1998年、まだ社名が検索エンジンそのものだったころの小さな会社が、ロゴ作業をXCFに残した。GIMP公式は、そのファイルが現行版でも同じ見た目で開くことを、互換性の証拠として挙げている。

作業ファイルを何十年も同じ容器に入れ続けると、中身の道具は増えても容器の形は当時のままになる。GIMPの作業単位は長らく、レイヤ、選択、パス、ガイドまでを一つのバイナリに詰めるXCFだった。名前はカリフォルニア大学バークレー校のeXperimental Computing Facilityに由来し、最初の公開は1997年12月15日である。

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バイナリの作業ファイルが抱えてきた負荷

XCFはGIMP内部の状態をほぼそのままディスクへ写す。開発者自身が、交換用フォーマットとしては勧めてこなかった。内部構造が変わればファイルも微修正され、他ソフトは追従しにくい。OpenRasterという、OpenDocument型の共通ラスタ案をKrita側と検討した経緯もあるが、普及は限定的だった。

圧縮も段階的だった。GIMP 2.10.0(2018年4月27日)より前の版では画素は主にRLE(連長圧縮)で、gzip、bzip2、xzの外側圧縮に頼ることも多かった。版4以降はzlibも使える。それでも容器そのものは、巨大な案件を「必要な塊だけ読む」向きには設計されていない。

メンテナのJehanがこの数か月で力を入れているのが、その容器の作り直しである。2026年8月16日付の公式開発報告は、XCFが1997年以来の主形式だと明記し、巨大で複雑な案件、とくにGIMP 3.6で計画する複数ページとアニメーションを載せにくいと書いた。新形式はよくある「zipped XML」(ZIPで固めたXML)構造を取る。詳細は設計と実装の途上だが、保存時にファイル全体ではなく変更した部分だけを更新できるようにし、自動保存も現実的になる、とチームは説明している。

開発者向けロードマップでは「New XCF format」はDiscussed(議論段階)で、アーカイブ型なら必要なデータだけを後から読め、ページやアニメーションのような大きな案件を扱いやすくなる、と注記されている。Auto-saveの欄はNoで、新形式とGEGLバッファ(画像処理ライブラリGEGLが持つ画素の置き場)に依存するとある。つまり自動保存はファイル形式の後工程である。

XCFは消えない。今後のGIMPも既存XCFの読み込みを続ける。ただし確定後は、新機能の保存と読み込みを新形式にだけ足す方針だ。旧ファイルは開けるが、新しい能力は新しい容器にしか載らない。Neowin(2026年8月17日)は、XCFが互換用へ退き、将来機能は別形式へ移る、と要約している。形式の正式名称は公式報告でもまだ出ていない。

項目 現行XCF 設計中の新形式
登場 1997年(初期公開は同年12月15日) 2026年8月時点で設計と実装中
構造 GIMP内部に近いバイナリ ZIPで固めたXML
保存 原則としてファイル全体を書き直しやすい 変更箇所だけの更新を狙う
大きな案件 複数ページ、アニメーションに不利と公式が指摘 3.6向けページ、アニメの土台
自動保存 ロードマップ上は未着手(形式依存) 実現しやすくなると公式が説明
互換 旧XCFは今後も読み込み 新機能の保存は確定後に新形式限定

Office文書がOOXMLやODFで「中身はXML、外側はZIP」になった理由と重なる。テキストとして差分が追いやすく、巨大バイナリを毎回丸ごと書き換えなくてよい。GIMPが狙うのはその構造的な利点であり、見た目の新しさではない。

3.4系で同時に進む編集と交換の土台

新形式だけが8月の報告ではない。対象は開発系列GIMP 3.3.2に載せる予定の機能群で、安定版3.2.6は数週間以内のバグ修正中心だとチームは書いた。3.3.2の公式開発版はまだ出ておらず、nightly(日次ビルド)での先行確認を案内している。

非破壊編集(画素を確定せずフィルタを積み重ねる方式)では、Alx Saがレイヤマスクへ非破壊フィルタを載せられるようにした。Rejuがフィルタ用ポップオーバーを直し、レイヤとマスクの生きた効果を同じ画面で扱える。グラデーションツールは「Editable Gradient」をオンにするとフィルタスタックへ入り、表示の切り替え、並べ替え、削除、再編集ができる。ダイアログのないInvertなどは、グループ、リンク、テキスト、ベクタなどラスタ以外のレイヤにも非破壊で載せられる。

Adobe PhotoshopのPSD周りは独立節になるほど手が入った。Frank TekloteはTIFFとJPEG向けにPSDメタデータの書き出し手順を足し、既存の読み込みと対になる。パス付きJPEGやレイヤ付きTIFFをGIMPで作っても、書き出し側に情報が残る。Jacob BoeremaはPSD Descriptor(2019年更新の公開仕様に載りきらない、比較的文書化の薄いテキスト形式)の読み込みを実装した。これによりテキストレイヤが編集可能になり、一部の調整レイヤや新しいレイヤスタイルがGEGL相当として現れ、単色シェイプはベクタレイヤとして入る。GSoC(Google Summer of Code)のAkascapeとWaris Maqboolもこの領域にいる。

MyPaintブラシにはCassidie GroganがSpectral Blending(分光的な混色)を足した。黄と青が暗い黄ではなく緑に近づき、赤と黄がオレンジになる、という物理顔料寄りの混ざり方をシミュレートする。強さはPigmentスライダ。Michael Nattererはブラシプレビューを48x48画素固定から実寸表示へ直し、大画面でのぼやけを減らした。

UIではDenis Rangelovがレイヤロックアイコンを揃え、カーソル78個をすべてSVG化した。高解像度でもギザギザが増えにくい。woot000はキャンバス回転時に市松の透明パターンまで回っていたせいで描画とズームが重くなる問題を切り、パターンは回転させないようにした。一定以上の拡大で市松が消える不具合も直している。Alx SaはGTK付属のファイル選択を、Windows、macOS、KDEなど各環境の標準ダイアログへ移し始めている。単純なダイアログは済み、付加機能の多いものは作業手順の再設計が残る。

セキュリティ面ではJacob BoeremaとAlx Saが一部画像プラグインの報告にパッチを当てた。Waris MaqboolのSharpenはGEGLへマージされ、次のGEGLリリースに入る。Dimitriy RyazantcevはWindowsのICO、CUR、ANI読み込みを仕様に近づけ、32bit ICOの描画も直した。

Phoronix(2026年8月16日)は、XCFから約30年を経て新形式が視野に入ったこと、ZIP+XMLで大きな複数ページ案件と自動保存が扱いやすくなること、XCF互換は維持する方針を短く伝えた。

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形式が決まっても残る実装上の空白

公式は「技術詳細はまだ設計と実装の途中」と繰り返している。拡張子、MIME、GEGLバッファをアーカイブ内のどこに置くか、クラッシュ時の部分書き込みをどう閉じるかは、8月の文章からは読めない。ロードマップ上の自動保存がNoである以上、新形式の骨格が先で、定期保存の製品化は後になる。

第三者ツールの立場も変わる。Wikipediaが列挙するように、Krita、ImageMagick、MediaWiki、各種ビューアはXCFを部分的に読んできた。索引色や複数レイヤ、新しい版番号で落ちる例は以前からある。GIMP 3.0.0(2025年3月16日)以降のXCFは版15と開発者文書にあり、開発版で保存したファイルが安定版で「unsupported XCF file version」になるトラブルも過去にあった。新形式がZIP+XMLなら中身の覗きやすさは上がる一方、仕様が固まるまで他ソフトは実装しにくい。OpenRasterとの関係も、今回の公式報告では触れられていない。

1998年のロゴXCFが今も同じに見える、という話は読み込み互換の強さだ。書き込み側を止める判断は、その強さを守るための割り切りでもある。新機能を旧容器に継ぎ足し続ければ、版番号は増え、古いGIMPや外部リーダはまた置いていかれる。

未検証なのはスケールである。複数ページやコアのアニメーションは3.6のWIP(作業中)で、新形式がその前提だと公式は書く。どれだけのページ数、何フレーム、何ギガバイトまで部分更新が効くかは、3.3.2にも安定版にもまだ載っていない。Nightlyで壊れたアーカイブを踏む人は、互換の歴史を自分の作業ファイルで試すことになる。容器を替えても、中身の画素と履歴が安全に戻るかは、これからの実装と再現でしか決まらない。