がその轍を踏むかどうかは、行政が計測基準の整備と独立した研究資金の確保をどれだけ迅速に進められるかにかかっている——という構図そのものが、この問題の政治的複雑さを映し出している。